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2026

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    「色彩と思い出で、人々の心を豊かに」サクラクレパス 西村社長が語る、新たな価値創造と“幸福感のトリガー”としての使命

    「色彩と思い出で、人々の心を豊かに」サクラクレパス 西村社長が語る、新たな価値創造と“幸福感のトリガー”としての使命

     「サクラクレパス」と聞いて、子供の頃に夢中になって絵を描いた温かい記憶が蘇る人は多いだろう。大正時代の「自由画教育運動」から始まり、日本の美術教育と共に歩んできた同社は、画材にとどまらず、世界初のゲルインキボールペンの開発や教育現場向けの新規事業など、常に時代の「ニューカテゴリー」を切り拓いてきた。今回、西村彦四郎社長にインタビューを実施。伝統に甘んじることなく挑戦を続ける原動力や、困難を前向きに捉える思考法、そしてデジタル時代にこそ求められる「身体性」と「幸福感」について、その深淵なる経営哲学に迫った。

    自由画教育運動から始まった歴史と、ニューカテゴリーを生み出すDNA

    100年の伝統ある企業でありながら、常に新しい価値を作り続けてこられた理由を教えてください。

     私たちの創業は、大正時代に画家である山本鼎(やまもと かなえ)氏が提唱した「自由画教育運動」を広めるため、山本氏に安価で品質の良いクレヨンの指導を仰いだことからスタートしています。当時の美術教育は、教科書の図案を鉛筆でそっくりそのまま写す「臨画」が主流でした。しかし自由画教育運動では、お手本のとおりに描かせる臨画をやめて、自然の活きた色に目を開いて、感じたままを自由にのびのびと写生させないと提唱しました。

     私たちはただ商品を売るのではなく、この自由画教育運動を広めることで日本の美術教育を発展させることが、結果として商品の普及に繋がる という考えで事業を進めてきました。これが、学校だけでなくご家庭にも「お絵描き」の文化を根付かせ、子供たちの情操を育むことに役立ってきたのだと自負しています。

     私は社員に対して、この会社の歴史と仕事に誇りを持ってほしいと伝えています。ただ、歴史に誇りを持つと同時に、これから成長していくためには、常に世の中に新しい価値を生み出し続けなければなりません。 人々の心を豊かにすることによって社会に貢献するというのが私たちの使命です。新しいことをやらなければ会社も成長しませんし、社員の幸せにも繋がりません。この考え方が、常に新しいことに挑戦する会社のDNAとして根付いているのだと思います。

    世界初のゲルインキ開発。論理を超えた「執念」が革新を生む

    御社を語る上で外せない、世界初のゲルインキボールペンの開発は、どのような壁を乗り越えて実現したのでしょうか。

     会社として利益をもたらし、成長していくためには、単発的な商品ではなくロングセラー商品を生み出す必要があります。そして、ロングセラーになる商品というのは、すべて「新しいカテゴリー」を作ってきた商品 なのです。クレヨンしかない時代にクレパスを作り、名前書き用のペンがない時代にマイネームを作ったように、世の中にないニューカテゴリーを作ることが大きな柱となります。

     世界初となるゲルインキボールペンの開発もその一つです。もともとは会社設立60周年の記念として「インキ残量のわかる水性ボールペンを作ろう」という研究所長の鶴の一声から始まりました。しかし、それに適したゲル化剤がなかなか見つかりませんでした。当時の担当者は、ありとあらゆる何百種類ものゲル化剤を毎日テストし、最終的にインスタントスープのとろみ付けなどに使われる多糖類の一種に行き着いたのです。論理的に計算して作ったというよりも、執念で試行錯誤を繰り返して見つけ出した商品 でした。

     その根本にあったのは、画材市場におけるクレパスのような、画期的な新しい筆記具を作りたいという強い思いです。筆記具の分野ではまだまだ知名度もシェアも低かった時代に、全く新しいボールペンを作り上げるという開発陣の情熱が、この成功に繋がったのだと思います。

    境界を越える技術。顧客起点と技術起点が新たな市場を切り拓く

    文具メーカーという枠を超え、医療現場や工業分野へも事業を広げられています。こうした「技術の越境」は、どのような発想から生まれるのでしょうか。

     私たちの技術は、必ずしも画材や筆記具だけに使われるものではありません。顧客が抱える課題を起点に考えることで、これまでとはまったく異なる市場にも新しい価値を提供できる と考えています。

     例えば、医療現場で使われている「滅菌インジケータ」は、院内感染防止への意識が高まる中で、医療品商社から「こうした製品を作れないか」という相談を受けたことが開発のきっかけでした。大阪国立病院のご指導・評価もいただきながら研究を進め、高圧蒸気によって色が変化する色素を発見し、製品化に成功しました。その後、滅菌研究会でも取り上げられ、医療現場へと普及していきました。

     この開発を通じて私たちは、「目に見えないものを色で可視化し、評価する」という新しい視点 を得ました。その発想が、プラズマ処理の効果を色で判別する「プラズマインジケータ」へと発展しています。

     一方で、工業分野向けの「ソリッドマーカー」は、従来の白色マーカーが抱えていた「振らなければ使えない」「液だれする」「上向きでは書きにくい」といった課題を解決したいという発想から生まれました。過酷な作業環境でも使いやすい製品として、多くの製造現場で活用されています。

     商品開発には、顧客や市場のニーズ・ウォンツという視点と、自社が持つ技術シーズという視点、この二つが重なり合うことが不可欠 です。市場から考えれば、画材や筆記具の枠を超えて新しいカテゴリーへ広がっていきますし、技術から考えれば、これまでとはまったく異なる市場に新しい商品が生まれていきます。

