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酒を「飲まない8割」が新市場。アサヒグループが挑む10年後の飲み会文化、スマドリの全貌
ビジョナリー編集部 2026/09/15
お酒を通じたコミュニケーションのあり方が、今大きく変わろうとしている。習慣的にお酒を飲む人が国内成人人口のわずか約2割にとどまる中、アサヒグループHD傘下のスマドリ株式会社が推進する「スマートドリンキング(スマドリ)」は、お酒を飲む人も飲まない人も共に楽しめる社会を目指す一大プロジェクトだ。
スマドリとは、飲む人も飲まない人も、体質や気分、シーンに応じて適切な飲み物を選び、無理なく楽しむ飲み方を指す。長年、酒類のマーケティングの最前線に立ってきた高橋徹也社長は、この取り組みを「お酒文化の否定ではなく、市場の拡張」と定義する。Z世代との共創から見えてきたインサイトや、飲食店における「分断」をなくす画期的な工夫、そして「ときどきノンアル」という新たな提案。クールビズのように社会のOSを書き換え、10年後の宴席の「当たり前」を創るための挑戦の裏側を聞いた。
「飲む・飲まない」の壁を越え、誰もが心地よい体験を分かち合える場へ
アサヒビールに入社以来、営業を含め15年以上チューハイやビールのマーケティングを担当してきた高橋氏。お酒には開放感や高揚感をもたらし、人との距離を縮める素晴らしい力があると感じる一方で、社会の変化も肌で感じてきたという。飲めることだけを前提とした飲み会に違和感を持つ人が増えてきた のも事実だと、同氏は指摘する。
「スマドリ」が推進する多様な飲み方は、決してお酒の文化や「飲みニケーション」を否定するものではない。否定や批判ではなく、それをより開かれた形にアップデートすることが狙いだ。お酒を飲む人も飲まない人も、同じテーブルで心地よくいられる環境づくりへと再定義していくことが、これからの本質的な挑戦であるという。 アサヒビールとして将来を考えた際、人口減少や「お酒離れ」という現実に直視する必要があった。調査で明らかになったのは、習慣的にお酒を本当に楽しんでいる層は成人人口9,000万人のうち、実は2,000万人しかいなかった という衝撃的なデータだ。残りの7,000万人は積極的にその場に行こうと思っていない。この層をどうアクティブにするか。そこにこそ、新しいフロンティアがあるというのだ。
Z世代のインサイトから生まれた「自分らしさを誇れる」カスタマイズ体験
若年層を対象とした調査からは、彼らが「自分にとってその体験が良かったと納得できること」を極めて大切にしている姿が浮かび上がった。飲むか飲まないかの二択ではなく、「今日のコンディションや気分に応じて選びたい」というニーズが非常に高いという。
そこで重要になるのが、自分に最適な一杯を選べるカスタマイズの体験 だ。グラスの種類やアルコール度数を気分によって自由に選べる設計にすることで、どれを選んでもポジティブな気持ちになれる。従来は「お酒が飲めないこと」がネガティブに捉えられがちだったが、それを 「自分らしい選択なんだ」とポジティブに捉え、誇ってもらえる状態に変えていく。 こうした発想の転換が、若い世代の共感を得るポイントだと高橋氏は分析する。

飲食店に潜む「分断」をなくす。細部に宿る排除しない社交の設計
渋谷で展開されている、スマドリをコンセプトとしたバー「SUMADORI-BAR SHIBUYA(スマドリバー渋谷)」。その立ち上げにあたって飲まない層の声を聞いた際、ある大きな衝撃を受けたという。それは、 「ウーロン茶を頼んだ時に、ソフトドリンク用のストローを挿されたくない」 という切実なインサイトだった。
飲食店側はアルコールと区別するための目印としてストローを使用するが、客側は「自分だけまるで子ども扱いされている」と感じ、疎外感を抱いてしまう。このため同店ではストローを廃止し、コースターでアルコールの有無を区別するなどの工夫を施した。
また、 「割り勘負けは絶対にしたくない」 という本音にも応えた。周りがカクテルを飲んでいる中で「自分は安いウーロン茶だから」と不満を抱かせないよう、アルコール飲料もノンアルコール飲料も同じ価格帯に設定している。
メニューの書き方にも徹底したこだわりがある。通常の飲食店のように「アルコール」と「ソフトドリンク」でページを分けることはしない。例えば一つのレモンサワーに対して、アルコール度数0%、0.3%、3%という選択肢を同じメニュー内に並べている。飲めない人がメニューの隅から一生懸命ソフトドリンクを探し、目立ってしまうような雰囲気を作らない。 飲む・飲まないで分断せず、同じ体験ができるハードとソフトの設計が、コミュニティにおいては極めて重要になるのだ。
市場の拡張と「ときどきノンアル」。10年後の「当たり前」を創る
酒類メーカーが「飲まない選択肢」を推進することは、一見すると自己否定のようにも映る。しかし高橋氏は、スマドリを「市場を守るためではなく、市場を拡張するための投資」だと明確に位置づけている。
今後の社会環境を考えれば、お酒だけに依存するビジネスは必ず制約を受けていく。だからこそ、今のうちから「お酒があってもなくても成り立つ」ビジネスを広げておく必要があるという考えだ。アサヒビールの松山社長も「10年かけてもやり抜く」と断言しており、グループ全体で未来を見据えた不可欠な投資として捉えている。
さらに、ターゲットは飲まない層だけではない。30代・40代のお酒を飲む層に向けては、「ときどきノンアル」 という提案を始めている。飲み会の途中でノンアルコールを挟むことで、飲みすぎを防ぎ、気分良く会を終えることができる。こうした「賢い飲み方」の普及もスマドリの役割だ。
高橋氏が理想とする10年後の姿は、 「誰が何を飲んでいるか」が全く話題にならない社会 だという。「1杯目にウーロン茶を頼むなんて」といった同調圧力がなくなり、その時の体調や気分に合わせて頼んだものが当たり前のように尊重される社会。
かつてクールビズが始まった当初はノーネクタイに違和感があったが、今では「ビジネスカジュアル」として完全に定着した。それと同じように、料理の辛さを選ぶように自分の好きなアルコール度数を当たり前に選べる文化。お酒を飲む・飲まないにかかわらず、「場を楽しむ」という目的のもとで誰もが等しく集える。そんな新しい文化の定着を、スマドリは目指している。


