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2025

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    思い込みが認識を歪める――「錯誤相関」の注意点

    思い込みが認識を歪める――「錯誤相関」の注意点

    「AB型の人は変わり者」「新設チームはミスが多い」――あなたは、こんな話を何気なく信じていませんか?
    ビジネスの現場では、限られた情報の中でスピーディーな判断が求められます。しかし、私たちの頭の中では、ときに実際には存在しない関係を結びつけてしまう現象が起きています。この現象こそが「錯誤相関」です。
    一見すると根拠があるように思える「集団や個人の特徴」ですが、実は思い込みに過ぎないことも少なくありません。錯誤相関がもたらす認知の歪みは、職場の評価、公平性、ひいては組織全体の成長にまで影響を及ぼします。
    では、錯誤相関とは何か? ビジネスパーソンが陥りやすいワナを、具体例とともに紐解き、どう対処すればよいかを考えていきましょう。

    錯誤相関とは?

    「雨男」「血液型性格診断」も錯誤相関の一例

    錯誤相関とは、2つの事象に本来相関関係がないにもかかわらず、「何かしら関連がある」と認識してしまう認知バイアスです。

    • 「AB型は変わり者」
    • 「あの人は雨男(イベントのたびに雨が降る)」
       

    これらは、偶然の一致や印象的な出来事が記憶に残ることで、実際には無関係なもの同士が「関連している」と錯覚してしまう現象です。

    実験で明らかになった錯誤相関

    1976年、心理学者ハミルトン&ギフォードは、錯誤相関を示す有名な実験を行いました。

    1. 多数派グループAと少数派グループBを作成
    2. 両グループでネガティブな行動を同じ比率で提示
    3. 被験者に「どちらのグループにネガティブな行動が多かったか」を尋ねる
       

    すると、「少数派の方がネガティブな行動の割合が多かった」と誤認する人が多数だったのです。

    なぜ、こうした誤認が起こるのか?

    • 少数派という「珍しい」属性
    • ネガティブな出来事という「目立つ」属性
       

    この2つの印象に残りやすい要素が組み合わさると、記憶に強烈に刻まれやすくなります。その結果、事実以上に「少数派=問題が多い」といった思い込みが生じるのです。

    ビジネス現場で頻発する錯誤相関の落とし穴

    ケース1:新設チームの「一度のミス」が全体のレッテルに

    たとえば、会社で新しく組織された少人数のプロジェクトチームが、たった一度だけ納期遅延を起こしたとします。このとき、「新しいチームは期待外れだ」「やっぱり経験が浅いからダメだ」といった評価が噴出しがちです。 実際には、他の多数派チームでも同程度の失敗が起きているのに、少数派×ネガティブの組み合わせが目立ち、周囲の印象を強く左右してしまうのです。

    ケース2:部署や職種ごとの固定観念

    • 「営業部は成果主義でガツガツしている」
    • 「経理部は真面目で保守的」
    • 「開発部はコミュニケーションが苦手」
       

    こうした部署ごとの性格付けも、個々のエピソードが過度に一般化され、錯誤相関が助長されやすい典型例です。

    ケース3:情報量の差による評価の偏り

    マネージャーが普段からよく接する部下については豊富な情報があり、極端な評価(「非常に優秀」「かなり問題あり」)をしがちです。一方、接点の少ない部下は慎重な評価となり、昇進や抜擢の機会を逃す危険性もあります。
    情報量の多寡や接し方によって、評価が歪むのも錯誤相関の一種なのです。

    錯誤相関が職場にもたらす弊害

    1. 公平性の喪失

    錯誤相関が強まると、「少数派チームが不公平に扱われている」「自分たちだけが損をしている」といった不満が高まりやすくなります。組織全体のエンゲージメントや信頼感を損ね、離職リスクにつながる恐れもあります。

    2. ステレオタイプと偏見の温床

    個人の失敗や成功が「その所属グループ全体の特徴」として一般化されると、部署や職種に対する根拠のない偏見が定着します。人事評価や配属の際にも、無意識のバイアスが入り込むリスクが大きくなります。

    3. 組織の成長機会の損失

    「新しい部署は失敗が多い」などの根拠のない思い込みが、新しいチャレンジや多様性の受容を阻害します。組織のイノベーションや人材育成の足かせとなりかねません。 記事内画像

    錯誤相関を防ぐには?――ビジネスパーソンに求められる4つの視点

    1. 「印象」と「事実」を切り分ける習慣をつける

    まず大切なのは、「自分が抱いている印象」が必ずしも事実と一致しないことを自覚することです。「本当にデータとして差があるのか?」と一歩引いて確認しましょう。

    チェックリスト

    • その評価はエピソードベースではなく、継続的なデータや観察に基づいているか?
    • 特定の部署や個人を、過去の目立つ出来事だけで判断していないか?

    2. 情報の「量」と「質」を意識する

    情報量が多い対象ほど、極端な評価を下しやすくなります。一方、情報が少ない場合には慎重な評価になりがちです。「よく知っているからこそ、バイアスが入りやすい」ことを意識しましょう。

    実践例

    • 普段接点の少ない部下にも、定期的にフィードバックや1on1面談を設ける
    • 情報が少ない場合は、判断を急がず複数の視点を集める

    3. 「違いがあるはずだ」という期待を疑ってみる

    「部署や役割ごとに明確な違いがあるはず」といった先入観があると、実際よりも差を大きく感じやすくなります。

    対処法

    • 判断の前に「違いを期待していないか」と自問する
    • 違いにばかり注目せず、共通点にも目を向ける

    4. 印象的な出来事への過度な依存を避ける

    一度の大きな成功や失敗が、その後の長期的な評価を左右してしまうことがあります。「一事が万事」ではなく、継続的かつ多角的な評価を心がけましょう。

    実践例

    • 複数の期間・場面でのパフォーマンスを総合的に評価する
    • 評価プロセスに第三者の意見やデータを取り入れる

    まとめ

    錯誤相関は、私たちの脳が情報を処理する際のクセですが、ビジネスの現場では、ときに大きな落とし穴となります。少数派や新しいチーム、目立つ出来事にばかり注目してしまうと、本来の実力や可能性を見落としてしまう危険があるのです。

    • 印象に流されず、事実に基づく判断を
    • 情報のバランスに配慮し、極端な評価を避ける
    • ステレオタイプや先入観を自覚し、問い直す習慣を
    • 継続的・多面的な評価で、組織の成長を後押しする
       

    明日から、あなたの職場でも「錯誤相関チェック」を取り入れてみてください。きっと、新しい視点やチャンスが見えてくるはずです。

    #バイアス

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