
社会を「丹(あか)と青」の豊かな色で鮮やかに彩る...
7/2(水)
2025年
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ビジョナリー編集部 2025/06/30
コロナ禍を経て、市場の二極化が加速するブライダル業界。その中で、独自の哲学で成長を続けるのが株式会社ノバレーゼだ。同社は「人と企業文化」を競争力の源泉にしながら、顧客からの揺るぎない信頼を獲得している。 今回は、代表取締役社長である荻野洋基氏にお話を伺い、業界の課題に真摯に向き合いながら、歴史的建造物の再生や海外展開、そして「ブライダルを超える」という大胆な未来構想まで、その経営哲学の核心に迫った。
ブライダル業界は今、大きな二極化の渦中にあります。特に2022年から2023年にかけては、コロナ禍で結婚式を延期されていたお客様が一気に集中し、業界全体が一種のバブル状態にありました。しかし、その反動も大きく、昨年あたりから経営の厳しさが増す企業が出始めています。自社だけが良ければいいという時代は、もう終わりました。私たちはブライダル業界の一企業としてだけでなく、「結婚式という文化をどう継承していくか」という視点を持ち、業界全体の未来をどのようにつくっていくかということが、求められていると考えています。
このような状況下で、私たちが創業以来、大切にしてきたのが「人と企業文化」です。
結婚式は、400万~500万円という決して安くない費用を、形のないものにお支払いいただく、非常に特殊なサービスです。だからこそ、私たちがお手伝いする側は、お客様の立場に立ち、目先の利益ではなく「お客様にとって何がベストか」を常に考え抜く必要があります。
残念ながら、今の業界にはお客様の信頼を損ないかねない慣習も横行しているのは事実としてあります。「契約するまで帰さない」といった長時間にわたる接客や、「今日決めれば半額になる」といった大幅な値引きで契約を迫る。入口は安く見せても、後から金額が吊り上がっていく。これでは、お客様に不信感が募るだけでなく、働くスタッフも疲弊し、やりがいを見失ってしまうのではないかと思います。
だからこそ、私たちは基本的に値引きをしないという営業スタイルを貫いています。
もちろん、「他社では値引きがあるのに、ノバレーゼさんにはないのですか?」と聞かれることもあります。しかし、私たちは価格以上の価値を提供できるという自信と誇りを持っています。誠実な姿勢を貫くことが、遠回りに見えても、お客様からの信頼を勝ち取り、最終的には「ここで結婚式を挙げてよかった」という最高の満足に繋がると信じています。この「人と企業文化」こそが、現在の私たちの業績を支える最も大きな柱です。
またビジネス面では、競合の少ない地方に積極的に展開してきたことや、衣装やフラワー、写真などを自社で一貫して提供する「内製化」も、他社と差別化する大きな強みとなっています。
歴史的建造物の再生事業には、大きく3つの意義があると考えています。
一つ目は、 「文化と歴史の継承」 です。建物が持つ歴史的背景や文化的価値を次世代に繋いでいくことは、私たちの重要な使命です。
二つ目は、 「地域貢献と活性化」 です。これまで活用されていなかった建物を私たちが再生し、例えば平日にランチ営業などを行うことで、地域の方々が気軽に集える場所が生まれます。「地元にこんないいところがあったんだ」と感じていただくことが、地域の活性化への貢献に繋がると信じています。
そして三つ目が、 「経済的価値の創造」 です。歴史を重ねてきた建物には、多くの人々の想いや物語が宿っています。その色褪せない価値は、時代の流行に左右されにくく、お客様を惹きつける非常に高い集客効果を持っています。
先日もベトナム現地法人の設立を発表しましたが、その魅力は、経済成長率の高さと人口の多さにあります。以前、韓国や中国でビジネス展開した際には、文化や人間関係構築の面で難しさを痛感しましたが、非常に親日的で勉強熱心なベトナムの方々の姿には感銘を受けました。まずはレストラン事業など、初期投資を抑えられる形で着実に足場を固め、アジア市場に挑戦していきたいと考えています。
そしてもう一つ、私たちがチャレンジしなければならないのが、海外から日本へお客様をお呼びして結婚式を挙げていただく、インバウンドによる需要の強化です。
かつて日本人がハワイで結婚式を挙げたように、これからは世界中の方々が、日本の持つ歴史や文化に魅力を感じて、この場所で式を挙げる時代が来ます。現に、私たちの施設にも海外からのお客様が増えています。為替の影響も大きいですが、それ以上に、日本の魅力が伝わっている証拠だと思います。今後は、海外のお客様向けのホームページを作成するなど、具体的な取り組みを加速させていきます。これはまだ誰も成功していない領域だからこそ、私たちが先陣を切って挑戦すべき大きなテーマだと捉えています。
