
人類の新天地――ハンゲームをつくった千龍ノ介がつ...
9/17(水)
2025年
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ビジョナリー編集部 2025/09/16
前編では、cocone ONEの創業者および代表取締役会長兼社長の千龍ノ介氏に、来歴や企業経営の要諦について伺った。続く後編では、組織論や社員の健康面に焦点を当てた福利厚生、そして新たに『IAM』と命名されたアバターサービスについて伺った。
つまり、「潔(いさぎよ)く生きよう」ということです。会社では、クヨクヨしないで、失敗を引きずらないで、という感じでやっていこうと。そんなことを考えて言葉にしたものです。
強い組織、いわゆる優れていると言われる組織は、一人ひとりを鍛えるシステムや、組織として強くなるシステムを持っています。そうしたシステムを残していくことが大事だと思っています。文化を根付かせ、特定の誰かがいなくても、組織として属人的ではなくシステムで回るような会社になっていけば、cocone ONE(以下、ココネ)らしくなると思っています。
私のこれまでの人生経験から、強い人というのは優しい人だと思っています。地位の高い人から聞かされる話よりも、本当に優しい人の優しさに触れたときにパワーがあるというか、心が動いて温かくなってきます。一緒に生きていることを幸せだと思える人が、世の中にはたくさんいます。私はこれまで、そういう人たちと触れ合えたことが幸せでした。そしていま、そういった機会に満ちた組織を残すべきではないかと思っています。
経営者は社員が机の前に座っていれば安心するのかもしれませんが、実際にどう動いているのか、本当のところはわかっていません。当社では、基本的に無理やり何かをさせたり、本人の同意なく異動させることはありません。自分が今いる場所で最善を尽くして成果を出していければよいと思っています。
出社についてですが、いわゆるオンラインの画面越しでの会議で、これは伝わっていないな、と感じることがあります。実際に面と向かって仕事をしていれば、私が「これ」というだけで伝わることは多いと思います。そういった意味では、自分のスタイルや決まったことを共有することが肝要なクリエイティブな業務などは、顔を突き合わせて話した方がいいと思っています。
出社する・しないは、状況に応じてやればいいと思います。この間ニューヨークのオフィスの視察に行ってきたのですが、向こうの人たちは週3日ぐらい働くのが普通で、火曜・水曜・木曜に出勤しています。まさに時代的な流れですが、それに合わせてまた強くできる組織を考えればいいと思っています。出社することが良いか悪いかというより、基本的に子育てや、家に急用がある場合など、個人の事情を優先的に考えた方がいいという気持ちがあります。そして、何かがあったとしても、仕事ができるような体制と環境を会社として構築し、サポートしていこうと思っています。
また、出社した場合、1日8時間くらい会社にいることになります。人生のかなりの時間を会社で過ごすことになるので、その間に健康を維持するための食事と活動を提供しています。社員食堂の場合、効率を考えれば場所を提供して外部事業者に入ってもらうということはできますが、当社ではシェフも社員として採用しています。その意味では、社員の健康維持のために会社に来て食べてほしいところもあります。たまにコンビニの揚げ物が食べたいという人がいてもいいのですが、もし体の調子が悪くなってきたら、会社に来て食べ続けたほうがいいと思っています。特に一人暮らしの若い人に対してはそう思います。
昔、一緒に仕事をした人が、2人も亡くなられたという話を後になって聞きました。ショックでした。そのとき、会社は社員の健康についても責任を持たなくてはいけないと思ったわけです。食べる食べないは社員の選択肢ですが、少なくとも会社では健康的な食事を提供すべきだと思いました。健康のためには、まずは、食べるもの、そして運動する場所も必要だと思います。会社の中にジムがあるのが最適なので、ジムのスタッフも正社員として採用しています。もちろん運動をするしないも本人の自由ですが、そういう文化をつくっておこうということでジムもつくりました。
