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2026

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    二子玉川ライズ開業の決断と「積分の経営」

    #21二子玉川ライズ開業の決断と「積分の経営」

    原石からダイヤへ

     社長就任を目前に控えた2011年3月、東日本大震災の混乱の中で、経営者としての「あり方」を問われるもう一つの大きな決断がありました。

     震災直後の3月17日に控えていた「二子玉川ライズ・ショッピングセンター」の開業をどうするか、という問題です。

     原子力発電所の事故を受けて、計画停電も実施され、世の中で電力供給への不安も高まった時期です。入居予定であった外資系テナントが本国へ帰る事態も起きていました。「人々が困っている非常時に、華々しく開業すれば、世間から批判されるのではないか」という懸念もあり、社内や商業テナントからも、「開業を延期せざるを得ない」という声が上がっていました。

     物流が滞り、コンビニやスーパーの棚からも商品が消えていた状況を見るにつけ、私は、「こうした不安なときだからこそ、できる限り早く開業しよう。被害の少ないところから、生活に必要なものをできるだけ仕入れ、困っているお客様に提供するんだ。お客様の立場に立てば、お店が閉まっているより開いている方がいいに決まっているだろう」と決断しました。

     結果として、予定日から2日遅らせただけで開業することができ、生活物資を求める地域の皆様から大変喜んでいただけました。

     企業というものは、組織が大きくなればなるほど、どうしても自分たちの保身や「世間からどう見られるか」を優先してしまいがちです。しかし、視点を「目の前で困っている一人のお客様」まで落とし込めば、やるべきことは自ずから見えてくるのです。

     その後、私は社長として「3つの日本一」「ひとつの東急」というビジョンを掲げ、渋谷や二子玉川をはじめとする沿線開発のさらなる推進や、海外での街づくり事業の展開などの戦略を策定しました。

     これらは一見、巨大で複雑なプロジェクトに見えるかもしれません。しかし、その根底にあるのは、あの非常時の決断と同じ、「お客様目線」を大切にするシンプルな思想です。

     第9回でお話しした「微分・積分」の考え方は、経営の現場でこそ生きてきます。 大きな企業も微分(分解)して考えれば、その実態は個々が集まったものです。それらをつなぎ合わせ、トータルで大きな力を発揮させること。これこそが「積分」であり、経営者の役割なのです。

     街づくりも同じです。大規模なマンションを建設・販売するとしても、それを購入し、そこに住まうのは、一人ひとりのお客様です。「人が住む場所を作る」という本質においては、町の大工さんが一軒の家を建てるのと何ら違いはありません。ショッピングセンターもそうです。一見すると大きな箱に見えますが、各店舗の集合体であるのです。

     効率や利益を追求することも大事ではありますが、なによりも、この「原点」を見失ってはいけません。「大きなビルを建てた」と満足するのではなく、「そこに住まうお客様が豊かさを感じるのか」「そこで働くお客様が楽しく働けるのか」等々…、想像力を巡らせて微分する。それらの結果を積み上げて(積分して)、街という巨大な価値を創っていく。

     私が社長時代に取り組んだ数々のプロジェクトも、すべてはこの考え方に通じています。どれだけ規模が大きくなろうとも、大工さんがカンナをかけるような丁寧さで、一人ひとりのお客様に向き合うことが大切です。その「微分された一つひとつの仕事」の積み重ねがあって初めて、大きな「積分」の答えは導き出されるのです。

     
    写真:©FUTAKO TAMAGAWA RISE

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