
難問が山積する「経営とIT」の交接点、CIO L...
8/30(土)
2025年
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ビジョナリー編集部 2025/08/26
「平成の経営の神様」とも称される稲盛和夫。京セラ、KDDIの創業、そして倒産寸前のJAL(日本航空)をV字回復させた伝説的な経営者として、その名を知らないビジネスパーソンはほとんどいないでしょう。しかし、彼が一貫して重視したのは、売上や利益といった数字だけではありませんでした。
「人はなぜ働くのか?」「経営の本質とは何か?」――この根源的な問いに、稲盛は生涯をかけて挑み続けました。
本稿では、稲盛和夫の経営哲学と、その哲学がどのようにJAL再建の奇跡を生んだのか、具体的なストーリーを交えながら解説します。
突然ですが、あなたは「会社の理念」や「経営哲学」と聞いて、どんなイメージを持ちますか?
「結局はきれいごとじゃないの?」と思う方も多いかもしれません。しかし稲盛は、“きれいごと”と捉えられがちなことから徹底的に実践し、数々の修羅場を乗り越えてきたのです。
1959年、28人で始まった京セラは、当初まったく無名のベンチャーでした。受注があればどんな難題にも「やりましょう」と応じ、必死で技術開発を続けました。しかし、仕事がなかなか軌道に乗らず、社員から「こんな会社だとは思わなかった」「安心して働けない」と詰め寄られたこともありました。
そのとき稲盛が語ったのは、「みんなの力で会社を発展させよう」という真摯な誓いでした。社員たちの家族の生活までも「命をかけて守る」と約束し、3日3晩語り続けたというエピソードは、今なお語り継がれています。
この創業時代に培われた「信頼に基づく人の和」「利他の心」が、稲盛哲学の原点となっていきます。
稲盛の経営哲学を一言で表すなら、それは「人間として何が正しいかで判断する」という極めてシンプルなものです。
1984年、通信自由化を前にNTTの独占体制に風穴を開けようと、「第二電電」(後のKDDI)設立に挑みます。その時も稲盛は「国民のために通信料金を安くしたい」という動機が純粋であるか、半年間毎晩自問自答したと言われています。
「動機善なりや、私心なかりしか」――この問いを自分に突きつけ続け、納得できたからこそ大事業を決断できたのです。
2010年。当時のJALは経営破綻し、再建計画はすでに用意されていました。しかし、「それを実行する人がいない」――これが現場の実態でした。
「なぜ会社がここまで追い込まれたのか?」
この問いに、稲盛は「経営陣も従業員も“心”が変わっていなかったから」と断言します。
稲盛がJALで最初に行ったのは、経営テクニックや数字の見直しではありません。経営幹部を集めて1カ月間の「リーダー教育」を徹底し、「仕事に打ち込む」「感謝を忘れない」「謙虚で素直な心を持つ」といった、子どもの頃に教わるような道徳を説き続けました。
最初は「今さらそんな幼稚なことを…」と反発も多かったそうです。しかし、粘り強く伝え続けるうちに、1人また1人と共感が広がり、やがて「JALフィロソフィ」と呼ばれる独自の理念集が全社員に浸透していきます。
JALの現場には、かつて「上意下達」的な官僚組織が根付いていました。しかし稲盛は、現場で汗をかく人材が経営に参加できる体制へ抜本改革。機長や客室乗務員、空港スタッフまで、「自分も経営の一端を担っている」という当事者意識を持つようになったのです。
その結果、サービス改善のアイデアやコスト削減の工夫が現場から次々と生まれ、一人ひとりがいきいきと働く企業へと生まれ変わっていきました。
稲盛が京セラ時代から実践してきた「アメーバ経営」も、JAL再建で大きな役割を果たしました。
JALでは、便の予約状況を見て柔軟に機材を調整したり、現場スタッフが率先して無駄な経費削減に取り組むなど、従業員の意識と行動が劇的に変化しました。
稲盛がJALの企業理念に加えた大きな一文があります。
「全社員の物心両面の幸福を追求する」
これは、「まず従業員が幸せでなければ、お客様を本当に幸せにできない」という信念の表れです。
JALでは入社10年目までの従業員を対象に、自己肯定感や仲間意識を高める研修も導入。「I will be OK!」「I like me!」「I like you!」といったキーワードで、自分や仲間に自信を持てるような職場風土を育てました。
JALの再建は単なる数字上の回復にとどまりませんでした。2011年の東日本大震災では、現場の従業員たちが自発的に被災地支援やお客様への心温まるサービスを行い、多くの感動的なエピソードを生みました。
こうした行動は、マニュアルや指示があったわけではありません。「お客様のために今何ができるか」を、従業員一人ひとりが自ら考え、実践した結果です。
稲盛はJAL再建後も、「成功したからこそ、慢心せず、さらに努力を続けてほしい」と社員に語り続けました。
「会社の未来は、これからどれだけ努力できるかで決まる。今の好業績は過去の努力の結果であり、決して未来を保証するものではない。」
この精神は、京セラでもJALでも変わりませんでした。
最後に、稲盛が生涯をかけて伝え続けたメッセージがあります。
「経営者自身が心を高め、純粋で美しい心になろうと努力し続けることで、従業員も“この人のためなら”と感じてくれる。共に会社を発展させようというエネルギーが生まれる。」
経営は、数字や手法だけでなく、「人の心」を動かせるかどうかがすべて。経営者が率先してフィロソフィ(哲学)を実践し、従業員と心を一つにできれば、どんな困難も乗り越えられる――。それが、稲盛和夫が私たちに遺した最大の教えです。
最大のポイントは、「シンプルな原理原則を徹底的に実践すること」の大切さです。
もし、今の職場やチームに“閉塞感”や“やらされ感”が漂っているなら、まず「心のあり方」から見直してみる――この稲盛和夫の哲学は、業種や規模を問わず、すべての組織に活かせる普遍的な知恵です。