さらには、見る、聞く、読むものも、身体に栄養を取り入れるのと同じように心を豊かにします。会社が小さく、赤字続きの時から身体も心も豊かにできるよう環境をつくってきました。その当時、一部の社員から「黒字ならもっと給料をください」と言われたことがありましたが、財務状況を全部見せて、「赤字でも、いまそれが大事だと思っている。20代、30代の頃から、きちんといいものを食べて鍛えておけば、40代、50代になっても健康で好きな仕事もできる。先に経験しているからそれを伝えたい。これが会社の基本的な姿勢なんだ」と説明しました。
私は、食堂もジムも、「福利厚生」というよりOA機器や事務機器と同じように会社にとって必要なもの だと思っています。だからパンデミックの時もシェフたちを解雇することはありませんでした。もちろん、彼らが転職してしまうことはあると思いますが、いざという時には、社員を守らなければいけないという気持ちは強くあります。そういう時期こそ社員を守ることが大事だと思っています。
まさに何か新しいものをやりたいと思っている私たちのビジョンにつながる話です。私たちは「お客様は、家族ともシェアしないスマホを自分の身体の一部だと思っている可能性が高い」と考えています。スマホの中には空間があり、そこにコンテンツを自分で呼び込んで自分の文化をつくっている。責任者は自分だからその世界の中で自分が外されてはダメ。自分ならではの世界が欲しい、そこで自分が育っていける、というようなことを考えてつくったのが「ポケコロ」です。 アバターは、そこにアイデンティティを感じ、自分の違う部分を表現したものです。私たちも実際に一つの顔や立場だけではありません。誰かのお父さんであり、誰かの息子や娘であり、誰かの友人で、誰かの部長、誰かの部下……などいろんな役割があります。また、どこかの国で、人種や性別(ジェンダー)などに縛られているかもしれません。しかし、アバターになると国やジェンダー、人種などを乗り越えることができます。今、どこで何をやっているかについても知られなくてすむわけです。 自らが選んだカタチで、存在できるのがデジタルワールド なんです。スティーブン・スピルバーグがつくった映画『レディ・プレイヤー1』は、まさにその世界観を表しています。 私たちが目指すデジタルワールドは、現実世界の延長線上にある新しい生き方や居場所を実現する世界 です。そしてその世界はどんどん拡張していくことでしょう。まだカタチになってはいないので、これからワクワクするような素敵なデジタルワールドをつくろうと、いまチャレンジしているところです。
「IAM」は、Identity in Avatar Metaverseの頭字語であるとともに、英語の「IAM …」。すなわち、自分自身をどのように定義するのかという意味も込めています。現在、メタバースという言葉は解釈がまちまちで、「これがメタバースだ」と言えるほどのものは、まだないと思います。先ほど申し上げたようなデジタルワールドができると、世の中も変わっていきます。私たちのデジタルワールドにおいて、お客様の多様な「IAM」をより自由に、より幅広く表現していただけることを目標に提供していこうと思っています。
電子メールは、いろいろな人にほぼリアルタイムで連絡できる手紙の代わりでした。それが、いまでは認証に使われています。このことは、その機能が変わって進化したことを意味しています。とすると、例えば自分のアバターをNFT(Non-Fungible Token;非代替性トークン)にすれば、アバターを送るだけでより確実な証明ができるわけです。ほとんどの人がメールアドレスを持っているように、ほとんどの人がアバターを持つようになると、ちょっと語りたくもなるし、声も変えたくなり、新たなアイデンティティとなる可能性が高くなります。そうして、マイアバターをデジタルで持つような世界になるとアイデンティティアバターメタバースのような世界ができるのではないかということで、今回命名したわけです。
このような意味や思いを込めた「IAM」をもって、これからの時代の新大陸、自分らしく感性のまま自由にいられる世界をつくり、お客様の生活の一部あるいは、もう一つの居場所となれるよう、広げていきます。