Diamond Visionary logo

6/16()

2026

SHARE

    「カリスマ経営からの脱却と、2030年へのゼロ次想起」――アイリスオーヤマ・大山社長が語る、失敗の本質と次世代チーム経営へのバトン(後編)

    「カリスマ経営からの脱却と、2030年へのゼロ次想起」――アイリスオーヤマ・大山社長が語る、失敗の本質と次世代チーム経営へのバトン(後編)

     「常に未完成であること」を認識し、あえて非上場を維持しながら独自の道を突き進むアイリスオーヤマ。しかし、その歩みは決して平坦なものばかりではなかった。コロナ禍における空前のマスクや生活用品の特需と、その後に訪れた反動という「直近の大失敗」。そこから大山晃弘社長が導き出したのは、これまでのトップダウン型経営のブレーキとなる「チーム経営」への大転換だった。不確実な時代を生き抜くための自走型組織の作り方、そして世界を見据えた次世代リーダーたちへの提言を語る。

    前提条件は一瞬で崩れる。だからこそ「常に未完成」であり、「非上場」を貫く

    アイリスオーヤマの理念として印象的な「常に未完成であることを認識する」という言葉。そして「非上場経営」の継続。ここにある創業の志と、経営上の真意について教えてください。

     まず「未完成」についてですが、世の中に完全に完成された仕組みなどほぼ存在しません。企業が特定の環境に過度に適応しすぎてしまうと、社会の前提条件が一瞬で崩れたときに、その精緻な仕組みは脆くも機能不全に陥ってしまいます。

     常に私たちは未完成であると認識し、決しておごらず、安住しないこと。これは単に「油断せずに邁進しよう」という精神論だけではありません。企業は常に「死」のリスクと隣り合わせであることを意識し、社会や環境が激変した瞬間でも生き残るための次の一手を能動的に打ち続ける 。それこそが「常に未完成である」という言葉の本質です。

     また、「非上場」の維持に関しても、決して上場という仕組みを否定しているわけではありません。非常にシンプルな理由として、「今の私たちには上場するニーズ(必要性)がないから、しない」という選択をしているだけです。

     一般的に上場とは、市場から巨大な資金を調達し、それを投資に回してさらなる成長を遂げるために行うものです。しかし現在の私たちは、そこまでの資金調達を外部に頼る必要がありません。

     非上場を維持する最大のメリットは、外部からの短期的な株主の要求に左右されず、独自の企業文化を大切に育んでいける点 にあります。どうしても投資家と従業員、あるいは地域社会の利益はコンフリクト(対立)を起こしがちですが、非上場であればそれを高い次元で解消できます。また、オーナーが株主でありトップであるため、意思決定のスピードや意見の集約が圧倒的に早い。ニーズや価値がない以上、あえて上場という選択肢を選ぶ必要はないと考えています。

     一時期、日本のビジネス界には「企業はすべて上場を目指すべきだ」「それが社会の公器になることだ」というムードがありましたが、非上場であっても、パブリックな意識を持って社会課題の解決に寄与することは十分に可能ですし、私たちの在り方がそれを証明していると思っています。

    コロナ特需の慢心と「直近の大失敗」。そこから得たチーム経営という資産

    常に挑戦を続ける中で、大山社長ご自身が経験された「最大の失敗」と、それをどのように組織の教訓や資産へと変貌させたのかをお聞かせください。

     経営において数々の失敗はありますが、直近で最も大きな失敗であり、苦い経験となったのはコロナ禍の終息期における業績の低迷 です。

     コロナ禍において、私たちのマスク事業は大成功を収めました。巣ごもり需要も追い風となり、過去最高の業績を記録したのです。しかし、その後に強烈なリバウンド(反動)が来ました。2022年、2023年と業績が低迷してしまった。これが私の最大の失敗です。

     失敗の本質は、「成功体験をもとに、前年ベースの考え方で突き進みすぎてしまったこと」にあります。「自分たちは強いから、来年もその次もうまくいくだろう」という慢心がどこかにあった。そして、トップがスピード感を持って決断し牽引する体制が行き過ぎるあまり、現場の従業員やお客様の微細な変化への違和感が、ブレーキとして機能しなくなってしまっていたのです。一人のカリスマに頼る経営体制の限界を痛感しました。

     この失敗を経て、私たちは「カリスマ体制からの脱却と、チーム経営体制への転換」という大きな舵を切りました。

     スピード経営が常に最重要のソリューションではない。時には、勢いやメンタルだけで物事を進めるのではなく、データをしっかりと伴走させる「データドリブンな判断」が必要であり、時にはスピードをある程度犠牲にしてでも組織を守る「補助装置」が必要であると学びました。この痛烈な失敗体験から得た中長期的な視点と、チーム経営を実践するための組織基盤は、いま現在のアイリスオーヤマにとって極めて重要な「資産」となって息づいています。

    優秀な「リスク回避型」を「アニマルスピリッツ」を持つ自走型リーダーへ

    組織が急拡大する中で、社員一人ひとりのベンチャー精神やアニマルスピリッツ(企業家精神)を失わせないために、どのような仕掛けをされているのでしょうか。

     これは非常に難しく、現在も試行錯誤を続けている大きな課題です。ありがたいことに、現在は就職人気ランキングにも入るようになり、学生時代に様々な素晴らしい経験をしてきた優秀な人材がたくさん入社してくれています。

