
宝くじを買うことは社会を支えること?その収益の行...
10/20(月)
2025年
SHARE
ビジョナリー編集部 2025/10/10
医師の育成や地域医療の中核も担う国立大学病院。しかし今、その経営が過去最大の赤字に直面し、「このままでは地域医療が崩壊しかねない」との声が現場から上がっています。
なぜ、国立大学病院がこれほど厳しい状況に追い込まれているのでしょうか?本記事では、国立大学病院の役割と仕組み、そして深刻な赤字問題の背景や影響、求められる改革まで、分かりやすく解説します。
※ 記事の情報は2025年10月時点のものです。
全国に42ある国立大学病院の主な役割は大きく3つです。
この三位一体の役割ゆえに、国立大学病院が機能不全に陥ると、患者・医療従事者・地域社会すべてに深刻な影響が及びます。
国立大学病院長会議によると、2024年度の赤字は286億円、2025年度の経常損益は全体で400億円超に達する可能性が高いとされています。これは2004年の法人化以降、最大の規模です。
42病院のうち33病院が赤字となる見込みです。2024年度比で8病院増加。以前は黒字だった病院も、赤字に転落しています。
なぜ、これほどまでに赤字が拡大しているのでしょうか?
2025年度、国立大学病院の人件費は325億円(6%)増加する見通しです。これは「医師の働き方改革」による時間外労働の規制や、職員の処遇改善が背景にあります。加えて、看護師不足による人材紹介会社への手数料や委託費もかさみます※1。
医薬品費や診療材料費も258億円(4%)増加。特に数千万円規模の高額薬剤や、ロボット手術などの高度医療にかかるコストが増えています。実は、これらの費用は健康保険で全て賄われるわけではなく、病院の自己負担が大きいのです※2。
エネルギー価格や物価の上昇は、光熱費や材料費までも押し上げています。経営努力で節約しても、固定費の増加は止まりません。
「経営努力でカバーできないの?」という疑問が湧くかもしれません。実際、多くの国立大学病院では以下のような施策を実施しています。
しかし、これだけやっても経費増加が圧倒的に上回ります。令和6年度の東京科学大病院では、コロナ前に比べて医業収入が55億円増えた一方で、光熱費や人件費などの固定支出は73億円増加。増収以上に支出が膨らみ、赤字額は拡大しています※3。
結果として、一部病棟の閉鎖やサービス縮小を余儀なくされている病院も出てきました。
設備投資ができないことで、高度医療の提供に影響が出ています。耐用年数切れ機材の継続使用や、最新機器を導入できない状態が常態化。新規治療や研究プロジェクトにもブレーキがかかり始めています。
国立大学病院は、地域の医療機関へ医師を派遣する「医療の供給源」でもあります。しかし、経営悪化で医師の確保や教育に余裕がなくなれば、派遣体制の維持が困難になります。実際、名古屋大学病院の病院長は「大学病院の魅力が失われれば、地域医療の崩壊につながる」と強い危機感を表明しています。
診療の負担増により、医師が研究や教育に割ける時間が激減しています。全国調査によれば、「週平均5時間以内しか研究できない」医師が60%に上昇。若手医師の約8割が研究時間ゼロという現実も浮かび上がりました。結果として、日本発の医学論文の「質」も低下しつつあり、国際的な競争力の低下が懸念されています。
国立大学病院の職員の間では、長期休業者が増加傾向にあります。特にコロナ禍以降、過酷な労働環境と経営悪化が重なり、心身の健康を損なうケースが目立っています。
国立大学病院長会議は、2026年度の診療報酬改定で11%のプラス改定を強く要望しています。過去の経営悪化分や人件費・物価上昇分を反映したものであり、既に他の業界(郵便料金など)で同様の水準の値上げが行われていることを踏まえると「むしろ控えめな数値」との意見も多くあります。
もし十分な診療報酬の引き上げや公的支援がなければ、大学病院は機能不全に陥り、結果として患者や社会全体が大きな不利益を被るリスクが高まります。
特に国立大学病院が担う高度医療は、診療報酬体系の仕組み上「やればやるほど赤字になる」構造的な問題を抱えています。ロボット手術や高額薬剤治療などは、技術料こそ保険でカバーされても、設備費や消耗品代は病院の自己負担。採算面で苦しくなれば、新しい治療や臨床研究に踏み切る余力が失われてしまいます。
国立大学病院の赤字問題は、日本の医療水準、医師の育成、地域医療の持続性、そして新薬開発や基礎研究など、あらゆる分野に連鎖的な影響が及びます。
これらを守るためには、
こうした多面的な対策が不可欠です。
国立大学病院が今、過去に例を見ない危機に直面しています。しかし、ここで踏みとどまるか、あるいは日本の医療が大きく後退するかは、社会全体がこの問題にどう向き合うかにかかっています。
これらは、私たち一人ひとりの暮らしにも直結しています。今後も、国立大学病院の現場がどう変わっていくのか、制度や支援体制がどう改革されていくのか、引き続き注目していきます。
※1,※2:https://www.m3.com/news/open/iryoishin/1299449
※3:https://www.sankei.com/article/20250530-P3BD2DXSY5OK7K27J2ILESP2L4/