私がこの会社に入社したのは、「何をするか」よりも 「誰と働くか」 に心を惹かれたからです。実はブライダル業界自体にはまったく興味はありませんでした。しかし、先輩社員たちの姿に、「将来こんなふうになりたいな」と感じ、自分の未来を重ねることができました。
しかし、リーダーとしての道は、大きな失敗からのスタートでした。入社4年目でゼネラルマネージャーになり、浜松のオープニングを任された時のことです。当時の私は、新卒で育ってきた自分の価値観や「ノバレーゼとはこうあるべきだ」という考えを、中途採用で入社した年上のスタッフたちに一方的に押し付けてしまいました。結果、多くの社員が辞めていき、結婚式の当日にウェディングプランナーが来ないという最悪の事態まで起きました。
そのとき私は、「なぜ分かってくれないんだ」と、すべてを相手のせいにしていました。しかし、それは間違っていました。そのことがあっていろいろ考えるようになったときに、 「人を変えようとするのではなく、まず自分が変わることが大事だ」 ということに気づきました。その時にはもう4、5年が経っていましたが、その頃からマネジメントの方法がまったく変わってきたと思います。結果、メンバーの姿勢も変わってきて、成果もついてくるようになりました。成功体験よりも、この時の失敗から得た学びが、私の経営者としての揺るぎない軸になっています。
それ以来、相手の気持ちを考え、どうすれば同じ方向を向いてくれるかを自問自答するようになりました。部下にはどんどん仕事を任せ、たとえ失敗したとしても、その先に必ず成長があると信じて見守る。私自身がそうやって上司に任せてもらってきたからです。最近の若者はチャレンジしないとよく言われますが、それは、その上の上司がチャレンジしていないからだと私は思います。だからこそ、私自身が誰よりもチャレンジし続ける背中を見せていかなければならない。そう強く感じています。
社長就任を告げられたのは、発表の前日でした。取締役でもなかった私がいきなり社長へ、という異例の抜擢でしたが、迷わず「はい」と即答したのを覚えています。社長になりたいと強く望んでいたわけではありません。しかし、その時にはもう、覚悟はできていました。
大きな転機となったのは、2011年、鎌倉の店舗責任者をしていた時のことです。地元で影響力のある方から、「今のお前はここの責任者をやる器ではない」と厳しい言葉をいただきました。そして、その方はこう続けたのです。 「常に、今の自分の2つ、3つ上の立場で物事を考えなさい」 。
当時の私にとって、2つ、3つ上の立場とは、まさに社長でした。その日から、私はその店舗を「自分の会社」だと捉え、常に「社長だったらどう判断するか」という視点で仕事に取り組むようになりました。すると、不思議なことに、店舗の数字はもちろん、スタッフのやりがいやお客様や地元の方々からの評価まで、全てが良い方向へと変わっていったのです。
この経験から、社長という役職を目指すのではなく、「今いる場所で、社長の覚悟を持って仕事をする」ことが何よりも重要だと学びました。その積み重ねがあったからこそ、突然の就任要請にも、揺らがず覚悟を決めることができたのだと思います。
先日、新たなビジョンとして 「ロマン溢れるアイデアで、胸が熱くなる瞬間を世界中に」 を掲げました。 これからはブライダルの枠を超えることにも挑戦して、世界に感動を届ける組織になっていく、そんな可能性をこのビジョンに描いています。
もちろん、これからもブライダル事業は大切に育てていきます。既存店の改装やM&Aを通じて、投資コストを抑えながらシェアを拡大していく計画です。しかし、この事業一本足打法では、コロナ禍のような不測の事態には対応できません。
今後は、ブライダル事業で培ったノウハウを活かし、レストランの運営受託や、これまで国内では手掛けてこなかったフォトウェディングといったセレモニーの領域も強化していきます。私たちの強みである「内製化」を武器に、お客様のあらゆるニーズに応えられる体制をグループ全体で構築していく。一つの会社の中に、様々な事業を持つ「もう一つの会社」を作るようなイメージです。
私が採用の場で学生に伝えるのは、「ブライダルの仕事がしたいだけなら、うちじゃない方がいい」ということです。私たちが求めるのは、会社の歯車になる人材ではなく、世の中に元気を与え、誰かを幸せにすることに喜びを感じ、会社と共に未来を創っていきたいという志を持つ仲間です。
企業の競争力の源泉は、最終的に「組織文化」に行き着くと確信しています。そして、その文化を創るのは「人」です。これからも「人」への投資を惜しまず、ブライダル業界の枠を超えて、世の中に新たな価値を提供し続ける企業でありたいと考えています。