     しかし、そうした優秀な層ほど、本質的には「リスク回避型」である傾向が強いのも事実です。リスクを上手に回避してきたからこそ、スマートに就職活動を戦い抜いてこられたわけですから。本当に尖ったリスクテイク思考の持ち主であれば、最初から起業しているか、型破りな行動に出ているはずです。

     では、組織の中でいかにしてベンチャー精神を育成するか。これまでは、オーナーシップを持つ経営陣が「これどうだ?」と次々にアイデアを投下し、強力なトップダウンで引っ張ってきましたが、これだけ領域が広がるとその仕組みでは回りきりません。各統括事業部長や子会社の社長たちが、自らアニマルスピリッツを持って事業を推進する必要があります。

     そのための手法の一つが、前編でお話しした、若手でもリスクなく提案できる「否定のないアイ ラブ アイデア会議(ILI会議)」の設置です。

     そしてもう一つ、幹部層や管理職に対しては、「指導の抽象度を上げ、具体的な指示をあえて出さないこと」を徹底しています。

     上司が「売上が足りないから、どの顧客に、どの商品を持っていくんだ」と具体的すぎるアクションばかりを詰め寄ると、部下はどんどん自分の頭で考えなくなります。そうではなく、「この事業を通じて、長期的に何を成し遂げたいのか」「ターゲットのポテンシャルはどこにあるのか」「どういうビジョンを描くのか」という概念的な問いを投げかけ、打ち手は本人たちに考えさせる。あえて具体的な打ち手の中身には経営陣が踏み込まないようにしています。

     概念からスタートして本質を考え抜く訓練を重ねると、驚くほど面白い、私たちの想像を超えるようなアイデアが現場から上がってくるようになります。これこそが自走型組織への第一歩です。

    大山社長ご自身も、20代前半という若さでアメリカ駐在時に突然、現地法人の責任者(チェアマン)を任されるという壮絶な経験をされていますね。

     入社わずか8カ月、24歳の時でしたから、当時は本当に無茶苦茶な人事だと思いました(笑)。現地法人で、周囲は全員年上。日本からのプレッシャーと現地スタッフの板挟みになりながら、通訳から財務、製造、マーケティングまで必死で泥水をすするようにもがきました。テレビ会議では会長からはあえて手取り足取り教えてもらえるような具体的なアドバイスは受けていません。だからこそ、誰かに頼るのではなく、自分の頭で考え、決断する覚悟が身に付いたのだと感じています。あの極限状態の経験が、私の経営者としての骨格を作ったのは間違いありません。

     異なる国の文化や経営を若い頃に肌で見ることは、「自分がいかに小さい世界を見ていたか」を教えてくれます。日本のアイリスのやり方だけが素晴らしいわけではない。世界には多様な選択肢があるという広い世界観を持つことが、これからの時代を生きるリーダーには絶対に必要です。

    最後に、そうしたご自身の経験や、会長から受け継いだバトンをどのように次世代へ渡し、これからのリーダーたちにどのような志を伝えていきたいですか。

     会長はまだまだ大変元気ですので、バトンは一緒に握って走っているような状態ですが、着実に次の世代への継承を進めています。

     次の世代へ渡すためにも、やはり私が構築すべきは「一人のカリスマに依存しないチーム経営の仕組み」です。非上場企業としてオーナーシップとマネジメントを機能させながら、統括事業部長やグループ会社の社長たちが、独自の意思決定を下せる体制を作っていきます。次世代のリーダーたちに求めるのは、 「アイリスらしさとは何か」という企業理念の徹底的な追求 です。

     現在、私たちの取締役や執行役員などの幹部層には、30代半ばから40代、50代の若手のプロパー社員(新卒叩き上げ)が数多く登用されており、組織の若返りが進んでいます。同時に、今後はキャリア採用や女性の登用もさらに強化し、多様な人材が活躍できるダイバーシティの推進が不可欠です。

     さらに、海外マネジメントの在り方も変革していきます。これまでは日本からスタッフを派遣して現地の多数のローカル社員をマネジメントし、アイリスの精神を伝えるオーソドックスな手法をとってきましたが、これからは双方向の「交換留学生」制度の規模を拡大します。海外の優秀な幹部候補を日本の本社へ派遣して一定期間共に働き、文化や仕事のやり方を肌で学んでもらった上で現地に帰す。将来的には、国籍に関係なく、現地採用の生え抜き社員が現地法人の社長や本社の取締役に就任できるようなグローバル構想を描いています。

     不確実で変化の激しい時代だからこそ、若いリーダーたちには、目先の具体的なアクションに終始するのではなく、「自分たちは何を目的として、誰をどのように満足させたいのか」という本質的な問い を常に持ち続けてほしい。普遍的な経営理念というブレない軸を持ちながら、目の前の現実に対してはどこまでも柔軟に変革を起こしていく。その志こそが、次の50年、100年を創る原動力になると確信しています。

    #アイリスオーヤマ#大山晃弘#経営哲学#リーダーシップ#企業理念#社会課題解決

    あわせて読みたい

    記事サムネイル

    「変えないこと、変わること、変えること」――アイ...

    記事サムネイル

    「かつては銀行だった」と言われる未来へ。世界初の...

    記事サムネイル

    「地域と共にある会社」——京急電鉄・川俣社長が語...

    記事サムネイル

    「この会社に入れば人生ハッピーになる」――亀田製...

    Diamond AI trial

    ピックアップ

    Diamond AI
    Diamond AI