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「現状維持は後退である」——渡辺パイプ渡辺圭祐社長が語る、インフラをつなぐ使命と“面白がる”組織づくり
ビジョナリー編集部 2026/08/28
全国に広がる営業拠点と物流ネットワークを通じ、社会のインフラを陰で支え続ける渡辺パイプ株式会社。1953年の創業以来、水道資材の販売から始まり、現在では住設や電設資材、さらには農業分野にまで事業の幅を広げている。同社を率いる渡辺圭祐社長は、大手商社で培った経験を礎に、業界の常識を覆す数々の挑戦を行ってきた。WBCや甲子園での大胆な広告戦略、グループ6,000人超を束ねる独自のマネジメント論、そして被災地支援に向けた移動式モバイルシャワーユニット「Smile 01」の開発など、常に新しいことを「面白がる」トップの素顔と、インフラ企業としての未来への覚悟に迫る。
商社時代に学んだ、相手への敬意と判断の軸
新卒で入社された大手商社でのご経験は、今の経営観にどのような影響を与えていますか。
新卒で三井物産に入社し、化学品部門で液晶パネルの材料を扱う仕事に就きました。当時は日本の液晶パネルが非常に強かった時代で、とにかく忙しく働いていました。
その時の上司には、本当に鍛えられました。しかし、今振り返れば理にかなった指導であり、私の社会人としての基礎になっています。社員に対して温かく、ユーモアと敬意を持って接する一方で、私情を挟まずに冷徹冷静に判断すべき時は判断する という今の私のマネジメントスタイルは、間違いなく当時の上司の影響を受けています。
また、入社5年目くらいの時に、海外の子会社を他社に売却する案件を担当しました。その際、数字や紙の資料だけで会社は動いていくものの、それだけでは捉えきれない現地スタッフの生活や思いがあることを痛感しました。数字だけではなく、その背景にいる一人ひとりの生活や思いまで想像して考える という姿勢は、この経験から学んだ大切な教訓です。
常識を覆す多角化戦略。反発を乗り越えた「仕組みづくり」
30歳で渡辺パイプに入社後、業界ごとに分かれていた商流のワンストップ化を推進されました。社内外の壁はどのように乗り越えたのでしょうか。
渡辺パイプはもともと、水道工事店さんにパイプやバルブなどを販売する水工業態100%の会社でした。そこから2002年頃に工務店さん向けの住設業態を、2008年頃に電気工事店さん向けの電工業態を始めました。現在では水工が約4割、住設が約3割、電工が十数%と、事業ポートフォリオが大きく広がっています。
新しい業態を始めた当初は、当然苦労の連続でした。工務店さんからは「パイプ屋からは買わない」と拒絶され、既存のお客さまからは「俺たちの中抜きをする気か」とお叱りを受けました。千葉県のあるお客さまからは、住設の営業所を出店するなと3、4時間ほど厳しく問い詰められたこともあります。最初はメーカーさんの協力も得られませんでしたが、地道に1社1社を開拓し、商売の規模が大きくなるにつれて、徐々に信用を得られるようになりました。
社内の体制づくりも手探りでした。最初は中途採用で専門人材を迎え、その知見を活かしました。一方で、個人の力だけに依存せず、その知識やノウハウを組織に蓄積していく必要があります。回り道のようでも、社内で人材を育成し、組織の能力として内部化していくことが、多店舗展開を成功させる正攻法 でした。
社内の反発に対しては、仕組みで解決しました。既存事業には安定した実績がありますから、新しい事業に対して慎重になるのは当然です。そこで、新しい事業にチャレンジして成果を出せば、その挑戦をきちんと評価する仕組みを作りました 。「戦え!」と発破をかけるだけでなく、皆が自ら挑戦したくなるような環境を整えたことが大きかったと思います。
WBCや甲子園で大規模な広告展開。その最大の目的は「採用・育成・定着」
近年、WBCや甲子園でのCMなど、大規模な広告展開をされています。どのような狙いがあるのでしょうか。
最大の目的は、人材の「採用・育成・定着」です。当社は現在、グループ売上高が5,000億円に迫る規模に成長しましたが、BtoBの事業であるため、一般的な知名度が十分ではないという強い危機感がありました。
特に地方での人材獲得は年々難しくなっています。当社は8人から12人程度の小規模な営業所が全国に何百カ所もあるため、各拠点での人材の確保は重要な経営課題です。そこで、2026年度からの5カ年計画の中で、今までとは桁を変え、数十億円の予算を組んでテレビCM等で一気に知名度を上げる 決断をしました。
