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2026

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    日本代表エース・上田綺世の原点は鹿島学園にあり――“孤高のストライカー”を育てた名将・鈴木雅人監督の育成メソッド

    日本代表エース・上田綺世の原点は鹿島学園にあり――“孤高のストライカー”を育てた名将・鈴木雅人監督の育成メソッド

    2026年1月。第104回全国高校サッカー選手権大会の決勝。聖地・国立競技場に、新たな王者の名が刻まれた。鹿島学園。まったくの無名校を、就任から25年かけて頂点へと導いたのが、指揮官・鈴木雅人監督である。

    だが、この日本一は奇跡ではない。 鈴木監督が一貫して築き上げてきた、「個を殺さず、未完成な才能を育む」という独自の育成システムが、ついに実を結んだ必然の結果である。

    このシステムの力を、今大会の優勝より以前に、世界レベルで証明していた男がいる。日本代表の絶対的エース、上田綺世だ。なぜ、鹿島学園から日本一のチームが生まれ、世界で戦うストライカーが育つのか。優勝の熱狂の裏にある、人を劇的に伸ばすためのメソッドに迫る。

    「完成品」はいらない。投資すべきは“違和感”

    中学時代の上田は、全国的に名の知られた存在ではなかった。 体は細く、フィジカルコンタクトに弱い。足元の技術も決して完璧とは言えない。いわゆる「早熟の天才」からは程遠い存在だった。

    だが、鈴木監督は、その未完成な少年のプレーに、ある種の“違和感”を見出していた。 「粗削りだが、感覚が違う。」ボールの収まりは悪い。しかし、ゴール前でボールを呼び込む一瞬の嗅覚、DFの背後を取るタイミングだけは、教えられてできるものではなかった。

    多くの組織は、即戦力となる「完成品」を求めがちだ。しかし鹿島学園は、この未完成な才能を「規格外」として排除せず、「投資すべき資産」として受け入れた。「今の欠点」ではなく、「未来の最大値」にベットする。この採用方針こそが、後の日本代表エースを生み、そして今回の全国初優勝へと繋がる強固な土台となった。

    「ボールを持つのは90分のうち2分」オフ・ザ・ボールが決める勝負の明暗

    鹿島学園で上田が徹底的に叩き込まれたのは、シュート練習ではない。「シュートを打つ前の作法」だ。

    FWがボールを持ってプレーする時間は、1試合90分のうち、わずか2分程度に過ぎない。残りの88分、つまり「ボールがない時間(オフ・ザ・ボール)」の質が、勝負の9割を決める。

    鈴木監督の指導は具体的かつ論理的だ。 パスが出る前、どこに立つか。相手DFの視界からどう消えるか。一度動き出し、止まり、もう一度入り直す。 上田の武器である「動き出し」は、天性の勘ではなく、高校時代にインストールされた 「準備のアルゴリズム」 である。

    成果は、本番のパフォーマンスで決まるのではない。その数秒前までの準備ですでに決着がついている。ビジネスにおいても普遍的なこの真理を、高校生の上田はピッチ上で体現し続けていた。

    スランプこそ、土台を創るチャンス

    順風満帆に見えるキャリアにも、断絶はある。高校2年の春、上田はスランプに陥った。 成長期特有の身体のアンバランス、ライバルの台頭、スタメン落ちの屈辱。

    ここで凡庸な選手は、目先の結果を求めて小手先の技術に走る。だが、上田と鹿島学園のアプローチは逆だった。「見えない土台」を作り直すことを選んだのだ。

    フィジカルコーチの助言に従い、地味なスクワットと体幹トレーニングを繰り返す日々。華やかなゴールシーンの裏で、泥臭く、即効性のない基礎づくりに時間を費やした。 その結果、相手にぶつかられても倒れない「軸」が完成する。現在、世界の大男たちを背負ってもビクともしない上田の強靭なフィジカルは、最も苦しかったこの時期に地中深く張られた「根」の賜物だ。

    最短距離を行くことが、常に最善ではない。停滞期にこそ、深く潜れるか。人の成長曲線は、そこで大きく分かれる。

    ゴール前は「思考」を捨てろ

    「ゴール前では考えるな。練習で準備してきた選択肢だけを信じろ」

    鈴木監督のストライカー育成における、究極のテーゼだ。 コンマ数秒を争うゴール前で、「どうしようか」と考えた時点で負けが決まる。思考はスピードを殺すからだ。

    上田のゴールシーンの映像を観ると、そこに迷いはない。 ボールが来る前に思考を完了させ、インパクトの瞬間は「自動化」された本能が体を動かす。これは野性ではない。膨大な練習量によって思考をスキップできる領域まで到達した、論理の帰結である。

    優れた意思決定とは、本番で考えることではない。「考えなくても体が動く」状態を事前につくり上げることなのだ。

    「教える」のではなく「気づかせる」

    鹿島学園の強さは、トップダウンの強制力ではない。選手自身に「オーナーシップ(当事者意識)」を持たせる点にある。

    上田自身、戦術について鈴木監督に意見し、練習メニューを提案することもあったという。「言われたことをこなす兵隊」ではなく、「自ら解を導き出す開拓者」を育てる。その環境が、大学、Jリーグ、そして欧州・代表と、ステージが変わっても適応し続けられる「修正能力」を育んだ。

    自主性は、放任からは生まれない。 失敗を許容し、問いを投げかけ、個を信じ、任せる「信頼の構造」があって初めて機能する。

    環境が人を創る――自走する人材が勝利を生みだす

    第104回大会での優勝メンバーたちも、上田綺世と同じように、この土壌で育まれた。 鹿島学園という環境が、彼らを型にはめず、根を張る時間を待ち、自走する力を授けたからこそ、頂点に立つことができたのだ。

    「天才は、放置では育たない。そして、管理しすぎても枯れてしまう」

    鈴木監督が25年かけて作り上げたグラウンドには、今日も未来の怪物や、次の王者を育むための“余白”と“規律”が共存している。人を育て、組織を強くしようとする全てのリーダーにとって、鹿島学園と上田綺世の物語は、一つの強力な指針となるはずだ。

    #高校サッカー#鹿島学園#鈴木雅人監督#茨城旋風#上田綺世#サッカー育成#日本代表#ストライカー#人材育成#才能開発#教育改革#指導法

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