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2025

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    最低賃金はいつ誰が決めるのか。どのようなときに上がるのか

    最低賃金はいつ誰が決めるのか。どのようなときに上がるのか

    2025年度の最低賃金について、引き上げ額の目安が全国平均で過去最大の63円(6.0%)と決まりました。今後、各都道府県の審議会で目安通りに改定されれば、全国平均が現在の1055円から1118円になり、初めて全都道府県での1000円台が実現することになります。
    本記事では、「最低賃金」の決め方や、引き上げの流れについて、事例や影響も交えながら、わかりやすく解説していきます。

    そもそも「最低賃金」とは?

    まず最低賃金とは、「企業が労働者に支払わなければならない最低限の時給・日給・月給額」を法律で定めたものです。この最低賃金を下回る給与で労働者を働かせることは、原則として法律違反となります。

    最低賃金法の目的

    最低賃金法が制定されている最大の理由は、「労働者の生活の安定」と「労働力の質の向上」を守るためです。
    もし最低賃金がなければ、企業はコスト削減のために給与を極端に下げることも可能になり、働く人々の生活基盤が脅かされてしまいます。
    実際、最低賃金が設定されていなかった時代は、生活に必要な水準に達しない賃金で働かされる事例も多く、そこから社会全体の健全な発展を目指してこの制度が生まれました。

    最低賃金は「誰が」「いつ」決めるのか?

    決定のプロセス

    「最低賃金って、国が一方的に決めているの?」と誤解されがちですが、実は多くの関係者の議論を経て決まります。

    1. 中央最低賃金審議会(厚生労働省の諮問機関)
    • 労働者代表、使用者(企業)代表、公益(有識者)代表で構成
    • 毎年7~8月頃、物価上昇率や賃金動向、経済状況などをもとに「引き上げの目安額」を審議・決定
    1. 地方最低賃金審議会(各都道府県ごと)
    • 中央の目安を参考にしつつ、地域の実情(物価・賃金水準・経済力など)を踏まえ、独自に審議
    • 地域の中小企業や労働者の代表も含まれており、現場の声が反映される
    1. 都道府県労働局長が最終決定・告示
    • 地方審議会で決まった内容をもとに、各都道府県ごとに正式な最低賃金額が定められます
       

    この流れが毎年繰り返され、通常10月から新しい最低賃金が順次適用されます。
    つまり、「最低賃金がいつ上がるか」を知りたい場合は、毎年夏の審議と秋の適用時期をチェックするのがポイントです。

    最低賃金が「上がる」タイミングとその背景

    なぜ毎年見直されるのか

    近年、最低賃金は右肩上がりとなっています。その理由や背景には、次のような要因があります。

    • 物価上昇(インフレ)
      生活に必要な物やサービスの価格が上がれば、現状の賃金では生活が苦しくなります
    • 賃金全体の上昇傾向
      他の労働者の賃金が上がっていると、最低賃金も連動して上がる必要があります
    • 国の政策的な目標
      政府は「全国平均1,000円以上」などの目標を掲げており、これに向けて段階的に引き上げられています
    • 人材確保や貧困対策
      働けば生活に困らない水準を確保することで、雇用の安定や社会保障費の抑制、少子化対策につなげようとしています

    「地域別」と「特定(産業別)」2つの最低賃金

    最低賃金には2つの種類があります。

    地域別最低賃金

    • 都道府県ごとに決められ、その地域で働く全ての労働者・雇用形態(正社員・パート・アルバイトなど)に適用されます
    • 例えば、東京都で働く場合は東京都の最低賃金が、北海道なら北海道の最低賃金が基準となります

    特定(産業別)最低賃金

    • 特定の産業(例:鉄鋼業、木材製造業など)に対して設定される、地域別最低賃金より高い水準の最低賃金
    • 地域の労働局長が、必要に応じて産業別に設定します

    どうやって「自分の給与が最低賃金を下回っていないか」確認する?

    「自分の時給は最低賃金を満たしているだろうか?」と不安に感じたことはありませんか?確認方法はとてもシンプルです。

    支払い形態ごとのチェック方法

    • 時給制の場合
      → 支払われている時給が、都道府県ごとの最低賃金以上かを確認
    • 日給制の場合
      → 日給を「1日の所定労働時間」で割って、時給換算した額が最低賃金以上かをチェック
    • 月給制の場合
      → 月給を「1ヶ月の平均所定労働時間」で割って、時給換算額を比較
    • 出来高払いや請負制の場合
      → 総賃金額を総労働時間で割り、時給換算額が最低賃金を下回っていないか確認

    最低賃金に「含まれない」手当もある

    最低賃金の比較対象となるのは、基本的な賃金部分です。次のような手当は、最低賃金の対象に含まれませんので注意しましょう。

    • 残業代・休日手当・深夜手当
    • ボーナスや賞与
    • 慶弔手当
    • 通勤手当・家族手当・皆勤手当

    最低賃金を下回る給与だった場合はどうすればいい?

    もしも最低賃金を下回る給与で働かされていたら、その契約は自動的に「最低賃金と同額」へ修正され、その差額分を請求する権利があります。
    実際の請求方法としては、

    • まずは労働条件通知書や給与明細をもとに、証拠を揃える
    • 会社に対して内容証明郵便などで差額の支払いを請求する
    • それでも改善されない場合は、労働基準監督署や弁護士に相談
       

    となります。

    違反した場合の罰則

    最低賃金法に違反していた場合、使用者には50万円以下の罰金が科されることもあります。
    「うちは合意の上で…」という主張も通用せず、法律で自動的に最低賃金が適用される仕組みです。

    最低賃金引き上げによるメリットとデメリット

    上昇のメリット

    • 働く人の生活が安定しやすくなる
    • 従業員のモチベーション向上や離職防止につながる
    • 人材確保がしやすくなる
    • 貧困対策・少子化対策など社会的な課題の改善にも資する
       

    たとえば、「年収が上がったことで仕事への満足度や幸福度が高まった」という調査結果もあります。最低賃金引き上げは、金額アップ以上の効果をもたらしているのです。

    企業側のデメリット

    • 人件費の増大
    • 利益の減少
    • 扶養内で働くパート・アルバイトの労働時間減少による人手不足
    • 正社員の負担増加やモチベーション低下の懸念
       

    特に中小企業では、時給の上昇が経営を圧迫するリスクも。実際に、賃上げ分のコストを価格に転嫁できずに苦しむ企業も増えています。

    企業ができる対応策

    • 給与設定の見直し
    • 業務の効率化やシステム化による生産性向上
    • 従業員のスキルアップや研修導入による付加価値の向上
    • 新たな人材の採用や働き方の見直し
       

    このような取り組みを通じて、最低賃金引き上げを「コスト増」ではなく「会社の成長のチャンス」と捉える企業も増えています。

    まとめ:最低賃金の仕組みを知ることが、より良い働き方・経営への第一歩

    • 最低賃金は、毎年夏に関係者の議論を経て決まり、秋から適用
    • 都道府県ごと・産業ごとに異なる基準がある
    • 生活や企業経営に直結する大切な“ルール”である
    • 自分の給与が最低賃金を満たしているか、定期的にチェックを
       

    最低賃金の動きを知ることで、「安心して働ける社会」と「持続的な企業成長」の両立が、きっと見えてくるはずです。

    #最低賃金#賃上げ#労働法#働き方改革#人事労務#給与#時給アップ#労働基準法#企業経営#中小企業

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