「この会社に入れば人生ハッピーになる」――亀田製...
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「地域と共にある会社」——京急電鉄・川俣社長が語る、地域・顧客・事業の価値を最大化する経営
ビジョナリー編集部 2026/06/02
関東有数の交通インフラを担う、京急電鉄。ライフスタイルの変化により鉄道業界を取り巻く環境が激変する中、同社は従来のビジネスモデルの枠を超え、次々と新たな挑戦を打ち出している。その陣頭指揮を執るのが、川俣幸宏取締役社長だ。キャリアの半分以上をホテル事業で過ごしたという異色の経歴を持つ同氏の原点には、「お客様が本当に求めているものは何か」を追求し続ける強い信念があった。三浦半島の地域共創から、世界が注目する品川の巨大開発プロジェクト、さらには次世代を担う組織のあり方まで。沿線地域の「伴走者」として歩む京急電鉄の、次なる100年へ向けたビジョンを紐解く。
ホテル事業での苦労が原点。「鉄道会社の常識」を変え、お客様と向き合う
川俣社長のキャリアの歩みを振り返り、ご自身の経営哲学を形成された原点はどこにあるのでしょうか。
私のキャリアの半分以上は、ホテル事業での経験が占めています。ホスピタリティが究極に要求される商売の中で、周辺事業や営業を経験し、上手くいかないことばかりでしたが、非常に大きな学びを得ました。あれこれと考えて商品を作っても、簡単には売れません。なぜなら、お客様が本当に求めているものは、ご本人すら意識していない「無意識の心地よさ」だったりするからです。お客様の求めているものをどうやって見極め、半歩先を行って提供できるか。これを考え続けた日々が、私の考え方の原点になっています。
今でも社員には「お客様と向き合い、お客様にとって何を提供すべきか考えよう」と言い続けています。なぜなら、鉄道会社というのは本来、自社のエリアを独占して走れるため、ともすれば「自分たちの都合で商売をする」というクローズで保守的なマインドに陥りがちだからです。
もちろん、安全に安定的に事業を続けることは我々の大前提です。しかし、その前提を守りつつも、一歩飛び越えて工夫すれば、お客様に喜んでいただくことができ、事業も成長します。安全を絶対の前提としながら、どこまで自由度を上げて新たな価値を生み出せるか。 データも活用して移動の目的を紐解きながら、先を読む。今、社内でもその意識が少しずつ芽生え、マインドが変わりつつあると感じています。
主役ではなく「伴走者」。多様なパートナーと創る三浦半島の未来
三浦半島でのMaaSの取り組みなど、地域との共創において大切にされている価値観を教えてください。
我々は現在、「newcal(ニューカル)」というデジタルプラットフォームを展開しています。通常のMaaSとしての検索・予約・決済の機能にとどまらず、最終的には地域の情報源や掲示板のように、まちの人々に使っていただくことを目指しています。
移動とまちづくりは表裏一体です。我々は自社ですべてを抱え込むのではなく、「場を作ること」と「繋ぎ役」に徹しています。 例えば、タクシーや駐車場などのモビリティに強い事業者様、あるいはリゾートホテルの運営ノウハウを持つ企業様に、我々が作ったプラットフォームや土地に乗ってきていただく。そうやって外部の方々と価値を共創し、お互いに価値を提供し合いながらスパイラルアップさせていくのが我々の戦略です。
我々は決して主役ではありません。あくまで地域の「伴走者」です。最終的には、地域の方々に自走していただくのが理想です。現在、駅の遠隔化や無人化を進めていますが、将来的には、まちの玄関口である駅を地域のコミュニティ拠点として活用し、地域の方々に支えていただけるような構想も描いています。
アクセス至便な品川を起点に、沿線全体の価値を高める巨大プロジェクト
他業種の企業様との協業をはじめ、品川駅周辺の大規模なまちづくりについてはどのような展望をお持ちでしょうか。
品川は今後、新宿や渋谷、あるいは東京駅周辺に匹敵するような、非常に広域で大規模なまちづくりが進みます。その最大の特徴は、新幹線、リニア中央新幹線、羽田空港直結、そして地下鉄の乗り入れといった「圧倒的なアクセス量」です。単なる乗り換えの通過点だった品川を、 『人が集まる意味のあるまち』『滞在して楽しめるまち』 へと変えていかなければなりません。
