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目指すは「日本のSXSW」。エンタメの聖地・東京ドームが仕掛ける“テック革命”の全貌
ビジョナリー編集部 2025/10/28
なぜ東京ドームは「エンタメ×テックの聖地」を目指すのか? 新規事業『enXross』の壮大な野望
エンターテインメントの聖地として知られる東京ドームが、テクノロジーの領域で新たな挑戦を始めている。その象徴ともいえる、エンターテインメント×テクノロジーの未来を拓く祭典「enXross 3rd」(エンクロス・サード)が、2025年9月29日(月)、熱気のなか開催された。
2023年に始まり3回目を迎えたこのイベントでは、Web3・XR・AIといった最新技術とエンタメを掛け合わせたビジネスアイデアを競う「enXrossAWARD 2025」をメインに実施。国内外から選ばれた10組のファイナリストが、東京ドームシティ シアターGロッソで渾身のピッチを繰り広げた。
エンタメの聖地がテクノロジーを追求する理由
そもそも「enXross」とは、XR・Web3・AIといった技術と、音楽・スポーツ・アニメ・アイドル・アートなどの“エンターテインメント”をかけ合わせ、まだ見ぬ体験やプロダクトを共創するプロジェクトだという。
始まりは2023年12月。スタンフォード大学のブロックチェーンクラブとの共同アイデアソンを皮切りに、Niantic社(当時)と組んだXRハッカソン(enXross 2nd)や、海外カンファレンスでのプロダクト展示・受賞など、着実に実績を積み重ねてきた。まさに、東京ドームが本気で未来のエンタメに挑戦するプロジェクトとして進化を続けている。
公式サイト
ではなぜ、エンタメの雄である東京ドームがテクノロジー領域に踏み込むのか。
長年、野球やコンサート、ヒーローショーなどを通じて、時に「聖地」とも呼ばれる場を提供してきた同社。その背景には、「東京ドームシティをエンタメ×テクノロジーの聖地にしたい」という強い想いがあるという。エンタメとテクノロジー、両方の聖地を目指すことで、そこに集う人々の間に化学反応を起こしたい考えだ。
(▲東京ドームシティ)
同社は、未来のエンタメに影響を与えるテクノロジーをブロックチェーン・XR・AIと定義。そして、野球の聖地がそうであるように、テクノロジーにおいても「聖地」を構成するには①イベント、②場所、③スター誕生、④歴史、という4つの要素が必要だと分析する。 野球でいえば、
(①イベント) 年間を通じて数多くの試合が開催され、
(②場所) 東京ドームという場所が存在し、
(③スターの誕生) 数多くのスター選手が生まれ、
(④歴史) そのサイクルが長く続いている。
この4要素が揃うことで「野球の聖地」が成立しているとし、enXrossを通じてテクノロジーの世界でもこのサイクルを生み出すことを目指している。アイデアソンやハッカソンは、まさに未来のスターを発掘するための重要なステップなのだ。このプロジェクトは、エンタメの未来を見据え、長期間、そして世界を意識しながら取り組む壮大な事業といえるだろう。
熱気に包まれた「enXross 3rd」の模様
9月29日に開催された「enXross 3rd」では、AWARDの最終ピッチが行われ、会場は終始熱気に包まれた。平日昼間の長時間開催にもかかわらず、会場は多くの参加者で埋め尽くされたという。
最優秀賞に輝いたのは、アメリカ/香港のチーム「PLVR(プラー)」 。ライブエンターテインメント向けのブロックチェーン/AIを活用したデータ・金融インフラを提案。イベントプロモーターが抱える課題に対し、最新技術を用いたソリューションが合致している点が高く評価された。
その他、各賞の受賞チームとアイデアは以下の通り。テクノロジーを通じた多彩なアプローチが披露され、会場を大いに沸かせた。
優秀賞:鎌倉インターナショナル株式会社(日本)
- アイデア名:東京ドームFIELD NFT
- フェアゾーンをNFT化し、仮想オーナー権を付与することで新たな熱狂体験を提供。
優良賞:Parakeet株式会社 (パラキート)(日本)
- アイデア名:ヒーローショー2.0 ~キャラと意思疎通するショーの実現~
- 音声変換AIを活用し、観客とキャラクターが会話できるショーを実現。
優良賞:Roam (ローム)(アメリカ)
- アイデア名:Roam
- 小売店舗や複雑な会場運営に特化した、AI活用の施設管理ソフトウェア。
パートナー特別賞:趣味はパイナップル(日本)
- アイデア名:cARtoon(カートゥーン)
- マンガが東京ドームシティに現れるARプラットフォーム。
