組織を動かす判断軸——時流を読む「魚の目」
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#22共感を生む「ビジョン」の力
野本弘文 2026/05/22
明快なビジョンのもと、共通の目的が見えた時、組織は強くまとまるものです。 私は社長就任時、東急の目指す姿として「3つの日本一、ひとつの東急」というビジョンを発表しました。
「3つの日本一」とは、“日本一住みたい沿線 東急沿線”、“日本一訪れたい街 渋谷”、“日本一働きたい街 二子玉川”です。これらは『主語』が全てお客様です。お客様が「住みたい、訪れたい、働きたい」街と言っていただきたいとの想いから、このビジョンを掲げました。
この「ビジョンの力」が現場の空気を変え、大きなうねりを生み出したと実感した、忘れられない出来事があります。
それは、「二子玉川ライズ」の再開発プロジェクトでのことです。
商業施設やオフィス、高層マンションからなる第1期は2011年に開業しましたが、リーマンショックの影響を受け、オフィスフロアで苦戦を強いられていました。都心部のようなオフィスの集積が進んでいない二子玉川は、働く場所としての認知度は低いことが原因でした。そのため、社内には懸念の声も多く、当初からオフィスが主体の第2期工事は、当面先送りにする計画でした。
しかし、私には確信がありました。メディア事業部時代に、アメリカのシリコンバレーやニューヨークの最先端企業を視察して回った経験がありました。そこで目にしたのは、都会の喧騒を離れ、豊かな自然環境の中にオフィスを構え、自由な発想を生み出しているクリエイティブな人たちの姿でした。
二子玉川には、多摩川の豊かな水と緑、そして広大な空があります。「これからの時代、クリエイティブな企業は必ずこうした自然環境を求めるはずだ」。そう確信した私は、計画を予定通りに進めるとともに、開発に新たなテーマを持たせることにしました。
二子玉川を「クリエイティブシティ」と標榜し、当初の計画にはなかったホテルやシネマコンプレックス、スタジオ・ホールを新たに盛り込むとともに、「日本一働きたい街 二子玉川」というビジョンを社内外に打ち出しました。
この明快なビジョンは、現場の空気を変えました。ある時、現場の所長からこんな報告を受けたのです。
「野本社長、工事に携わっている作業員や担当者たちが、『私たちは今、日本一働きたい街を作っているんだ!』と誇りを持って、一生懸命、汗を流してくれていますよ」
この言葉を聞いた時は、本当に嬉しかったです。信念をもって掲げた言葉が、現場の最前線で働く仲間たちの心に火をつけ、一つのチームとして同じ方向を向かせてくれたのです。
その後、このビジョンに共感してくださった楽天さんが本社を二子玉川に移転されることになり、歓迎のビデオメッセージを頼まれた際、私は万感の思いを込めて「日本一働きたい街 二子玉川にようこそ!」と語りかけました。ビジョンが明快であればあるほど、人々は一つになり、困難だと思っていたことが実現する。それを痛感した瞬間でした。
組織のトップの役割とは、社員一人ひとりが「自分の仕事には意味がある」と誇りを持てるような、明るく明快なビジョンを示し続けることなのだと思います。


