子どものSNSが危ない!10代に広がる“遊びの乗...
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「なぜ、全部食べてしまうのか?」 “食いつくし系”を生み出さないために、いま家庭と社会ができる教育の話
ビジョナリー編集部 2025/12/26
冷蔵庫にあったおかずが、いつの間にか消えている。「みんなで食べよう」と置いてあったお菓子が、気づけば一人分も残っていない。——そんな場面に、心当たりはありませんか。
近年、「食いつくし系」という言葉がSNSやメディアで広く知られるようになりました。一見すると些細な生活習慣の問題に見えますが、その背景には、幼少期の教育や家庭環境、そして社会全体の価値観が深く関わっています。
本記事では、いわゆる「食いつくし系」と呼ばれる行動を“問題行動”として断罪するのではなく、なぜ生まれるのか、どうすれば生み出さずに済むのかという視点から、教育的観点で掘り下げていきます。
「食いつくし系」はなぜ生まれるのか--行動は環境でつくられる
まず押さえておきたいのは、「食いつくし系」は大人になって突然現れる性格ではないという点です。
多くの場合、その芽生えは子ども時代のごく日常的な場面で育っています。食卓での何気ない声かけ、兄弟姉妹との取り合い、「残してはいけない」という善意のしつけ。
こうした経験が積み重なることで、「あるものは自分が食べ切るもの」「残すより食べるほうが正しい」といった価値観が、知らず知らずのうちに形成されていきます。
教育の現場で見落とされがちな“共有”の学び
学校教育や家庭教育では、「感謝して食べる」「好き嫌いをしない」といった食育は重視されてきました。
しかし一方で、「他者と分け合うこと」や「相手の分を想像すること」は、意外にも明示的に教えられる機会が多くありません。
たとえば、「最後の一つはどうするのか」「今いない人の分はどう考えるのか」「自分が満たされた後、周りはどうか」といった問いかけは、単なるマナー指導ではなく、社会性そのものを育てる重要な教育機会です。
「残さず食べなさい」が生む、思わぬ落とし穴
日本の家庭では長く、「食べ物を残すのは悪いこと」という価値観が共有されてきました。
これは、食料事情や文化的背景を考えれば、とても大切な教えです。
しかし、その意味や前提を十分に補足しないまま大人になると、「目の前にあるものは食べ切るのが正しい」「残すくらいなら自分が全部食べたほうがいい」「食べないことはもったいない」といった思考が固定化されやすくなります。
その結果、「他の人がどう思うか」「本来誰のためのものか」という視点が、後回しになってしまうのです。
教育として重要なのは、「残さないこと」よりも、「どう分けるか」をセットで伝えることだと言えるでしょう。
食いつくし系を生まない家庭教育--3つの視点
①「早い者勝ち」を当たり前にしない
兄弟姉妹が多い家庭や、忙しい家庭ほど起こりやすいのが「早い者勝ち」の文化です。
早く来た人が多く取る、取られたら自己責任——そうした環境で育つと、「取らなければ損」「考える前に確保する」という行動原理が身につきやすくなります。
だからこそ教育的に大切なのは、分配のプロセスに大人が意識的に介在することです。
最初に人数分を分ける、順番を決める、量に差がある場合はその理由を説明する。こうした経験が、「自分の欲求を一瞬止めて、全体を見る力」を育てていきます。
②「自分の分」「人の分」を言語化する
子どもは、思っている以上に“空気”を読みません。だからこそ、大人が言葉で境界線を示すことが重要です。
「これは明日の朝ごはん」「これはお父さんの分」「これはみんなで分けるもの」といったように、誰のためのものなのかを具体的に伝えることで、「食べてもいい/いけない」の判断基準が育ちます。
この感覚は将来、お金や時間、仕事の分担など、あらゆる共有資源の扱い方につながっていきます。
③ 感情ではなく「影響」を伝える
「全部食べたらダメでしょ」「どうしてそんなことするの」
こうした感情的な叱り方は、行動の是非よりも「怒られたかどうか」だけを残してしまいがちです。
代わりに有効なのが、行動が他者に与える影響を伝える教育です。
「楽しみにしていた人が悲しむ」「次に使う予定が狂う」「信頼が減ってしまう」
このように具体的な影響を言葉にすることで、共感力や想像力が育っていきます。
学校・社会教育で必要な視点
食いつくし系を生まない教育は、家庭だけの責任ではありません。
学校や集団生活の中でも、給食の分配や行事でのお菓子配布、共同作業の役割分担などは、絶好の学習機会です。
「余ったらどうするのか」「誰かが足りなかったらどうするのか」。
こうした問いを教師や大人が投げかけることで、子どもたちは自然と“自分以外の存在”を意識するようになります。
大人になってからでも「教育」は可能か
すでに食いつくし系的な行動が見られる大人に対して、「もう性格だから仕方ない」と諦めてしまう人も少なくありません。
しかし実際には、明確なルールとフィードバックがあれば、行動は修正可能です。 重要なのは、責めることや正そうとすることではなく、期待されている行動を具体化し、共有のルールを明文化することです。
教育とは年齢に関係なく、環境設計とコミュニケーションによって続いていくものなのです。
精神的な問題から「食いつくし系」になる場合もある
中には、理性で食欲をコントロールできない人も一定数いて、ADHD(注意欠如多動性障害)やASD(自閉症スペクトラム)が原因になっているケースもあります。
何度注意したり、ルールを決めたりしても変わらない場合には、専門家に相談した方がよい場合もあります。
「食いつくし系」を生まない教育がもたらすもの
このテーマの本質は、食べ物そのものではありません。
他者を想像する力、欲求を一瞬止める力、社会の中で共に生きる感覚。これらはすべて、これからの社会でますます重要になる力です。
食いつくし系を生まない教育とは、「自分さえよければいい」から、「全体を見て行動できる人」へと育てる教育にほかなりません。
まとめ——小さな食卓から、社会性は育つ
食卓は、最も身近な社会です。そこで「どう分けるか」「誰を思い浮かべるか」を学ぶことは、将来の人間関係や仕事、パートナーシップにまで影響します。
もし今、「うちの子は大丈夫だろうか」「これでいいのだろうか」と感じる瞬間があるなら、それは教育を見直す絶好のタイミングです。
“食いつくし系”を生まないための教育は、今日の一食から、静かに始めることができます。


