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2026

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    「溺れたくなかったら泳げ」――「ほっかほっか亭」創業から50年、食のインフラを創り続ける青木社長が語る“生涯現役”の経営哲学(前編)

    「溺れたくなかったら泳げ」――「ほっかほっか亭」創業から50年、食のインフラを創り続ける青木社長が語る“生涯現役”の経営哲学(前編)

     「ほっかほっか亭」の創業から50年、日本の「中食(なかしょく)」産業を牽引し続けてきた青木達也代表取締役会長兼社長。かつて常識だった「冷めたお弁当」の概念を覆し、温かい食事を提供する革新は、今や巨大な食のプラットフォームへと進化を遂げている。

     阪神・淡路大震災やBSE(別名:狂牛病)問題といった未曾有の危機を乗り越える中で培われた「食のインフラ」としての強い使命感。そして、Z世代を見据えた新たな挑戦から、M&Aを駆使したグループ経営の極意まで。激変する社会環境の中で常に攻めの姿勢を貫き、「溺れたくなかったら泳げ」と言い切る同氏に、半世紀にわたる軌跡と未来への展望を伺った。

    常識を覆した「温かいお弁当」。すべては日常の“ケの食事”のために

    創業から50年、青木社長を突き動かしてきたビジネスの原体験は何でしょうか。

     当時、保健所の指導もあり、お弁当は「冷ましてから売る」のが常識でした。しかし、市場で売っていたおにぎりは、温かいまま飛ぶように売れていたのです。誰もが温かいうちに食べた方が美味しいと感じているのに、法律や常識がそれを許さない。ならば、温かいお弁当を普通に売れるようにしよう と考えたのが、「ほっかほっか亭」の始まりでした。店名も、温かさをストレートに伝えるために名付けたものです。

     私は、お祭りやお祝いごとなどの特別な食事である「ハレの食事」ではなく、毎日食べる日常食、すなわち「ケの食事」を提供すること にこだわってきました。世界中の人が、およそ5時間もすればお腹が空きます。日常食市場は食全体の約95%を占める巨大なマーケットです。自分が一人の消費者として考えたとき、毎日の食事は「安くて、美味しくて、安全なもの」がいい。その基本を徹底することが私の原体験であり、原点です。

     特にこだわってきたのが「お米」です。どんなに美味しいおかずでも、ご飯が美味しくなければ意味がありません。当社では、精米工場を自社で持ち、在庫を0.5日分に抑えることで、毎日精米したてのお米を店舗に届けています 。そして、精米から4日以内で使い切るオペレーションを構築しました。というのも、コメは通常、精米後4週間ほど経つと劣化してしまいます。そこで我々はとことん新鮮さにこだわり、精米後の管理、配送というプロセスにこだわってきました。コメは銘柄も大事ですが、それ以上に加工プロセスが大切になってきます。さらに、店舗スタッフによるご飯の盛り付けコンテストを開催するなど、「最も美味しい状態のお米を提供するプロセス」を仕組み化 しています。

    危機が教えてくれた「食のインフラ」としての使命と、生産への参入

    お弁当屋の枠を超え、生産から物流、販売まで一気通貫させる構造改革に至った分岐点を教えてください。

     大きな転機は2つありました。1つは、1995年の阪神・淡路大震災です。我々の会社はもともと近畿地区を拠点に出発し、西宮だけでも70店舗ほどがありましたが、その多くが被災し、稼働不能になりました。私自身も被災しました。しかし、インフラが復旧した店舗から、寒さの中何でもいいから温かい食事を出そうと炊き出しを行いました。そのとき、非常事態において温かい食事を食べることが、人々の不安をどれほど和らげるか を目の当たりにしたのです。我々は単なる弁当屋ではなく、人々が空気や水のように必要とする「食のインフラ」を担っているのだ と再確認しました。この体験は、今年で15年目となる東日本大震災の際にも大いに役立ち、被災地にはレトルト食ではなく、水とガスを持ち込んで冷凍食を調理して、ハンバーグ弁当などを提供することができました。

     もう1つは、BSE(別名:狂牛病)問題です。牛肉の供給が止まり、一部の牛丼チェーンが休業を余儀なくされる中、私は「休んではいけない」と強く思いました。自分たちのこだわりを押し通すことよりも、お客様の求めているものを出すべきだと。何があっても食事を供給し続けることこそが我々の使命 だと痛感したのです。

     この2つの経験から、どんな危機が起きても安定的に供給できる体制を作らなければならないと考え、農業や水産業などの生産から関わる決断をしました。新入社員を大規模農場に派遣し、田植えから収穫まで1年間の研修を積ませたのもその一環です。そこから、カルガモ農法やドローンを初期のころから導入してきました。今では、大規模農家やJAと年間契約を結び、天候や相場に左右されない計画生産を実現しています。そうすることにより、自分たちがコメなど価格を変動させずに安定させることができているから、農家とも信頼関係を構築しやすい。契約しやすい。生産者が安心して設備投資できる環境を作ることで、我々も安定して良質な食材を確保できる。中間業者を通さず、生産者と直接結びつく仕組み を構築してきたことが、今日の強さに繋がっています。

    異業種連携と役割分担が創り出す、新たな食のプラットフォーム

    株式会社ティーケーピー(以下、TKP)との提携など、異業種との連携によって日本の食のラストワンマイルをどう変えようとされていますか。

     これからの時代、生産側も消費側も大規模化が進む中で、「役割分担」を徹底することが最も重要 になります。かつてはすべてを自前でやらなければなりませんでしたが、今はそれぞれのエキスパートが専門分野に特化した方が、圧倒的にロスが減り、効率が上がります。

     例えば、貸会議室を展開するTKPさんとの提携もそうです。会議室の利用者は、短い休憩時間で食事をとる必要がありますが、外へ食べに行く時間はもったいない。そこで我々が、予算や要望に応じたお弁当を現地へジャストインタイムでお届けします。ホテルの立食パーティーでも同様です。ホテルは場所の設営に注力し、機材の搬入や裏方の調理、洗い物などはすべて我々が引き受けます。さらに物流も強化し、全国どこへでも食品を届けるトラックを走らせているほか、グループ会社が2002年のFIFAワールドカップにケータリング事業で参入し、その後、G7会議や東京オリンピックなど、大規模イベントで食事を提供することも行っています。

     誰もが自前主義にこだわる時代は終わりました。お互いの強みを活かし、徹底的に役割分担をすることで、無駄なロスをなくす。これこそが、社会全体で必要なものを最適なタイミングで提供できる「食のプラットフォーム」のあり方だと考えています。
    <後編へつづく>

    #ほっかほっか亭#経営哲学#リーダーシップ#ビジネス#食品業界#食のインフラ#イノベーション

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