結果として、応募数が増え、内定を出した後の承諾率も向上しています。今の若い方々は複数の内定を持っていますから、最後に当社を選んでもらうには、親御さんや周囲の方の安心感も重要になります。社名を知っていただいていることで、そうした安心感が最後の後押しになっていると感じます。また、採用面だけでなく、お客さまや仕入先様、そして何より社員やその家族からの反響が大きく、社員の誇りや家族の理解という面でも良いスタートが切れたと感じています。
6,000人超を束ねる経営哲学。メッセージは「4つまで」、組織は「縦に短く」
全国に広がる営業拠点、グループ6,000人超の社員を抱える組織において、コミュニケーションで意識されていることは何ですか。
私自身、全社会議をはじめ、全国の営業所訪問やエリア会議後の懇親会など、できる限り現場に出向いて直接コミュニケーションを取るようにしています。社員数が6,000人を超えた現在は、直接のコミュニケーションに加えて、オンラインの仕組みも活用しています。
その中で常に痛感しているのは、「相手に伝わるまでがコミュニケーションである」ということです。自分では伝えたつもりでも、一度発信しただけでは、一人ひとりの社員まで十分には届きません。伝言ゲームになってしまうからです。
だからこそ、私は 「方針は最大4つまでに絞る」 ことを徹底しています。言いたいことがたくさんあっても、優先順位が分からなくなるため極力削り、同じ言葉で繰り返し伝えるようにしています。
また、 「組織を縦に長くしない」 ことも強く意識しています。役割や責任が曖昧な中間階層を必要以上に増やさず、本社をコンパクトに保つ。階層が少なければ、ダイレクトに現場まで方針が伝わりますし、現場からの意見の吸い上げや意思決定のスピードも速くなります。
トップ自ら「面白がる」。シャワートラック開発に見る挑戦の風土
現場から新しい挑戦が生まれるような組織をつくるために、大切にしていることは何でしょうか。
まず大前提として、自分たちの本業そのものが社会貢献になっている という仕事の意義を伝え続けています。例えば能登半島地震の際、当社の近隣営業所は震災の翌日から店を開けました。私たちが資材を届けることが大切な復旧支援になり、日本のインフラを守ることにつながっています。
さらに、新しいことをやる際には、経営層がリスクを指摘するだけで終わるのではなく、自らが「面白がってサポートする」 ことを心がけています。
最近では、本社スタッフからの提案で、災害時に必要な場所へシャワー環境を届ける移動式モバイルシャワーユニット「Smile 01」を開発しました。4WD車両に太陽光パネルなどを備え、インフラ停止時にも稼働できる設計で、独立したシャワーブース2台のほか、空調、ベビーシート、洗面台も備えています。平時もイベント等で全国を回っていますが、こうしたアイデアが出た時に、投資回収の話だけを先にするのではなく、「これ、めちゃくちゃ面白いね」と経営トップが背中を押す。そうやって光を当てることで、社員も「会社から期待されている」と感じ、自発的な挑戦の風土が育っていくのだと思います。
「現状維持は後退である」。パイプ役として日本を元気にする未来へ
最後に、貴社が次に目指す未来のインフラ像と、若い世代へのメッセージをお願いします。
今後の未来像として、建設バリューチェーンの川上から川下まで、すべてに関わっていきたいと考えています。これまでのように商品をお届けするだけでなく、お客さまのホームページの制作支援や、全国13万社のお客さま同士のマッチングなど、生活インフラをつなぐ「パイプ役」としての機能をさらに強化していきます。
そして2030年以降は、 「元気社会を実現する会社になる」 というビジョンを掲げています。すでに農業分野では、グループ会社の「げんき農場」でイチゴやミニトマトを栽培し、就農人材の育成にも取り組んできました。当社グループのリソースを最大限に活用し、農業振興や建設業の人材育成、まちづくりなどに能動的に関わり、日本を元気にしていく覚悟です。
読者の皆様、特に若い世代の方々には、 「現状維持は後退である」 という言葉を贈りたいと思います。これは私が若い頃に教わった大好きな言葉です。一瞬一瞬を大切にし、同じ毎日をただ繰り返すのではなく、昨日の自分よりも1ミリでもいいから成長する。そんな気持ちで、日々の仕事に向き合っていただければと思います。