オーディエンス特別賞:team CRAVES(日本)
- アイデア名:Synapse(シナプス)
- XRグラスで視覚・聴覚を記録し、AIで迷子や忘れ物を即時発見。スタッフの業務効率化を目指す。
今回初の試みとして設けられた「オーディエンス特別賞」では、364件もの回答が集まり、会場の関心の高さがうかがえた。来場者アンケートでも84%が「満足」以上と回答するなど、高い満足度を示した。
また、スペシャルゲストとして西野亮廣氏が登壇。「エンタメ×ビジネス」をテーマにした特別講演では、自身の幅広い活動から得た知見をユーモアたっぷりに語り、会場は大きな拍手に包まれた。「時間を忘れて聞き入ってしまった」「実用的な内容で有意義だった」など、来場者からも絶賛の声が相次いだという。
(▲西野亮廣氏)
担当者が語る手応えと未来
本プロジェクトの中心人物である、株式会社東京ドーム 新規事業室 担当課長の赤木翔氏は、イベントの手応えをこう語る。
(▲赤木翔氏)
「イベント後の反響は大きかったです。約2年で3回という開催ペースや、XR業界への貢献といった点を評価いただきました。ITとは無縁と思われがちな我々がこうした取り組みを行うことで、業界の裾野を広げるムーブメントの一助になれているなら嬉しいです」
また、特別講演に西野亮廣氏を招いたことについては、「マーケティングやIP創り、街づくりなど、我々が目指す事業を個人で体現されている方。その体験を言語化していただくことで、参加者にとって有益な学びの場になった」と話す。
開催にあたって最も苦労したのは、やはりファイナリストの選考だったという。
「今回は46チームから10チームに絞り込みましたが、素晴らしい提案ばかりで非常に悩みました。これまでの取り組みの成果か、国外からも21チームの応募があり、米国をはじめメキシコ、カナダ、香港などワールドワイドなものになりました」
当日のピッチについては、「我々の想定以上に素晴らしく、未来への期待が持てる話ばかりでした。ビジョン重視のプレゼンは観客の共感を得やすく、一方で実績のある提案は説得力があり、評価に繋がっていったと思います」と振り返った。
次なる一手はコワーキングスペース『enXross DAO』
enXrossはイベントの枠を飛び出し、次なるステージへ向かう。2025年冬、東京ドームシティ内の複合施設MEETS PORTの4階に、Web3・XR・AIに特化した会員制コワーキングスペース『enXross DAO(エンクロス・ダオ)』を開業予定だ。
(▲イメージ)
この施設は、enXrossの活動をさらに強化し、グローバルなネットワーキングを創出する拠点となる。将来的には、利用者主導のDAO(分散型自律組織)型の運営を目指し、利用者が主体的に価値を創造していく場にするという。
窓から東京ドームの熱気を感じられる刺激的な環境に加え、東京ドームシティという広大なフィールドでの実証実験の機会も提供される。さらに、米国で実績のあるEmpireDAO創設者と連携したプログラムなどを通じ、グローバルな事業機会を創出していく構えだ。「enXross AWARD 2025」のファイナリストにはこの利用権が贈呈され、彼らが第一期生としてこの場所から未来のエンタメを創造していく。
目指すは「日本のSXSW」、そして「ユニコーン企業」の輩出
最後に、本プロジェクトの展望について赤木氏は力強く語った。
「enXrossを『日本のSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)』のような存在にしていきたい。東京ドームシティを、日本のエンタメ×テックの聖地にしたいと本気で思っています。我々は日ごろから様々なIPビジネスが展開される場で、ニュートラルな立ち位置でネットワークを持っている。これは他社にはない強みです」
海外の先進企業と話す中で、日本のIPコンテンツホルダーと協業したいというニーズは非常に高いと感じる一方、日本のコンテンツホルダー側にはその意識が薄いケースもあるという。「そうした海外企業と日本のIPを繋ぐ役割も、我々なら果たせるのではないか」と赤木氏は見ている。
「そして最終的な目標は、東京ドームシティからユニコーン企業のようなスターを輩出することです。AppleやGoogleがシリコンバレー発と言われるように、『あの企業は東京ドームシティから誕生した』と語られるような、場所に紐づくブランド性を生み出したい。東京ドームシティが『新しい体験が生まれる街』として認知されるよう、これからも挑戦を続けます。」
エンタメの聖地から、次はテクノロジーの聖地へ。東京ドームシティの壮大な挑戦は、まだ始まったばかりだ。


