
地球を未来に残すための挑戦(後編)
ビジョナリー編集部 2025/04/24
4/25(金)
2025年
ビジョナリー編集部 2025/04/10
小松マテーレ株式会社は1943年(昭和18)、繊維の染色加工を手掛ける会社として石川県で創業し、現在では多彩な事業領域をカバーする「総合化学素材メーカー」として成長を続けてきた。中でもユニークなのが「タマネギの薄皮から衣服用の生地を染める」といった画期的な技術。独自の発想が世界でも評価され、ヨーロッパやアメリカなどの有名なラグジュアリーブランドからも生地の注文が入るようになった。ファッションというとブランド名ばかりが注目されがちだが、その源流を作っているのが独自の技術により生み出される素材である生地であり、業界を牽引していることは間違いない。日本国内はもちろん、海外でも注目されている「石川の生地」を生産する企業について、 中山大輔(なかやま・だいすけ)代表取締役社長に伺った。
我々は、石川県能美市に本社を構えている衣服などに使用する生地の素材メーカーで、主に「B to B」のビジネスを手掛けています。東京では青山を拠点に営業体制を整えています。最先端のファッションというのは、日本の中心である東京にはかないません。そこで青山にショールームを開業し、お客さまに直接、生地を見て触っていただくための場所を作りました。時には、テラスでビール商談……といういうことも、やってみたいなと思っています。 国内の方はもちろんですけど、やはり海外から来られたバイヤーや、我々の取引先も、皆さん日本のファッションに対してはリスペクトしてくれています。そんな方々が注目して来る場所というのは、渋谷、原宿、青山界隈がメインだと考えています。 マーケットリサーチなども含め、東京のファッションや世界のラグジュアリーブランドを見て、それらを取り入れながら、我々のブランドや価値の向上につなげていきたいと考えています。
長い歴史の中で、我々の仕事の中身も変わってきました。私も20年前、30年前は営業の現場でバリバリやっていたのですが、生地だけを持っていって、その素材を見て「これは…」といった感じで、見て触って選んでくれるすごいデザイナーたちが多かった時代でした。 それがどんどん簡素化されてきているというか――。生地を見て触ってくれていた方々が、どんどん「完成型」、「トータルの形」のイメージができるような提案を好まれるようになってきました。 今のデザイナーの方々は、洋服そのものを見る目はすごいと思うのですが、生地自体の素材を見てくれるマニアックなデザイナーが少なくなってきている気がしています。だから、我々も生地を提案するときに、どうしても洋服のサンプルも一緒に持っていかないと、ビジネスが前に進んでいかない。要は、デザイナー自身が生地を見て手で触って、自分の中でインスピレーションを高めて、「どうやったらこの素材を生かせるのか?」とか「こんなことができないか?」とか、そこまで考える人が減ってきているように思います。
生地の製造過程において、最初から100%成功するということはほぼないと考えています。以前の話になりますが、ある生地の開発に新しく挑戦してみたところ、目指した風合いにはほど遠いカリカリの素材が出来上がってしまったことがありました。当然、普通に考えれば失敗作です。ただ、それを衣服用としてではなく弊社で展開している雑貨に使ってみました。その商品が結構、好評をいただいたのです。 皆さんもご自宅で料理をされるかと思いますが、必ずしも成功するとは限らないでしょう。そんな時に「失敗した素材を捨ててしまう」のではなくて、「何かほかにアレンジできないのか?」と考えることがあるはずです。生地の場合も同じで、「失敗を失敗のままで終わらせない」、「別の利用方法はないのか?」と模索することを大切にしたい。これが「生地の料理人」という言葉の出発点だと思います。
元々の生地の幅は、世界的に決められているということをご存知でしょうか。基本的に140~150センチです。世界的に見ても、それがもっとも縫製しやく、輸送しやすい繊維、反物の標準になっています。 しかし、その幅に合わせるために、幅が広い繊維をギュギュッと詰め込んだりしなくてはならなくなります。逆に幅が足りないものは、ギュギュッと引っ張ったりもします。
例えば標準147センチの生地なのですが、加工条件を変えると140センチにギュッと縮まる素材があります。逆に縮まっている分だけ、生地が膨らむこともあります。あとは、表面がポコポコっとした感じになったりする素材もありますから、生地は様々なんです。 そこで1つ、ある仮説を立ててみました。「生地の気持ちになって考えてみる」ということを思ったのです。製造や販売、流通に適した規格を我々が勝手に作っていたわけですが、生地の立場に立ってみると、本来なら「もっと大きかったのに窮屈だ」と訴えていたり、逆に「縮んでいた方が実力を発揮できる」と主張したりと、生産者である我々のエゴではなく「生地の声」を聞くこと、「生地の気持ちになって考えてみる」ことで、その生地を使って製品を作るデザイナーやメーカー、それが最終的にはエンドユーザーに喜んでもらえるものづくりにつながるのではないかと考えています。
今年の2月、ミラノに行ってきました。国際的な素材の見本市として評価が高まっている「ミラノウニカ展」に出展することができたのです。今、我々の業界では「世界最高峰の展示会」とされているものです。パリの歴史ある国際的テキスタイルの見本市として「プルミエール・ビジョン」というものがあり、過去そこには出展して、受賞もしています。 展示会では各国ごとにブースが割り当てられているのですが、小松マテーレは日本の出展社として初めて、単独ブースで出展することが認められました。これまでも、ヨーロッパを中心として活動してきて、ようやくラグジュアリーブランドのマーケットでの活動が評価されたと感じました。ミラノウニカの会長など、さまざまな方々からの理解をいただき、「小松なら出してもいい」ということになりました。 例えば、生地を見ているイタリアの方々からすると、「日本の生地を見に行きたいけど、遠いし…。でも、ここで見られるなら日本の生地も見たい」。そういったバイヤーの方々の声があったようです。
ビジネスですから、空振りする時もあります。だけれども、営業をしているとやっぱり、現場でモノを作っている職人の方々の顔が思い浮かぶ時があるものです。 「あの人たちが作ってくれたモノ」という思いを先々に伝えなきゃいけないと考えています。そういう楽しさや生みの苦しみを現場に伝えていくのも社長の一つのミッションと思っています。 私は営業畑でしたので、商品開発やクリエイティブといった業務には疎いところがあります。しかし、会社の代表でもある営業担当として「さまざまなニーズを引き出して『開発=クリエイティブ』につなげる。それを形にして市場へ届ける。」ということが使命だと思っています。
世界的なマーケティングやブランディング……。それも、もちろん大切なことだと考えています。ただ、私たちはどこまでいってもメーカーなのです。「この生地っていいな。この製品って、どういうふうにして出来たのだろう…」といった興味があって、初めて我々のマーケットというものが成立すると思っています。世界の皆さまを驚かせるような生地やアパレル商品……当社の製品には、自信しかありません。そういった部分を、どんどん発信していきたいと思っています。