【独自解説】「ベストドレッサー賞」とは? 歴代首...
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【独自レポ】2025年ベストドレッサー賞にみる、トップランナーたちの「装いと信念」。吉野家会長、檀れい、本田響矢らが語ったスタイル論
『今年の顔』を照らすアワード特集ビジョナリー編集部 2025/12/19
1972年の創設以来、時代を彩る著名人を選出し続けてきた「ベストドレッサー賞」。その第54回授賞式が、2025年11月26日(水)、セルリアンタワー東急ホテルにて開催された。主催は一般社団法人日本メンズファッション協会(MFU)。
本年は、政治・経済、学術・文化、芸能、インターナショナルの各分野から、独自のスタイルと確固たる信念を持つ6組が受賞した。単なるファッションの優劣にとどまらず、その人の生き方やライフスタイルそのものを評価する本賞。受賞者たちの言葉からは、ビジネスや表現活動における哲学、そして不透明な時代を切り拓くためのヒントが垣間見えた。本記事では、その授賞式の模様と全受賞者の熱い想いを詳報する。
主催者挨拶:54年目を迎えた「生活文化創造」への挑戦
授賞式は、MFUの八木原保理事長の挨拶で幕を開けた。八木原理事長は、54年目を迎えた本賞が、いまや日本で最も知名度の高いファッションイベントとして認知されていることに言及。
その上で、MFUの目指す姿について「単にファッションにとどまらず、広くライフスタイルの多様性や生活文化の向上、健康な生活環境といった視点に立ち、人々に生きる喜びと感動を提供し続ける“生活文化創造団体”になる」と宣言。ファッションを通じて、社会全体に活力を与え続ける決意を新たにした。
【政治・経済部門】吉野家HD・河村泰貴会長「判断基準は損得より“美醜”。カッコ悪いことはしない」
政治・経済部門を受賞したのは、株式会社吉野家ホールディングス取締役会長の河村泰貴氏。3ピーススーツをスマートに着こなして登壇した河村氏だが、受賞の感想を問われると、「私のような牛丼やうどんといったファストフードに関わっている人間には、縁遠いものと思っていました」と謙虚に語り、「社員やアルバイトの皆さんが喜んでくれたらいいなと思います」と現場への想いを口にした。
▲「吉野家のみんなが喜んでくれたらいいな」と喜びを語った、株式会社吉野家ホールディングス取締役会長の河村泰貴氏。
アルバイトからの叩き上げ、原点は「370円の感動」
河村氏のキャリアはユニークだ。かつて様々な職を転々とした後、吉野家の店舗でのアルバイトを経て正社員となった。「うまい、やすい、はやい」を実現する現場に「なんて値打ちのあるものを提供しているんだ」と感動したことが原点だという。
「高卒組とは6年差がありますが、だったら彼らの6倍働けばいい」。そう覚悟を決め、入社後は全力で期待に応え続けた結果、2012年に社長に、2025年5月には会長職に就任した。自身の経験から、吉野家には「やる気のあるすべての人にチャンスを与える」伝統があると語り、リーダーとして「役員の学歴や前職を知る必要はない。重要なのは、与えられた場所でどう力を発揮するかだけ」と断言した。
2万人の共感を得るための「美意識」経営
コロナ禍など数々のピンチを乗り越えてきた河村氏。リーダーとしての決断の指針について問われると、ビジネスパーソンにとって示唆に富む答えが返ってきた。
「何かを決めるときは、往々にして“損得”で決めがちですが、それよりも“善悪”、もっと言うと“美醜”を判断基準にしています。カッコ悪いことは、お客さまはもちろん、従業員の共感を呼ばないからです」
国内外2万人以上の従業員をつなぐのは「損得」ではなく、企業としての「カッコよさ」であるという信念。品質とコストをトレードオフせず、常に味のブラッシュアップを続ける姿勢こそが、老舗企業のブランドを守り抜く鍵であることを強調した。
【学術・文化部門】鎌田浩毅 京大名誉教授「ファッションは命を守るための“つかみ”」
学術・文化部門では、京都大学名誉教授・京都大学経営管理大学院客員教授の鎌田浩毅氏が受賞。ハイブランドからリメイクウェアまで自在にミックスする卓越したセンスを披露したが、かつては「ジーパンに白衣」の研究者だったという。ファッションに目覚めたきっかけは、学生の関心を惹くため。「学生たちは僕のファッションが見たいからやってきた。これは(講義の)つかみとしていけるんじゃないかと」と、ユーモアたっぷりに振り返った。
「科学の伝道師」としての悲痛な叫びと使命
しかし、その派手な装いの裏には、科学者としての深刻な危機感がある。1995年の阪神・淡路大震災で多くの犠牲者が出たことに衝撃を受け、「基礎研究をやっている場合じゃない」と発信活動に力を注いできた鎌田氏。
