渋谷再開発――「あきらめない気持ち」「挑戦する気...
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#24“伝えた”と“伝わった”の違い、“任せる”と“放任する”の違い
野本弘文 2026/05/24
東急グループ代表や東急の会長に就任し、組織全体をこれまで以上に俯瞰して見る立場になってから、マネジメントについて改めて考える機会が増えました。その中で特に気になるのが、「権限委譲」という言葉の使われ方です。
ケーブルテレビを運営するイッツ・コミュニケーションズの社長時代にさかのぼります。
経営会議の場で、経営陣に「これからはケーブルテレビにとって、コミュニティチャンネルが何よりも大事になる。チャンネルを増設しよう」と方向性を出し、検討を進めるように指示をしました。ところがいつまで経っても、具体的な事業化の話が上がってきません。そんなときにたまたま、その担当部署の社員と同じエレベーターに乗り合わせ、「チャンネル増設の話はどうなった?」と聞いてみたところ、「えっ、やっていいんですか?」と驚いたような反応が返ってきました。
すぐさま、担当役員に進めるべく指示をし直しましたが、そのとき、自分としては“伝えた”つもりになっていたものの、相手に“伝わって”いなかったのだと大いに反省しました。
一方で、「任せる」という言葉も誤って使われがちです。
イッツ・コミュニケーションズから東急に戻り、取締役 開発事業本部長をしていたときのことです。担当部長に資料の提出を求めると、「いま、やらせています」という返答が続くことがありました。しかし、時間をおいても進捗は変わりません。それは「任せている」のではなく「放任している」状態です。
任せるとは、単に仕事を渡すことではありません。「何のためにやるのか」「どのような成果が必要か」「いつまでにやるのか」を明確に伝えたうえで、権限を委ねることです。
目的を示さずに「やっておいて」と指示しては、対処に困った部下は無駄に労力と時間を使い、成果も安定しません。
ジャングルのある無人島に漂着した場面を想像してみてください。そこに道はなく、誰もが不安を抱えている状況です。そのとき、そこから見える一番高い木に登り、「あちらに港が見える。あそこを目指そう」と方向を示す――これがリーダーの役割です。
進むべき方向が見えることで、人は安心し、力を合わせて前に進むことができます。リーダーが示す「目的地」が明確であればあるほど、組織は迷いなく動き出します。
もちろん、現実には一直線には進めません。川や崖に阻まれながら、右へ左へとルートを探ることになります。しかし、最終的な目的が共有されていれば、その都度「より良い進み方」を選び直すことができます。変化に柔軟に対応できるしなやかさもまた、明確な目的から生まれるのです。
判断に迷うとき、私は三つの言葉を自分に問いかけます。
それは、「何のために…するのか」「なぜ…なのか」「もし…だったら」です。これらの問いを通じて、本来あるべき姿に立ち返るようにしています。
明確な目的を示し、共感を得たうえで権限を委ねる。そして、その後も責任をもって関与し続ける。これが「任せる」ということです。
そして、言葉は発しただけでは意味を持ちません。相手に理解され、行動につながってこそ、「伝わった」と言えるのです。


