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#23組織を動かす判断軸——時流を読む「魚の目」
野本弘文 2026/05/23
2018年4月、私は東急の社長を交代し、会長に就任しました。
振り返れば、社長を務めた7年間は、渋谷や二子玉川をはじめとする沿線開発や海外事業の展開など、東急グループの未来に繋がる大きなプロジェクトが立ち上がり加速した、密度の濃い年月でした。
私の部屋には日々、大小さまざまな事業計画や新たな投資案件などの企画や実施計画が持ち込まれますが、それらの説明を受けたとき、すぐさま問題点や注意すべき点を指示します。部下には、「よくあの短時間で、的確な指示ができますね」などと驚かれるものです。
しかし、これは決して天才的なひらめきや、当てずっぽうの勘で決めているわけではありません。パッと企画を見た瞬間に「なるほど、それならこうすればいい」「ちょっと待て、ここは問題だぞ」と判断できるのは、私の中に確かな「判断の基準値」があるからです。
その基準値の土台となっているのは、入社直後に配属された厚木事務所で、自分で土を掘り、原価を計算し、関係先と粘り強い交渉を重ねてきた日々です。現場で自ら考え抜き、「これが本質だ」という基準を体の中に染み込ませてきたからこそ、トップに立った時に迷うことなく決断が下せるのです。
では、数々の大きなプロジェクトを決裁する際、私がその基準値に照らし合わせて必ず確認していた「三つの判断軸」とは何か。それは非常にシンプルなものです。
第一の軸は、「世の中(お客様)にとって本当に必要なものか」。
どんなに目新しい事業でも、それがお客様にとって必要とされ、喜ばれるものなのか。お客様の困りごとを解決し、生活を豊かにするという経営の原点からブレていないか。ここがすべての出発点です。
第二の軸は、「東急にとって、必要な事業か」。
私たちは鉄道を基盤とし、街づくりを通じて人々の暮らしを支えてきた企業グループです。地域に根差して、信頼され、長く続けられる事業こそが、私達のDNAです。 お客様に寄せていただいている東急グループへの信頼に、しっかりとお応えすることのできる事業であるかを問います。
そして第三の軸は、「技術的にも、継続可能な事業か」です。
ここでいう「技術的」とは、単にテクノロジーの先進性だけを指すのではなく、事業構造と技術の両面が噛み合い、持続的に価値を生み出せるかどうか、という意味です。
すなわち、世の中に必要とされるサービスを提供し、その対価として適正な利益を確保し、その利益によって事業をさらに発展させる。その結果として、より大きな価値を社会に還元していく。このような好循環を描ける構造になっているかが問われます。
一方で、その循環を支えるのがテクノロジーです。
現在、技術の進歩は日進月歩どころか、秒進分歩とも言われるほど加速しています。いま優れている技術であっても、将来にわたって競争力を維持できるとは限りません。また、いまは目に見えない先端技術が、ある時点で一気に事業価値を左右する可能性もあります。
したがって、事業の持続性を見極めるためには、技術の進化と市場の変化を一体で捉え続ける視点が不可欠です。
ここで必要になるのが、これまで述べてきた「虫の目」「鳥の目」に加え、時流を読む「魚の目」です。
未来を特別に予測しようと構える必要はありません。
過去の成功と失敗に学び、現在起きていることを「有意注意」をもって観察する。その積み重ねの中にこそ、次の価値を生み出すヒントがあります。
そして何よりも大切なことは、それを行動に移すことです。
このような「判断基準」を次世代のリーダーたちに継承し、行動の背中を押すこと。それが、会長としての私の新たな使命であると感じています。
写真:アジア最大級のスタートアップカンファレンス「SusHi Tech Tokyo 2025」に、東急株式会社と東急不動産株式会社が共同で出展したブース


