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「趣味嗜好品で心に喜びを」——リーマンショックの修羅場を越えたフカシロ4代目社長が語る、100年企業の“目利き力”と変革の哲学
ビジョナリー編集部 2026/07/28
1924年の創業以来、国内外の優れた喫煙具やライフスタイル雑貨を世に届けてきた株式会社フカシロ。激変する市場環境のなかで、2024年に創業100周年の節目を迎えた。2009年、リーマンショックという未曾有の危機の最中に36歳の若さでトップに就任し、会社の舵取りを担ってきたのが4代目社長の深代洋平氏。老舗としての伝統を守りながらも、時代の変化に合わせて事業の多角化を推し進めてきた同氏に、脈々と受け継がれる企業のDNA、数々の困難を乗り越えた信念、そして次の100年へ向けたビジョンを詳しく伺った。
100年変わらない原点。環境が変わっても「趣味嗜好品の商い」という軸は揺るがない
貴社は長年、国内外の優れた喫煙具やライフスタイル雑貨を届けてきました。社長が最も大切にしている理念や、経営の原動力は何でしょうか。
私たちの社是にある 「商品の販売を通して、人の心に喜びと感動を与える」 という言葉が、私のすべての原点です。
「お客様が癒やしの空間で、ほっとするひとときに手に置いていただけるもの」をお届けする。これこそが、100年間変わらずにフカシロが愚直にやってきたことであり、私が経営者として突き動かされている使命感そのものです。
現在、喫煙具のマーケットは縮小傾向にあり、嗜好品を取り巻く環境は時代とともに大きく変わり続けています。しかし、たとえ時代がどう変わろうとも、 「趣味嗜好品をお客様に届ける商い」 という私たちの根幹が揺らぐことはありません。その強い確信があるからこそ、私は迷わずに会社の舵を取り続けることができるのです。
先代から受け継いだ「変化を恐れないDNA」と、現代だからこその変革
100年を超える歴史の中で培われてきた貴社のDNAとはどのようなものでしょうか。先代から受け継いだもの、そして深代社長自身が新しく吹き込もうとしている精神についてお聞かせください。
私の祖父であり、創業者の守三郎は、常に三つ揃いのスーツを着こなし、髪にもきちんと櫛を入れた、本当におしゃれな人でした。彼は関東大震災後の社会の変化を敏感に読み取って喫煙具専門問屋を立ち上げ、国産初となるブライヤーパイプ「Roland」を世に送り出しました。 「時代の空気を読んで、本物を届けることへのこだわり」 。これこそが祖父から受け継いだ最初のDNAです。
また、父の徹郎も、使い捨てライターが台頭してきた波に乗るため、それまでの百貨店一辺倒だった販路をガラリと変える決断を下しました。フカシロの歴史を振り返ると、どの世代の先代も 「変化を恐れずに歩み続けた」 という共通点があります。
このDNAを受け継ぎながら、私が今の時代に新しく吹き込もうとしているのは、直営店やオンラインを通じてエンドユーザー(消費者)の皆様と直接つながることです。単に商品を卸すだけでなく、フカシロというブランドが持つ世界観そのものを、お客様と一緒に育てていきたいと考えています。
リーマンショックの谷底で学んだ「依存の怖さ」と「目利き力」の確信
市場環境の変化や健康志向の高まりなど、喫煙具業界を取り巻く環境は大きく変化しています。その中で、事業の多角化へ舵を切る際、どのような葛藤や挑戦があったのでしょうか。
私が社長に就任したのは2009年のことです。当時はまさにリーマンショック後の大不況で、創業以来最大の危機の真っただ中でした。当時の正直な気持ちを言えば、まさに「崖から谷底に突き落とされるような感覚」でしたね。
しかも、社長就任の命令は、年明け早々に父から「しれっと」言い渡されたのです。「大変な時に済まない」といった言葉は一言もありませんでした(笑)。あまりの突然さに頭が固まってしまい、「嫌だ」という言葉すら出てこなかったのが本当のところです。
しかし、その厳しい修羅場を経験したからこそ、私は「一つの業態、一つの販路に依存することの怖さ」を身をもって学びました。これが、その後の多角化への挑戦につながっています。
ガジェットやファッション雑貨、ステーショナリーへと領域を広げる際、私の支えとなった信念は、 「私たちの強みは特定の商品そのものではなく、良いものを見極めてつなぐ『目利き力』にある」 という強い思いです。長年培ってきたこの目利き力さえあれば、どんな新しいカテゴリーに進出しても必ず活きると確信していましたし、その思いは今も変わっていません。
ビジネスの「当たり前」を疑う。事業の可能性を広げてくれた数々の「ご縁」
深代社長は「ファッションロータリークラブ」など、社外の様々なコミュニティやリーダーたちとの交流も深く大切にされています。こうした多彩な業界のプロフェッショナルとの対話は、ご自身の経営視点や、貴社の新しい価値創造にどのような影響を与えているのでしょうか。
異業種で活躍されている方々との対話は、自分の中の「当たり前」を疑う 最良の機会を私に与えてくれます。