氏は、今後予想される南海トラフ巨大地震について「2035年の前後5年の間に襲ってくる」と予測し、その経済被害は290兆円を超えると警鐘を鳴らす。「地震は地球のメカニズムですから、パスはできません」。しかし、あと5年の猶予の間に準備をすれば被害を大幅に減らせるとして、こう訴えた。
「今回のベストドレッサー賞は、多くの人に地学に対してもっと興味を持ってもらい、その知識を持って迫り来る災害に対する備えをしてもらうための“つかみ”でもあります。(中略)この5年間が勝負。迫り来る災害のことを正しく伝え、それらの減災に努めてもらうということが、今の私の使命と考えています」
▲「受賞は迫りくる災害への備えをしてもらうための“つかみ”」と語る、鎌田浩毅 京大名誉教授(右)。プレゼンターは日本メンズファッション協会(MFU)理事長の八木原 保氏(左)。
【芸能部門】檀れい・本田響矢「美しさと自信を支える、プロフェッショナルの流儀」
檀れい「シワさえも美しい。オードリーのように」
芸能部門で受賞した俳優の檀れいさんは、エレガントなパンツスタイルで登場。「まさか自分がいただけるとは」と驚きつつも、その美意識の高さは日常の細部に宿っている。「起きたらメイクをし、髪を整え、きちんとしたお洋服に着替える」という母の教えを今も守り、姿勢を常に正すストイックさを明かした。
年齢を重ねることについては、「刻まれたシワさえも、積み重ねのひとつと考えれば美しい」と語り、オードリー・ヘプバーンを理想像に挙げる。常に「高い山」に挑むようなプレッシャーの中で役作りを行い、観客に感動を届けるために研鑽を積む姿は、まさに表現者の鏡といえるだろう。
▲「シワさえも美しい」としてオードリー・ヘプバーンを理想像に挙げた俳優・壇れいさん。
本田響矢「ファッションは自分を映す鏡、そして役への愛」
同じく芸能部門を受賞したのは、俳優の本田響矢さん。NHK連続テレビ小説「虎に翼」への出演や数々の主演作で注目を集める若手実力派だ。「ベストドレッサー賞は毎年絶対に耳にするもので、今回の受賞はとても光栄」と喜びを語った。
大の服好きでもある彼は、ファッションの力について「シャツを着ると背筋が伸びるし、いい革靴を履くと足取りも軽やかになる。自分に自信を授けてくれるものでもあるし、その人を映し出す鏡」と表現。自身のスタイルについても、流行に流されず「芯のある人」でありたいと語り、革靴やアクセサリーを丁寧に手入れして愛着を育てる姿勢を明かした。
役者としての信念も熱い。「その役を誰よりもまず愛してあげること」をモットーとし、「自分が一番愛してあげなきゃ、誰にも愛してもらえない」と語る。舞台「エノケン」では、先人への感謝を胸に、あくまで「自然体」で板の上に立つことを重視しているという。
多忙な日々を送るが、「睡眠、食事も含めて気を使っている部分はありますが、我慢はしません」と、ラーメンなど好きなものを食べてバランスを取る、等身大の素顔ものぞかせた。
▲「与えられた役を誰よりも愛してあげること」をモットーとして語る、俳優・本田響矢氏。
【インターナショナル部門】新しい学校のリーダーズ「“はみ出し”てこそ見える景色」
インターナショナル部門には、世界を股にかけて活躍するダンスボーカルユニット、新しい学校のリーダーズが輝いた。「まさか私たちが!」と声を揃えつつ、トレードマークであるセーラー服について「日本の象徴としてのユニフォーム」と再定義し、機能性と美しさを追求していることを明かした。
「ルールがあるからこそ、自由になれる」
「青春日本代表」を掲げ、「決められたルールの中で、いかにはみ出せるか」をテーマに活動する彼女たち。一見破天荒に見えるが、その根底には規律へのリスペクトがある。
RINは「規律のある団体行動や協調性は日本人ならではのもので、世界に誇れる美徳」としつつ、「ルールの中でもたくさん『はみ出す余地』はある」と語る。KANONも「ルールとか型をちゃんとわかっていないと、個性の出し方もわからない」と同意。ビジネスの世界にも通じる「型破り」の神髄を、彼女たちは体現している。
結成10周年を迎え、SUZUKAは「予測もしていなかった10年を過ごしてきて、自分たち自身に対する基盤とも言えるような自信が生まれた」と語る。お互いを信頼し合い、ファンとのエネルギーの循環を大切にする彼女たちの快進撃は、まだまだ続きそうだ。
▲「ルールの中でいかにはみ出すか」を熱く語った新しい学校のリーダーズ。
おわりに
今年のベストドレッサー賞は、経営者、学者、アーティストと多岐にわたる顔ぶれとなったが、共通していたのは「装い」を単なる外見の装飾としてではなく、自らの「信念」や「ミッション」を伝えるための強力なツールとして捉えている点だ。
不確実な時代において、自分は何者で、何を成し遂げたいのか。彼らのスタイルは、私たちに「装うこと」の意味を改めて問いかけている。
ベストドレッサー賞を主催するMFU理事長 八木原 保氏の半生を綴った連載記事「原石からダイヤへ」はこちら


