
人類の新天地――ハンゲームをつくった千龍ノ介がつ...
9/17(水)
2025年
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ビジョナリー編集部 2025/09/16
cocone ONE(以下、ココネ)は、2008年に創業した「人の感性」を大切にしたデジタルコンテンツサービスを提供する会社である。スマートフォンアプリの「ポケコロ」シリーズをはじめとするソーシャルエンタテインメントコンテンツを多数展開する中、2025年1月に、新たにグループ全体で提供するサービスを「IAM」(Identity in Avatar Metaverse)と定義し、さらなる世界展開を図っている。同社の創業者で代表取締役会長兼社長を務める千龍ノ介氏は、日本でハンゲーム(現・ハンゲ)を展開した経験を持つ。現在は「感性のデジタルワールド」を展開し、良い会社をつくりたいと語る真意を伺った。
2000年頃の日本は、ネットビジネスの黎明期のような時代で、私はまだ30代前半でした。当時の私は、パナソニックの松下幸之助さんが戦後の貧しい日本を良くしていきたいという気持ちを持っていたのと同じように、 「ネットビジネスのパイオニアとしての社会的責任を果たしたい」 という気持ちがありました。そして、日本の人たちに支持されるようなサービスをつくるために、日本人のメンタリティ、琴線や機微に触れるようなこととは何かをひたすら考えていました。
私はまだ企業経営経験もなく開発者でもない状態で留学していたので、日本語は少し話せる程度で、強みでも何でもありませんでした。日本との接点もなければお金もない。いろいろ足りない中、 「お客様の心をつかみ、そのニーズにフィットすれば絶対潰れない、そのお客様たちが継続的に来てくれれば生きていける。だから、それに向かって頑張ろう」 と思っていました。お客様とつながって輪ができたら、社会的に何か貢献できるかもしれない。それが日本のお客様方の心の琴線に触れるということでした。
また、ネットビジネスには、大きく利便性を与えるビジネスと、感性を与えるビジネスの2つがあると思います。利便性を与えるビジネスには機能的なサービスが多い。例えば私たちがLINEを使っているのは、その利便性・機能性ゆえです。機能的なものは趣向に関係なく便利であれば使うのでプラットフォームになります。
一方で、感性を与えるサービス。漫画、アニメ、映画、音楽、ゲームなどは、自分が好きでなければお金を払いません。 好きなことにハマる、これが感性 だと思います。 基本的に感性のサービスを提供する会社では、利用される方々をユーザーとか利用者と呼ぶのではなく、「お客様」と呼ぶべきでしょうね。
お客様に好きになってもらうためには、お客様の琴線に触れるようなサービスを提供することが肝になります。お客様が何かを好きになってくれるというのはバリューです。そこで、私たちの気持ちが伝わるようなカタチをハンゲームというポータルサイトで提供してきました。ハンゲームは、キャラクターが「もうあなたは寂しくない」「もうあなたは一人じゃない」など、誰かとつながっていると伝えることで、いつでも楽しい一日を過ごすことのできるゲームです。それはまた、お客様一人ひとり自らがアクセスすることで、お客様にとって意味のある存在となっていたといえるでしょう。私たちは「ゲームポータルコミュニティ」という言い方をしますが、いつもそこにいて「寂しいからみんなでワイワイしたい」という気持ちを大事にして、それをゲームを介してつなぐということがハンゲームの核となるユニークなポイントだと思います。
「召命」という言葉は日本ではなかなか使わない言葉です。調べてみると、キリスト教で「神に呼び出されること。伝道者としての使命を与えられること」とあります。出どころはその辺りなのかと思いますが、当社では宗教的な意味合いはありません。私たちは「召命」を「最高の目標」と捉え、人々の持つあらゆる感性をカタチにし、自由に表現できる世界を生み出し続ける 。そして、その世界が人々にとって身近な存在となり、生きがいを感じられる 場所としてあり続けてほしいという想いを込めています。
良い会社をつくりたいというのはホームページに書いている通りですが、会社というものは大小に関わりなく、社会に対する何かをしなければならない使命があると思います。会社を大きくすることだけが目的ではないはずです。とはいえ私も30代に起業した頃は若気の至りで「天下を取りたい」「日本一になりたい」という気持ちがあったのは事実です。それが40代になると、大きくなるのもいいけれど、「良い会社としての生き様」というものを考えるようになりました。
世の中を見るとビジネスモデルはどんどん変わっています。Googleは検索からAIに変わっていく。トヨタももともとは車をつくってはいませんでした。任天堂は花札やトランプをつくって売っていました。ビジネスモデルの変革でいうと、ソニーはその典型だと思います。通信機器メーカーとして始まり、今ではエンターテインメントやゲーム、生命保険などの分野で強くなっています。ビジネスは時代に合わせてお客様のニーズを先取りしながらどんどん変えることができます。しかし、自分たちの生き様、フィロソフィーは変えなくていい。ただ強いだけのビジネスではなく、会社の社会的な存在意義というものがまずあるべきだと思っています。
私のところにスタートアップの若い経営者が来ると、「どうして会社をつくりたいのか」を問います。「ビジネスモデルがこうで、収益構造はこうなっています」と一生懸命に説明してくれますが、私は、そのビジネスモデルが失敗したらどうするのかまで考えてほしいと思っています。「どうして会社をやるのか」を考えることは「自分が会社をやることの意味」を問うことです。そこがしっかりしていれば、たとえそのビジネスが潰れたとしても苦難を乗り越えて、次のビジネスモデルを考え出してチャレンジしていけます。
良い会社をつくって、良い文化をつくっておけば社会の役に立つことになると思えたのは40代で、ココネをつくったのが42歳の時でした。私たちは、人々の持つあらゆる感性をカタチにし、自由に表現できる世界を生み出し続けることで、会社の存在意義を示していこう と思っています。ただ、良い会社にも食べていくための何らかのビジネスが必要ですが、そのこと自体は一番の目標ではありません。ココネという社名は「コ コロ、コ トバ、ネ ットワーク」というところからきていますが、この会社を維持するために何でもやるぞと思ってそう名付けました。何でも、といってももちろん、イリーガル(違法)なことではなく、意味のある仕事をしなければということを、冷静かつ真剣に考えました。