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2025

    地域密着で青果専門店日本一へ。九州屋50年の歩み

    地域密着で青果専門店日本一へ。九州屋50年の歩み

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    株式会社九州屋は、2024年(令和6年)に創業50周年を迎えた、青果を中心に全国展開する食品小売業。創業者がトラックでの行商からスタートしたという同社は、現在では全国の百貨店、駅ビルを中心に80店舗以上を構え、青果専門店として日本一の規模となる売上高230億円超を誇るまでに発展した。創業者の島田修氏の後任として2012年(平成24年)に社長に就任した小林拓氏は、入社2年目で店長に抜擢された生え抜きの“九州屋育ち”。驚くべき急成長を遂げつつある九州屋の秘密について聞いた。

    対⾯接客で⽂化を知り、お客様に寄り添う「地域⼀番の店」へ

    創業50年というと長い歳月のようですが、わずか50年でトラックの行商から出発し一坪のお店が全国80店舗以上にまで発展できたのは、驚異的です。ぜひ、これまでの歩みを教えて下さい。

    創業時のことは、私もまだ生まれていませんのでよくわかりませんが、私が入社した当時は北海道や九州など、全国にお店を広げていった時期でした。全国にお店を持つにあたって、私たちが一番に考えたのが「地域一番店」になることです。地域一番店というのは、ただ売上やお客様の数の一番になるということではなく、創業時からずっと大事にしてきた対面接客販売を通して、その地域で九州屋が一番大事にされるお店としてお客様にご支持いただけるような青果の専門店を目指そうということでした。

    では、そのためには何をすればよいのか。例えば地域の他のお店にはない品揃えを用意することです。全国展開の際はまず地元を知る、地域を知るというところから入ります。その地域にどういう文化があるのか、どういう食文化があるのかを知ることを最も大切にしてきました。お店のスタッフも地元の人を採用して、その人たちに意見やアドバイスをもらう。ここの地域ではこの時期にこういう野菜を食べますよ、とか、こんなお客様がいらっしゃいますよ、といった情報を自分たちでヒアリングしてパートさんに聞いたり、時にはお客様に聞いたり。そうやってお店を作ってきたんです。それは今もまったく変わらないやり方です。

    そしてもう一つ、今もずっと続けているのが本部主導型ではなく、店舗主導型の経営ということです。基本的に店舗に主導権を渡して、店長が意思決定者として自分で何を仕入れるかを決めてもらう。人材の採用もすべて店長が行う。それが九州屋の一番の特徴です。だから我われ経営陣がもっとも意識するのが、誰を店長に指名するかということ。これは一つの会社の社長を選ぶのと、同じくらいの重みをもっています。

    実際にお店の店長は、どういった観点で選ばれるのでしょう?

    入社何年目なのかといったことももちろん見ますが、例え経験が浅くとも知識や経験は後からついてくると考えているので、気持ちの強さや、人を引っ張っていくリーダーシップを持っていることを重要視しています。「店長をぜひやりたい」というチャレンジ精神や、「バイヤーとして一流になりたい」など向上心を持っている人にはぜひやっていただきたいですね。新店をどんどん出していた時期は、私自身がお店を回って、店長の下の2番手、3番手の方々とコミュニケーションを取って、店長への意欲が強い方を探していました。

    実は社長ご自身が入社2年目で店長に抜擢されたとか。すごいことですね。

    私自身にそれほど向上心があったのかどうかわかりませんが、心の準備もないまま店長を任されました。それこそ人の採用の仕方や面接のやり方さえわからないので、実践しながら覚えたという感じです。ただ、当時はせっかくめったにないチャンスをもらったのだから、結果を出したいという気持ちは強かった。振り返れば店長になったばかりの1年が、人生で一番頑張った年だったかもしれません。

    故郷の味との再会――⾃社物流網が実現した、九州屋ならではの品揃え

    改めて伺いたいのですが、九州屋のような地元密着型の青果店が全国展開することのメリットについて、どうお考えですか?

    実は九州屋が全国にお店を構えることになったのは、計画的というよりも、有難いことに日本全国から店舗出店のオファーを頂くようになったという経緯があります。例えば北海道で札幌に出店したら今度は函館から声がかかる。福岡のお店を見学された方が、大分でも、佐賀でも出してくれませんかと、次々と先方からオファーを頂くようになり、気が付けば日本中に広がっていったという感じなのです。

    ただ全国展開のメリットを出すには、やはり自分たちの物流網を持たなくてはならないと考えました。各地域の他社さんのお店では、地元の生産者さんから仕入れています。それに対抗するには、物流を全国につなげて、地元ではなかなか手に入らない食材を揃えていくしかない。もちろん地元のものも活用しますが、九州屋なら地元にはないものも手に入る、と思っていただかないと青果専門店としての強みが出せないと考えました。

    自社の全国物流網を持ったことで、いわば逆ルートの展開も生まれました。我われは生産地に近い場所にもお店を持っていますので、生産者の商品を、市場を経由せず直接首都圏に持ってこられるようになった。例えば九州ではお正月の雑煮に「かつお菜」という葉物野菜を入れるのですが、通常であれば九州屋の福岡の店舗で扱うこの商品を、東京でも販売しました。すると東京在住の福岡出身のお客様に、「東京でかつお菜が手に入った!」と大変喜んでいただけました。こういった形でお客様に価値を届けることもできるのかと思いましたし、全国にお店を展開していると、各地域の風土や食文化の情報がたくさん入ってくるので日々我われも勉強させてもらっています。

    野菜がなくなる?アグリサポート事業で⽇本の⾷の未来を守る

    近年は気候変動の影響で、野菜の生育不良や品質低下、収穫量の減少が社会問題として叫ばれるようになりました。九州屋ではどのような対応や対策を取られていますか?