その中で、パートナー企業と共にまちづくりができることは非常に大きな意味を持ちます。中には「期待以上に、品川のまちで一番の会社になるよう頑張ります」と言ってくださる企業様もおり、世界中から人を集めるべく、力をお借りしながら広げていきたいと考えています。
我々の役割は、品川の強力な力を沿線全体へ波及させていくこと です。品川と羽田空港を結び、さらには新たなイノベーションの拠点となる京浜臨海部、エンタメのまち・横浜、そしてリゾート地である三浦半島へと繋げていく。移動の概念が大きく変わろうとしている中で、沿線全体の価値を高めると同時に、品川自体の価値もさらに押し上げることができると考えています。
羽田空港の機能強化と、日本の玄関口としての「おもてなし」
羽田空港を取り巻く環境も変化していますが、空港アクセスを担う貴社の戦略をお聞かせください。
まずは輸送力を増強し、お客様に少しでも快適に移動していただけるよう、羽田空港第1・第2ターミナル駅での引き上げ線整備などを含めたキャパシティの向上に努めています。また、京成電鉄様と連携し、羽田と成田、そして都心とのアクセス向上を図ることで、首都圏の空港アクセスを担う会社としてお互いに事業効率を高めていきます。
さらに、羽田空港第3ターミナル駅は単にお客様が通り過ぎるだけの場所ではなく、日本の玄関口です。現在、駅構内で「民族衣裳文化普及協会」の先生方による本格的な着物の発信拠点を開設したり、寿司の形をした靴下や、紙に結晶が咲く「マジック桜」といったユニークなお土産を提供したりしています。帰国される海外のお客様に、お出迎えやお見送りの空間として、最後にもう一つ日本での思い出をつくって帰っていただけるような環境整備にも力を入れています。
資産回転型モデルへの転換と、イノベーションを生む新たな組織体制
長期保有から「資産回転型モデル」への転換という、大きな戦略変更に踏み切られました。それに伴う組織の構想を教えてください。
これまでは資産を取得し、長期保有して賃貸事業で収益を上げるモデルでした。しかし、アセットが重くなり資本市場からも資本効率が問われる中、目的である「価値の最大化」を果たすために、資産をより柔軟に回転させるモデルへと舵を切りました。保有し続けるだけでなく、時には売却し、次の成長事業へと資金を振り向けていく。その最適化をコントロールするために、「CRE戦略部」を新設しました。
また、組織の目玉として「新しい価値共創室」を立ち上げました。データ利活用の基盤構築、お客様の声の集約、外部とのアクセラレータープログラム、そしてエリアマネジメントまで、多岐にわたる機能を集約しています。社内外の境界線を低くし、外部の知見や学生の力なども借りながら、「新しい価値を創造し、社会の発展に貢献する」という当社の理念を具現化する ための非常に重要な組織です。
社会の持続性こそが事業の根幹。多様性を受け入れる人材が未来を創る
脱炭素への取り組みや今後の持続可能な成長、そして次なる100年を見据えた人材育成についてお聞かせください。
カーボンニュートラルへの対応として、再生可能エネルギーへの切り替えや、日揮様と協業して大田区の飲食店の廃油を回収し航空燃料の原料として活用する取り組みなどを進めています。しかし、それ以上に根底にあるのは、我々の事業は「地域とともに歩む事業」であり、地域の持続性がなくなれば会社自体が成り立たない という事実です。
社会価値の向上が我々の事業の根幹であり、それが結果として持続的な経済価値の創出にも繋がっていかなければなりません。我々は複数の自治体にまたがって事業を展開しているため、広域で横に繋ぐ役割も担っています。
そして、この先の100年を見据えた時、ビジョンを受け継ぎ形にしていくのは「人」です。今後ますます、自社だけでできることは限られてきます。だからこそ、外部とコラボレーションし、多様な価値観を受け止め、理解できる人材が不可欠です。今年の入社式でも、新入社員に向けて「多様なものを受け入れる気持ちと経験を養ってほしい」と伝えました。そうした意識を持った人材こそが、次の時代の京急電鉄と沿線の未来を創っていくと確信しています。


