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2026

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    「虫の目」で現場の細部を知り、「鳥の目」で上司を押し上げ、部下を引き上げる——厚木の現場で学んだこと

    #11「虫の目」で現場の細部を知り、「鳥の目」で上司を押し上げ、部下を引き上げる——厚木の現場で学んだこと

    原石からダイヤへ

     リーダーになるにつれて、大きなレイヤーで物事を見ることは言わずもがな大切です。ただし、決して細部をおざなりにしてもよいということではありません。小さな一つひとつの仕事を大事にしながら、同時に大きなレイヤーで物事を見る。この両側面こそが重要なのです。

     経営において重要な視点として、しばしば「三つの目」が挙げられます。現場の細部を見る「虫の目」、全体を俯瞰する「鳥の目」、そして世の中の大きな流れを読む「魚の目」です。

     まずはこのうち「虫の目」についてお話をします。「虫の目」の重要性を痛感したのは、東京急行電鉄(現:東急)に入社し、半年後に配属された厚木の開発現場での経験でした。

     実は入社式で、私は当時の五島昇社長から、新入社員の代表として直接入社証書を受け取りました。当時は入社試験で1番成績が良かった者が代表を務める慣習があったためと聞いていました。私の中には「よし、やってやろう」という若者らしい誇りがありました。

     入社後、最初に配属された田園都市部・宅造課(多摩田園都市で宅地を造成する部署)で、新入社員の仕事として部署で実施する「夏の合同キャンプ」の幹事を任されました。選んだ場所は相模川上流の石小屋キャンプ場。本厚木駅からバスで向かい、みんなでワイワイと楽しんだものです。

     しかし、めぐり合わせとは不思議なものです。まさかその2カ月後、自分がその厚木の未利用地を開発する現場事務所に配属となり、その後14年間も通い続けることになるとは、この時は夢にも思いませんでした。

     東急としては他社(小田急)沿線である厚木の開発。本社の注目度は決して高いとは言えず、所長と係長、事務員の方を合わせてもわずか7、8人の小さな現場事務所でした。開発工事の上流から下流まで、少ない人数で何でもこなさなければなりません。だからこそ、挑戦し学ぶことができる環境があると捉え、「せっかく現場に来たのだから、開発に関しては東急で一番になろう」。私はそう心に決め、先輩技術員に教えてもらいながら開発の基本を徹底的に自分に叩き込みました。

     何よりもまず勉強したことは、工事費の「見積もり」に関する精査です。

     見積もりの基礎となる材料費や労務費など、要素としての項目一つひとつについて「なぜその金額になるのか」、その根拠を突き詰めて理解するようにしました。当時は、機械で1㎥の土を掘るコストが350円、人が手作業で掘ると1,500円〜2,000円という時代です。私は「なぜ人が掘るとそんなにかかるのか?」と疑問に思い、実際に自分でスコップを持って1㎥の土を掘ってみたことがあります。これは大変な重労働で、「なるほど、機械と手作業をこう組み合わせれば、これだけの単価になるな」と、見積もりを構成する単価が妥当かどうかを文字通り「体」で覚えました。そのほかにも、1㎡の砂利敷きや、石運びの手間など、自分で試してみては、価格を徹底的に調べ上げました。

     まさに顕微鏡で覗くようなミクロな「虫の目」で数字と向き合った結果、事務所に来た役員から山のあたりを指さされ「新たにこのあたりを開発するとしたら、どのくらいの工事費用がかかる?」と聞かれても、パッと山を見ただけで「これなら30億円くらいでできます」などと、即座に答えられるレベルになっていました。

     現場では、近隣住民の方への説明会や、地元折衝、行政との協議も行いました。「どう話せば相手が納得するか」を想像し、提案の仕方を考えます。相手の立場に立ちながら、現場で培った原価意識や算出方法、作業手順等のファクトを自らの考えの根拠としてしっかりと持ち、お互いにとってよりよい着地点を見出す。この視点は、リーダーとして指示を出し、組織を正しい方向へ導く際にも欠かすことができません。

     組織に関して、若いころより「上司には早く偉くなっていただこう。部下は早く引き上げよう」という考えを持っていました。

     上司の立場で物事を考え、上司に恥をかかせないように働く。そうして上司が出世してくれれば、そのポストが空き、自分にもその役割が回ってくるチャンスが巡ってきます。また、部下には仕事をどんどん経験してもらい、成長させて引き上げる。部下が自分の仕事をできるようになれば、自分はさらに上のレイヤーの仕事に挑戦できるのです。

     「虫の目」で足元の実務を徹底して理解し全うしながら、「鳥の目」で組織全体の動きを見て、上司を押し上げ、部下を引き上げる。そのようにして組織全体の新陳代謝を良くしていくことが、結果として一人ひとりの成長にも、組織の成長にもつながるのだと思います。

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