    ご存知のように、ここ数年間、これまであまり経験したことのないレベルでずっと野菜の相場は高い状態です。背景には天候不順による青果物の生育不良ということがあり、生産者さん側も我われも、対策は打っているもののコントロールは難しい。

    そもそも考えなければならないのが、生産者の減少という問題です。高齢化が進み、野菜農家さんも果物農家さんもいずれも平均年齢は70代を超えているといわれています。豊富な知識も土地もあるのに、後継者がいないのでやめざるを得ないという状況が生まれています。ではなぜ後継者がいないのかというと、最大の理由は農家の手取り収入が少ないからです。365日ほぼ休みなしで働いて、平均年収は300万円代といわれています。もちろんITを活用したスマート農業を進めて、高収入を実現している農家さんもいるのですが、全国平均で見るとかなり厳しい状況です。

    そこで九州屋に何ができるか。実は私たちはエア‧ウォーター株式会社のグループに入っている事業会社でもありますので、グループが進める事業にも携わっています。その一つとして注力しているのが、北海道を中心に取り組む「アグリサポート事業」です。 農家さんから労力のかかる農作業を、我われが受託していこう、手助けしようという取り組みです。こういった農作業の代行だけではなく、さらにエア‧ウォーターグループでは、農業に関わる技術や知識、情報の提供など、範囲を広げることで、より多くの問題を解決していこうとしています。

    土地があって、農作物を作りたいけれど知識不足で作れない。収穫したいけど人手不足でできない。そうした生産者は多数いて、土地も余っています。そこに我われのような企業が入っていけば、日本の農業はまだまだ宝の山だと感じています。生産者減少の問題に立ち向かい日本の農業をもっと活性化させないと、今ある野菜や果物を食べられなくなる時代が来ます。九州屋は青果専門店ですから、そうした危機感は常に強く持っていなければ、と考えています。

    社長ご自身のお考えとして、社員の方々に持ってほしい目標、あるいは業務の中で変わってほしいことについて伺えますか?

    社員の方々には当事者意識を持って仕事をしてほしいですね。 先ほども言いましたがチャレンジ精神や向上心を持つということが、特に私たちサービス業にとっては不可欠だと思います。どんどんチャレンジして、失敗してもいい。ただ同じ失敗はしない、一回失敗したら自分の経験として、次は成功につなげていってくださいと、若い社員たち向けの講習などではそう話しています。

    実際、お店でも店長から言われて動くのと、自分で気づいて動くのでは格段に違います。やはり役員、部長クラスに任命される人というのは、誰よりも気づきが早いです。「これはおかしい」、「こうしたら売れる」と気づいたら、スピード感を持ってすぐに行動できる。しかもリーダーになる人であれば、みんなを巻き込んで動ける能力があります。特にお店ではチーム一丸となって目標に向かって動けるということが何よりも重要です。私自身は店長時代、お店を一つのチームとしてまとめるために、とにかく従業員の方々に話しかけるようにしていました。朝勤務のみのアルバイトの方やパートの方、シルバーの方にも声をかけて、チームで一緒に仕事をしている意識をもってもらうことの大切さを店長時代に学びました。

    商品にも、社員の笑顔にも「磨き」をかけ、次の50 年へ

    貴社は創業50周年を迎えましたが、次の100周年に向けて、50周年におけるビジョンを聞かせてください。

    そうですね、一つは様々な面で「磨きをかける」こと。いろいろな意味があるのですが、社員一人一人の「笑顔」であったり、「接客」の部分だったり、「立ち振る舞い」に磨きをかける、つまり極めていくということでしょうか。九州屋の強みとする「商品」にも磨きをかけていきたいですね。もちろん生産者さんたちは心を込めて作ってくれていますが、味が悪い、傷みがあるという商品は売れない。商品力に磨きをかけて、レベルの高い商品を販売して、「他のテナントさんとは違う」と言われるようなお店になることを目標としたいです。

    これから50年、60年というと、先ほど申し上げたように農業の後継者不足問題、食料不足の問題など、社会問題の厳しさが年々加速していくでしょう。そうした中で九州屋ができるのは、生産者の思いをくみとって、消費者に伝えることです。まさに生産者と消費者の橋渡しとなる存在として、今後も精一杯、力を尽くしていきたいです。

    #九州屋#青果#食品小売#トップインタビュー#農業

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