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2026

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    渋谷ヒカリエ開発と父の教え――「人を喜ばせたい」

    #19渋谷ヒカリエ開発と父の教え――「人を喜ばせたい」

    原石からダイヤへ

     私が開発事業本部長として本社に戻った翌年の2008年、リーマンショックが世界を襲いました。不動産市況は冷え込み、多くの企業が投資を控え、「守り」の姿勢に転じるなか、私はあえて「今こそ土地を買うべきだ」と社内に号令をかけました。ピンチの時こそ、次の時代を見据えて攻める。私がこれまでのキャリアで培った経験のすべてを注ぎ込む時がやってきたのです。

     そうしたなかで、渋谷駅周辺開発のリーディングプロジェクトとして、「東急文化会館」の跡地における「渋谷ヒカリエ」の開発が控えていました。渋谷ヒカリエという名称は、「渋谷から未来を照らし、渋谷から世の中を変えていく光になる」という意志を込めています。

     ここで私の頭をよぎったのが、かつて父が口癖のように言っていた「人はどんなによいものを作っても三年もすれば飽きる」という言葉です。

     不動産開発によって生み出された建築物は、その後何十年にもわたってその場所に存在し続けます。どうすればお客様に「飽き」を感じさせず、常に変化を提供できるのか。

     「知識」だけでは解決できないこの難題に対し、私は夜、布団の中でも、「どうすればいいか」と考え抜き、メディア事業で培った「知恵」を絞りました。そこで考案したのが、通路や広場の壁面に「デジタルサイネージ」を導入することでした。

     デジタルサイネージは、今でこそ街の風景に溶け込んでいますが、当時はまだ普及していない媒体でした。それでも私が導入を決断したのは、季節やイベントに合わせて、様々な演出ができる空間を作るためです。ハードとしての壁を作り変えることはできなくても、デジタル技術を活用すれば、父が店先で棚の配置を頻繁に変えていたのと同じように、常にお客様に新鮮な驚きを提供できる。これは、渋谷ヒカリエの通路が、単なる移動空間ではなく、“情報を発信するメディア”となった瞬間でもありました。

     なぜそこまでしたのか。「あそこに行かなければ見られないものがある」「そこでなければ味わえない体験がある」。そうした希少性や驚きこそが、人を惹きつける最大の魅力だからです。

     「私だけが知っている特別な場所なんだ」「友達に教えてあげたい」――お客様にそう思っていただけるような話題性を作ること。それは、私が中学・高校時代に実家が営む商店の手伝いをしながら、肌感覚で学んだ真理でした。お酒や果物を売る小さな商店の知恵も、大規模な都市開発も、「人を喜ばせたい」という根底の部分では何も変わらないのです。

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