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コーヒー豆の量り売りから世界ブランドへ──スターバックスの進化
ビジョナリー編集部 2025/11/17
プライベートや仕事でも、スターバックスを利用したことがある人は多いのではないでしょうか?しかし、そもそもスターバックスとはどんな企業なのでしょうか?そして、なぜこれほどまでに世界中で成功を収めることができたのでしょうか。
この記事では、スターバックスの歴史や特徴、そしてその独自の魅力について解説します。
「コーヒー豆専門店」から始まった意外な歴史
スターバックスが誕生したのは1971年。アメリカ・シアトルのパイク・プレイス・マーケットに、ジェリー・ボールドウィン、ゴードン・バウカー、ゼブ・シーゲルの3人によって開かれた小さな店がその始まりです。当初は今のように店内でコーヒーを飲むカフェではなく、「新鮮なコーヒー豆を量り売りする専門店」だったのです。
この背景には、1960年代アメリカ西海岸で巻き起こったスペシャルティコーヒーの革命があります。当時のアメリカにもコーヒーはありましたが、スーパーで買う豆は小麦が混ざったりしており、味が悪いものでした。そこで、コーヒー豆の品質と焙煎方法に徹底的にこだわったアルフレッド・ピートが、カリフォルニア州バークレーで「ピーツ・コーヒー&ティー」を開業。彼の情熱が、多くの若者の心を動かし、その中の3人がスターバックスを立ち上げた、というわけです。
ピートの「本物志向」が若者の心を掴んだ理由
この時代、アメリカの若者は自分らしさや個性を求めていました。大量生産品や旧来型の価値観から離れ、「本物」や「自然」への憧れが強くなっていた時代背景。そんな中、コーヒーの産地や焙煎にこだわるスペシャルティコーヒーは、「自分は違う」という自己表現の証になったのです。
カフェ文化の転換点となった「ハワード・シュルツ」の登場
スターバックスの歴史を語る上で欠かせないのが、1982年に入社したハワード・シュルツの存在です。彼はマーケティング責任者として入社後、イタリア・ミラノを訪れ、現地のエスプレッソバーに衝撃を受けます。そこは単なるコーヒースタンドではなく、人が集い、会話やコミュニティが生まれる「第三の場所(サードプレイス)」としての役割を果たしていました。
「これこそ、アメリカにも必要な新しい文化だ」――シュルツはそう確信し、スターバックスのオーナーたちにカフェ業態への転換を提案します。しかし、当時の経営陣はコーヒー豆の販売にこだわり、彼のアイデアは受け入れられませんでした。
独立から逆転の買収、そして急成長へ
シュルツは自ら「イル・ジョルナーレ」というエスプレッソバーを立ち上げ、成功を収めます。その後、運命的な転機が訪れます。1987年、スターバックスのオーナーたちが事業継続を断念し、シュルツに買収を持ちかけたのです。
シュルツはスターバックスを買収し、カフェ業態への大胆な転換とともに、全国的なチェーン展開を開始しました。この決断が、スターバックスの急成長と世界進出の原動力となったのです。
スターバックスの「成功の本質」とは何か?
「おいしいコーヒーを提供しているから」「サードプレイスを作ったから」――こうした理由だけでは、スターバックスの成功を説明しきれません。実は、その裏には時代の大きなうねりを読み取り、「新しい自己表現の場」を生み出したという本質があります。
1. 時代の変化をとらえた「軽やかさと本物志向」の両立
1980年代、アメリカ社会は新自由主義の台頭で「個人の自由」や「軽やかな自己表現」が重視されるようになりました。重厚なこだわりや伝統が敬遠され、より気軽でおしゃれな価値観が求められたのです。
スターバックスは、イタリア語を使ったカップサイズ(グランデ、ベンティなど)や、エスプレッソベースの多彩なカスタマイズドリンク、さらには「ノンファットラテ」や「フラペチーノ」といった新商品を次々と導入。従来の「コーヒー通」だけでなく、若者や女性、さらにはコーヒーを飲まない人までをも巻き込む柔軟な経営判断を重ねました。
この「本格志向」と「大衆性」の絶妙なバランスこそが、スターバックスが他社と一線を画した最大のポイントです。
具体例:ヒット商品「フラペチーノ」の誕生
1995年、カリフォルニアの店舗スタッフが「夏でも楽しめる冷たい商品を」と提案したことから生まれた「フラペチーノ」。コーヒーを飲まない層にも支持され、今や世界中で親しまれる看板商品となりました。
2. 「カスタマイズ」と「手書き」の温かさで生まれる体験価値
スターバックスでは、ドリンクのカスタマイズはなんと17万通り以上。エスプレッソショットの追加、ミルクの種類、シロップやソースの選択まで、お客様一人ひとりの好みに合わせてオーダーメイドの一杯を提供しています。
また、店内のチョークボードやカップへの手書きメッセージ、バリスタのネームプレートなど、「手書き」の温かみを大切にする文化も特徴的です。こうした工夫が「自分だけのスターバックス体験」を生み出し、リピーターを増やしています。
3. 「パートナー」が生み出す独自の接客スタイル
スターバックスでは従業員のことを「パートナー」といい、マニュアルに縛られない接客が基本。「いらっしゃいませ」ではなく「こんにちは」と声をかけることで、自然なコミュニケーションを生み出しています。
さらに、「ブラックエプロン」のバリスタが在籍する店舗も。彼らは厳しい社内試験をクリアしたエキスパートであり、おすすめのコーヒーを尋ねると深い知見をもって応えてくれます。
グローバル企業としての進化と挑戦
スターバックスは1996年、銀座松屋通り店を皮切りに日本へ進出。以降、世界75カ国以上に3万店舗以上を展開し、グローバルブランドへと成長しました。
近年では「スターバックス リザーブ® ロースタリー」のような、美しい没入型のスペースで熟練した焙煎職人などがコーヒーを格別な体験とともに提供する新しい形の店舗も展開しています。さらにデリバリーサービスの拡充や、SDGs(持続可能な開発目標)への積極的な取り組みなど、時代や社会の変化に合わせて進化を続けています。
スターバックスの「本当の強さ」とは
スターバックスの強さとは、「時代の変化に敏感であること」と「人々の新しい自己表現の場を提供し続けていること」にあります。
- ただ美味しいコーヒーを出すだけでなく、その時代の価値観やライフスタイルを映し出す場所であること。
- お客様一人ひとりの「自分らしさ」を叶えるカスタマイズやサービスを用意すること。
- そして、変わり続ける社会において、常に新しい提案や体験を生み出し続けること。
これこそが、スターバックスが世界的なブランドへと進化した最大の理由です。
まとめ:スターバックスから学べること
スターバックスの歴史を振り返ると、時代と人の心を捉え続けるイノベーション企業であることが分かります。今後も新たな体験や価値を提案し、世界中の人々の「日常の一部」であり続けることでしょう。
次にスターバックスに立ち寄ったときは、「自分だけの一杯」と「新しい発見」を楽しんでみてはいかがでしょうか。


