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労働施策総合推進法の改正――現場はどう変わるのか?
ビジョナリー編集部 2026/04/13
2026年、「労働施策総合推進法」の大幅な見直しが施行されます。今回の内容は、経営者から新人社員まで、誰一人として無関係ではいられない現実を突きつけています。
この記事では改正の内容から、どのような対応が求められるかまで、事例も踏まえながら解説していきます。
改正の背景と社会のリアル
「労働施策総合推進法」は、働く人が安心して長く活躍できる社会を築くために制定されました。2020年にはパワハラ対策の義務化が話題になったことも記憶に新しいところです。あれから5年、職場環境はさらに複雑化し、特に顧客対応の現場や採用の場面で新たなトラブルが噴出しています。
SNSには理不尽なクレームや暴言があふれ、働く人の心が悲鳴を上げています。なぜここまで問題が深刻化したのか。その背景には、顧客対応や就職活動の現場でハラスメントが急増した事実があります。
改正の3つの柱
2026年施行の改正法は、現場の声や社会の変化を受け、3つの大きな柱が打ち立てられました。
まず1つ目は「カスタマーハラスメント(カスハラ)」への対策です。これまでパワハラやセクハラは企業にとって避けて通れない課題でしたが、カスハラ対策は明確な法的義務がありませんでした。今回の改正で、事業主には「従業員を守るための具体的な措置」が義務づけられます。
2つ目は「就活でのハラスメント」への対応です。これまでは社内で働く人同士のトラブルが中心でしたが、今後は採用段階、つまり面接やインターンの現場でも、学生や求職者を守ることが企業の責任となります。
そして3つ目が「治療と仕事の両立支援」。高齢化や働き方の多様化が進む中、闘病しながら働き続ける人が増えています。企業には、病気と仕事を両立できる職場づくりへの努力義務が課されることになりました。
カスハラ対策の義務化
「お客様から言われたことは絶対」とされる文化は、良くも悪くも日本企業の伝統でした。しかし今、その“美徳”が働く人の健康や安全を脅かすリスクになっています。たとえば、店員が理不尽な要求で長時間拘束されたり、医療現場で患者や家族から暴言を受けたり、カスハラが原因で心を病み、職場を去る人が増えています。
今回の改正では、企業が「毅然とした態度で従業員を守る」ことを明確に打ち出さなくてはなりません。苦情を受け付けるだけでなく、社内での対応マニュアルの整備や、相談窓口の設置、管理職を中心とした研修の実施など、実効性の高い仕組みが求められます。顧客対応の現場で何が“許される範囲”かを具体的に示し、従業員に安心感を与えることが、これからの企業経営の生命線になっていきます。
あるホテルチェーンでは、カスハラにあたる言動があった場合、現場スタッフが即座に上長へ報告できる仕組みを導入しています。また、必要に応じて顧客に対してサービス提供を中止する判断も辞さないという方針を社内外に公表しています。こうした動きは、従業員の離職率低下や職場の士気向上に明確な成果をもたらしています。
就活のハラスメント対策
採用活動中のハラスメントへの対策もまた、義務化されます。これまでは在職者同士のハラスメント対策が主でしたが、今後は学生や転職希望者、インターン生に対しても企業が守るべき対象となります。
企業は、面接官向けのガイドラインを作成し、プライベートな情報を尋ねることのリスクや、性別に偏った質問を避ける指導を徹底する必要があります。また、求職者が安心して相談できる窓口の設置や、複数人での面接体制を整えるなど、現場レベルでの見直しが急務となります。
こうした取り組みは、リスク回避のためだけではありません。採用活動の透明性が高まれば、企業の信頼度も向上し、優秀な人材の確保にもつながります。あるIT企業では、面接前に応募者へ「質問NGリスト」を配布するなど、オープンな姿勢を示すことで、応募者の満足度が大幅に向上したという事例も報告されています。
治療と仕事の両立支援
働き方が多様化するなかで、病気と付き合いながら働く人は増えています。がんや糖尿病、精神疾患など、治療が長期化するケースも珍しくありません。今回の改正で、企業には「治療と仕事の両立」を支援することが努力義務として課されます。
たとえば、通院のための時差出勤や時短勤務制度の導入、休暇取得の柔軟化、在宅勤務の活用など、一人ひとりの事情に合わせた配慮が期待されます。これにより、病気を理由にキャリアを諦める人が減り、企業にとっても貴重な人材の流出を防げるメリットがあります。実際に、ある中堅メーカーでは、従業員の要望をもとに1時間単位で休暇を取得できる制度を導入し、治療と仕事の両立をサポートしています。
女性活躍推進の新たな一歩
女性の社会進出を後押しする施策も、今回の改正の大きな柱です。これまで、従業員301人以上の企業に義務づけられていた「男女間賃金差」と「女性管理職比率」の情報公開が、101人以上の企業に拡大されます。つまり、より多くの中小企業にも“見える化”が求められることになります。
また、女性活躍推進法の有効期限も10年延長され、2036年まで継続的に取り組みが続くことが決まりました。これにより、企業側は一時的な対応ではなく、長期的な視点で人事制度や評価基準を見直していく必要があります。
さらに、女性の活躍推進にとどまらず、ダイバーシティ経営全体の底上げにつながる波及効果も期待されています。ある地方の製造業では、女性管理職が増えたことで、業務プロセスの見直しや柔軟な働き方が定着し、業績の底上げにつながったというエピソードもあります。
法改正が企業経営に与える本当の影響
「うちは中小企業だから関係ない」と考える方がいたとしたら、それは大きな誤解です。改正法は、「従業員が1人でもいる事業主」すべてが対象となります。違反した場合、行政指導や企業名の公表といった厳しい措置が科される可能性もあります。
しかし、より重要なのは、「法令順守」だけを目的とした受け身の対応では、企業の未来は守れないということです。従業員を守る姿勢は、職場の安心感や一体感を生み出し、最終的には顧客からの信頼や社会的な評価にも直結します。
情報公開が進むことで、企業の取り組み姿勢が“見える化”され、採用活動や取引先との関係にも影響が出てくるでしょう。
企業がいますぐ始めるべきこと
まずは、「ハラスメントを許さない」という経営トップの明確な姿勢を打ち出すことが肝心です。そのうえで、現場の実情に即した社内規程やマニュアルを整備し、定期的な研修やアンケートを通じて実態把握と改善サイクルを回していくことが不可欠です。
また、制度を整えるだけでは不十分です。「誰もが安心して相談できる」「多様な働き方を尊重する」という文化を職場全体に根付かせていくことが、最終的な成功のカギとなります。
ある飲食チェーンでは、カスハラ対策の研修を新人研修だけでなく、店長会議や定期的な勉強会にも組み込むことで、全スタッフの意識改革につなげています。こうした地道な取り組みが、離職率の低下や従業員満足度の向上に直結しているのです。
まとめ
2026年の労働施策総合推進法の改正は、働く人ひとりひとりの声に耳を傾け、「どんな状況でも安心して働ける現場」をつくるための新たなスタートラインです。企業がこの変化にどう向き合うかによって、今後の成長や人材確保、さらには社会的な評価まで、あらゆる面で大きな差が生まれるでしょう。
「働きやすさ」は、もはや付加価値ではなく、経営の根幹です。現場の声に目を向けることが、未来の企業価値を決める一歩となるはずです。


