「日本の靴下産業を永続させる」――タビオ社長が語...
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生活文化・観光の産業化と感性資本が切り拓く未来
2026年 新年のご挨拶大西 洋 2026/01/01
新年あけましておめでとうございます。 2025年は、社会全体にとって多くの転換点を含んだ一年でした。そして、これからの数年間は、日本にとっても大きな節目となる可能性があります。 生成AIの進化は、業務効率や生産性の向上といった個別のテーマを超え、産業構造や意思決定の前提そのものに影響を及ぼし始めています。新しい年の始まりにあたり、こうした変化をどのように受け止め、未来へとつなげていくのかが、私たち一人ひとりに問われています。
10年ほど前から提唱されていた、「AIシンギュラリティ(技術的特異点)」という言葉が近年あらためて注目されています。専門家の間では人間レベルのAI(AGI)が2040年代から2050年頃に到来する可能性が議論されてきましたが、現在の技術進歩を見る限り、その兆しは想定よりも早く現れ始めています。 かつては5年、10年単位で訪れていた社会の節目が、今では3年程度のスパンで訪れることも珍しくなくなり、変化のスピードだけでなく、時間軸そのものが短縮されていることを、私たちは前提として受け止める必要があるのではないでしょうか。
こうした環境の中で重要なのは、AIをどう活用するかという技術論以前に、「変化が前倒しで起こる時代に、何を拠り所として意思決定を行うのか」という視点です。
AIを過度に万能視するのでも、必要以上に警戒するのでもなく、人間が担う責任の範囲と、技術に委ねる領域をどう整理していくのか。その設計が、今後の競争力や社会の持続性を左右します。
同時に、こうした時代だからこそ、経営者一人ひとりの力量がより明確に試されていきます。明確な正解が見えにくい局面において、どのような価値観を軸に判断し、どのような方向性を組織に示していくのか。その積み重ねが、組織文化を形づくり、結果として人や企業の強さにつながっていきます。
さらに言えば、AIが高度化するほど、人間に求められる資質も変わっていきます。論理や効率だけでなく、状況を多面的に捉え、先を思い描く「創像力」が、これまで以上に重要になっていき、技術と共存する時代において、人間が人間らしく生き残っていくための鍵は、まさにその創像力にあります。
この問いは、経済や産業の枠内にとどまりません。原材料価格やエネルギーコストの上昇、円安の進行、ウクライナ情勢の長期化や中東地域を巡る緊張など、国際環境は依然として先行きの見通しが立ちにくい状況にあります。エネルギー、食料、通信、宇宙といった分野は、経済合理性だけでなく、社会全体の安定や持続性とも深く結びつくテーマとして、より強く意識されるようになってきました。
こうした状況を前に、改めて「国力とは何か」を問い直す必要があると感じています。GDPの数値だけが国の力を示すわけではありませんが、国際通貨基金(IMF)の最新の統計によると、2024年時点で日本は名目GDPで世界4位ですが、2026年にはインドに抜かれる見通しです。また、豊かさの目安となる1人あたりの名目GDP(国内総生産)で日本は順位を2つ落とし、OECD(経済協力開発機構)の加盟国38カ国中、24位となりました。 今後も新興国の成長が続く中で、相対的な立ち位置が揺らぎ得る現実に直面しています。円安や物価高、資源制約といった課題の背景には、国としての総合的な実力、すなわち国力の在り方そのものが問われている側面があります。
とりわけ懸念しているのは、人材の循環が細りつつある点です。国内の優秀な人材が将来の可能性を求めて海外へ向かう一方、かつては日本に魅力を感じて来日していた海外人材が、日本を選ばなくなりつつあります。 このままでは、日本だけが国際的な人材循環から取り残される、「人的な意味での島国化」が進行しかねません。
日本財団の「18歳意識調査」では、日本の若者は将来への期待や、「社会を変えられる」という実感を持ちにくい傾向が示されています。だからこそ、今あらためて「人材こそが最大の資本である」という視点を大切にしたいと考えています。 貸借対照表には表れない無形資産としての人材が、これからの国力を左右する重要な要素であることは間違いありません。
こうした文脈の中で、私が日本の将来に向けて特に可能性を感じているのが、地方に根ざした生活文化を産業として再構築する取り組みです。地方創生の本質は、単なる地域活性化や人口対策ではなく、日本がどのような価値を世界に提示できるかという、国の立ち位置そのものに関わるテーマです。
地方には、食や工芸、暮らし方、祭りや風習など、日常の中に育まれてきた文化的価値が数多く存在します。それらは観光資源や伝統として語られることが多い一方で、まだ十分に産業化されていない「未活用の資源」でもあります。
観光産業は、その可能性を最も分かりやすく示す分野の一つです。訪日外国人の消費は、GDP統計上、サービス輸出として計上される外貨獲得産業であり、2019年、訪日外国人旅行者一人あたりの消費額は約15万円でした。その後、コロナ禍を経てインバウンドの質的転換が進み、2024年には一人あたりの消費額が約22万円規模まで回復・拡大しています。観光を真に「輸出産業」として成立させ、日本経済の持続的な成長につなげていくためには、次の目標として一人あたり30万円の消費水準を見据える視点が不可欠だと考えています。
単なる来訪者数の拡大ではなく、観光と地方に眠る生活文化の産業化と、観光産業を組み合わせることで、新たな「輸出産業」を育てていくことができます。地域の価値、文化、技術、食、体験が正しく評価され、その対価が生産者や地域の担い手へ確実に還元される仕組みを構築できるかどうか。その鍵を握るのが、アートやカルチャー、伝統素材、職人技、ファッションやデザインといった感性の領域です。論理と感性の両輪を育て、地方に蓄積された文化的資源を世界と接続していく。その積み重ねこそが、日本ならではの国力を再構築する、現実的で持続可能な道筋になるのではないでしょうか。
新しい年の始まりにあたり、変化の時代を前向きに捉え、次の世代につながる選択を一つひとつ積み重ねていきたいと思います。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
大西 洋