ファッションロータリークラブをはじめとする様々なコミュニティでお会いするリーダーたちは、私とはまったく異なる視点やロジックでビジネスを捉えています。そうした新鮮な視点に触れるたびに、「なるほど、フカシロが持つ強みをこんな形で活かすこともできるのか」という、新しい価値創造へのヒントや発見が生まれるのです。
また、フカシロの歴史そのものが、実はこうした「縁」の積み重ねによって作られてきました。
例えば、終戦直後から続いている吉永プリンス(前・スタイル社)様との深いつながりがあったからこそ、のちにガスバーナー事業を譲り受けることができました。また、駒井の買収というご縁に恵まれたことで、カフスや紳士装身具という新しいカテゴリーへの扉を開くことができたのです。人との大切な縁こそが、私たちの事業の可能性をどこまでも広げてくれると日々実感しています。
規模の拡大ではなく「健全さ」を。100周年はゴールではなく、通過点
次の100年に向けて、貴社が描く未来の姿についてお聞かせください。
私たちの社是には、 「規模の拡大を望まず、あらゆる面で健全な企業体となることを最終目的とする」 という一節があります。
売上や会社の規模をただ大きくすることを目指すのではありません。100年後の未来でも、変わらずに「お客様の癒やしの空間で、手元に置いていただける魅力的な商品」を提供し続けている会社でありたい。これが、今の私の切なる願いです。
禁煙の風潮や、ビジネスファッションのカジュアル化など、私たちが手掛けているコアな商品のマーケット自体は、今後も縮小が続くでしょう。しかし面白いことに、趣味嗜好性が高い製品というのは、そうした時代の流れに逆行するように、市場規模は小さくなっても需要はより「深化」して生き残り続けるものなのです。
私たちにとって、2024年の創業100周年は決してゴールではなく、長い歴史のほんの通過点 にすぎません。これからも常にアンテナを研ぎ澄ませ、時代のチャンスをしっかりと捉えながら、一歩一歩進んでまいります。
「失敗を責めない」カルチャーが、変化に強い組織と社員を育てる
伝統を守りつつも、新しいトレンドを柔軟に取り入れる組織であるために、社員の方々に向けて日頃どのようなメッセージを発信されていますか。
日頃から社員たちには、先代たちのように「変化を恐れずに歩み続けよう」と口酸っぱく伝えています。
思い返せば、リーマンショック後の最悪の時期を会社が一丸となって乗り越えられたのは、当社が「役員や各部門責任者の合議制で意思決定をする会社」だったからだと思っています。当時、まだ36歳という若さで知識も経験も浅かった私が、会社を潰さずに危機を切り抜けられたのは、経営を一緒に支えてくれた頼もしい仲間が社内にいてくれたおかげです。
だからこそ、社員の「挑戦する心」を育むために、私はまず「失敗を責めない」ことを何よりも意識しています。
実は私自身、仕入れ担当の若手だった頃に大きな苦い経験をしています。イベント関連のオリジナル商品を企画したのですが、自分の読みが完全に外れてしまい、大量の返品の山を作ってしまったのです。しかし、その手痛い失敗があったからこそ、「何を、どこで、どのくらい売るべきか」をトータルで緻密に計算する目が養われました。失敗も含めて、「実際に自分でやってみた」という経験こそが、組織を最も強くすると私は信じています。
変化の激しい時代を生きるリーダーたちへ。「数字から目を逸らさず、孤独にならないで」
変化の激しい時代の中で、新しい挑戦へ踏み出そうとしている経営者や、次世代のリーダーたちに向けて、いま最も伝えたいメッセージをお願いします。
私は会社員時代、上司から「予実管理(予算と実績の管理)の重要性」を徹底的に叩き込まれました。しかし、その本当の意味と重さを理解できたのは、やはりリーマンショック後の修羅場を経験したときです。
これほど変化が激しく先行きが見えない時代だからこそ、経営者は数字という「現実」から絶対に目を逸らしてはいけない 、ということをまずお伝えしたいです。
そしてもう一つは、「自分たちが何者であるか」という会社の軸を問い続けることです。私たちフカシロも、100年の歴史のなかで扱う商品や事業の形は激しく変えてきましたが、「趣味嗜好品をお客様に届ける」という軸だけは一度もぶれていません。こうしたブレない独自の軸を持っている会社だけが、時代の変化に振り回されることなく、逆にそれを味方にできるのだと思います。
最後にお伝えしたいのは、「決して孤独にならないこと」です。
経営というものは、リーダーがたった一人で背負い込むものではありません。社内の仲間を信じ、社外の素晴らしい縁を大切に育みながら、この変化の激しい面白い時代を一緒に切り拓いていきましょう。
【この記事で紹介した企業】
株式会社フカシロ
大正13年(1924年)創業。100年以上の歴史を持つ老舗商社。国内外の優れた喫煙具(パイプ・ライター等)をはじめ、世界の最新ガジェット、ファッション雑貨、ステーショナリーなど、独自の目利き力を活かした「趣味嗜好品」を幅広く展開し、人々のライフスタイルに喜びと感動を提供し続けている。


