「最初の3年は頭を横に置け」——JACリクルート...
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ビジネスの根幹をなす「人間関係」と、アジア全域でのナンバーワンの獲得
越村 義雄 2026/07/10
動物病院やペット専門店の現場を回るなかで、私はさらに一歩踏み込んだ手法を取り入れました。それは、獣医師の先生や動物看護師の方、そして専門店のスタッフが、実際に「自宅で一緒に暮らしているペット用」として、無償でフードのサンプルを提供するという取り組みです。
これには明確な意図がありました。毎日ペットの健康と向き合っているプロフェッショナルの方々自身が自宅で使い、その毛並み、便の変化や健康状態の良さを実感していただくことが、何よりも強力な納得感を生むと考えたからです。実際に使って「これは本当にいい」と確信していれば、飼い主様から「先生、どのフードが良いですか?」と聞かれたときに、心の底から「『サイエンス・ダイエット』が良いよ」と薦めてくれるようになります。
同じように、ペットショップで子犬や子猫が新しく購入された際、そのオーナー様に「子犬用・子猫用のフードを無償でプレゼントする」というサポートも始めました。他社がまだどこもやっていない時代でしたから、ショップ側も「これでお客さんに喜んでもらえる」と大歓迎してくれ、こぞって私たちへの協力を約束してくれました。
こうした動きを見て、危機感を覚えた競合メーカーが「うちのフードも置いてくれ。一頭売れるごとにショップに1,000円の協力金も払うから」という逆攻勢をかけてきたこともあります。私たちはそれに対抗し、従来通りの無償フードに加えて1,000円の協賛金を出す形をとるなど、一時期は支払額が2,000円にまで跳ね上がるような激しい競争にも巻き込まれました。しかし、すでに現場のプロとの間に築かれていた信頼の絆は揺るぎませんでした。
テレビCMなどの派手な宣伝は打たず、徹底して専門家ルートを攻める。この戦略が実を結び、1995年には日本のドライペットフード市場において、犬ではマーケットシェア1位、猫では3位を獲得。そして2006年から2009年にかけては、全体のペットフードメーカーの中で、ついに業界ナンバーワンのシェアを確固たるものにすることができました。
この日本での実績が認められ、私は後にアジア太平洋地域の担当社長を任されることになります。私の役割は、オーストラリア、ニュージーランドをはじめ、台湾、香港、韓国、インドネシア、フィリピン、タイ、マレーシア、シンガポールといった国々の事業を統括することでした。
ここでも私の軸はブレませんでした。各国の方針を「テレビ広告に頼るな。獣医師、ブリーダー、ペット専門店の3つを集中して攻めろ」と統一したのです。そして毎年、オーストラリアやタイ、シンガポールなど開催地を毎年変えながら、アジア太平洋地域のカンファレンスを開催しました。それぞれの国のディストリビューター(販売代理店)に自国の成功事例を英語で発表させ、互いにアイデアを共有し、吸収し合う相乗効果を生み出した結果、私が担当したすべてのアジア諸国において、専門家チャネルでのナンバーワンシェアを達成することができたのです。
ビジネスの根幹にあるのは、国籍を超えた強固な「人間関係」と、現場の熱量にほかなりません。どれほど時代が移り変わり、デジタル化や効率化が進もうとも、最後に人を動かし、市場を動かすのは、泥臭く積み上げた信頼と「この産業を良くしたい」という人間の情熱です。日本、そしてアジアで培ったこの絆と現場主義の精神こそが、私の経営者人生における大きな財産であり、これからの共生社会を切り拓く、確かな礎になると確信しています。