     また、新しい市場の商品は、お客様から「サクラなら何とかできないか」と相談をいただくことから始まるケースも少なくありません。そのためには、困った時にまず相談してもらえる存在であること が何より重要だと考えています。

    大反対を受けた教育市場への挑戦。現場の声と「楽天的な思考」が背中を押した

    教育施設向け通販サービスのBtoB事業「エデュース」は、今や事業の柱となっていますが、立ち上げ時には社内外から大反対を受けたそうですね。困難な壁を乗り越えられる原動力はどこにあったのでしょうか。

     当時の私たちは、図画工作の分野では高いシェアを持っていましたが、学校全体の教育市場という大きな枠組みで見れば、出版社やメーカーなど競合がひしめく中で「弱者」の立場にありました。教育市場全体が縮小していく中で、今のやり方だけを続けていては淘汰されるという強い危機感 がありました。そこで、学校向けに必要な物品を総合的にお届けする新規事業を立ち上げようとしたのです。

     最初は社内の反発も強く、お得意先からも「なぜこんなことをするんだ」とお叱りを受け、現場の営業担当者にも非常に苦労をかけました。それでも私が諦めなかった理由は二つあります。一つは前述の危機感。もう一つは、事前にいくつかの販売店さんを回ってヒアリングをした際、この事業に対して「これはいけるんじゃないか」と大きな可能性を感じていただいたからです。現場の声こそが、間違っていないという確信と、事業を推し進める一番のエネルギー になりました。

     また、私の個人的な経験も影響しています。私は20代半ばで病気を患い、長期間ベッドで安静にしていなければならない時期がありました。同期や友人がバリバリと働き、楽しそうに遊んでいる中で、なぜ自分だけがと辛い思いをしました。しかし、時間があり余っていたため本を読むようになり、そこで得た知識や思考法がその後のマーケティング業務や経営判断において大きな財産となりました。

     この経験から、「何か悪いことが起きても、それは必ず将来の良いことに結びつく」という楽天的な思考 を持つようになりました。事業で困難や失敗があっても、それを修正していけば最終的に良い結果に繋がると前向きに捉えられるようになったのです。

    「地位」で仕事をしない。部下の意見で自らを変える勇気と謙虚さ

    社長ご自身の前向きな姿勢はもちろん、それを実行する社員の皆様の力も重要ですね。日頃からどのようなコミュニケーションを心掛けていらっしゃいますか。

     会社にとって社員がすべてです。どんなに素晴らしい戦略や方針を立てても、それを実行する社員がしっかりと取り組まなければ実を結びません。

     私は、社員が自由に意見を言える風土を作ることが何より重要だと考えています。社長という立場はあくまで指示命令系統のトップであって、人間として一番偉いわけではありません。自分よりも現場の社員の方が詳しく知っていることは山ほどあります。だからこそ、常に謙虚であり、地位で仕事をしないこと を心掛けています。

     例えば、私の意見に対して部下が異なる意見を提案してきたとします。その時、部下の意見の方が優れていると思えば、「じゃあそっちに変えよう」と自分の意見を取り下げる勇気を持たなければなりません。もし部下の言葉に耳を貸さず、自分の意見を押し通してばかりいたら、誰も意見を言わなくなり、最終的に社長は裸の王様になってしまいます。 もちろん人間ですから、耳の痛い意見には不機嫌な顔をしてしまうこともあるかもしれませんが、それでも良いものは良いと受け入れる柔軟性を持つことが、現場のリアルな声を吸い上げるために不可欠だと信じています。

    デジタル全盛の時代にこそ求められるアナログの「身体性」と「幸福感」

    アナログな画材からデジタル技術への対応まで、様々な挑戦をされています。今後、サクラクレパスは世の中にとってどのような存在であり続けたいとお考えでしょうか。

     デジタルやAIがどれほど進歩しても、人が幸福を感じる根本的な部分は変わらないと思っています。むしろ、デジタル化が進めば進むほど、人間が自らの手を使うアナログの「身体性」が強く求められる と感じています。

     例えば、美術教育において絵を「鑑賞」する分野では、デジタルが持つ可能性は計り知れません。しかし、実際に自らの手で「絵を描く」という行為は、まさに身体性を伴うアナログな体験です。ただアナログをデジタルに置き換えるのではなく、双方を融合させて新しい価値や楽しさを生み出していくことが、これからの課題だと捉えています。

     私たちが目指しているのは、サクラの商品に触れることで、幸せな気持ちや豊かな気持ちになっていただくことです。かつて調査を行った際、 「サクラの赤いシンボルマークを見ると、子供の頃に楽しくお絵描きをした思い出が蘇り、幸せな気持ちになる」 というお声を多くいただきました。これこそが、私たちのブランドの最大の価値です。「サクラ」というブランドが生涯に寄り添う、ライフタイムバリューを高めていく。一つ例を挙げれば、「SAKURA craft_lab」は、サクラブランドの認知度がまだ高くない“筆記具”の領域において、まさに大人の方を対象としたお洒落なブランドとして非常にこだわりを持ってつくっています。

     日常のささやかな瞬間に、一本のペンを使って「書き心地がいいな」と感じたり、絵を描いて心が落ち着いたりする。そうした 「幸福感のトリガー」となる商品やサービスを提供し、心を豊かに育み続ける企業 でありたいと願っています。

    #サクラクレパス#文房具#経営者インタビュー#イノベーション#百年企業#リーダーシップ#西村彦四郎#教育#幸福感#ロングセラー#ブランディング

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