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9/11(木)
2025年
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ビジョナリー編集部 2025/09/11
夏休みが近づくと多くのご家庭で聞こえてくる声。それは「自由研究のテーマが決まらない!」や「子どもがなかなか始めてくれなくて困る」という悩みです。もしその“大変な宿題”が、社会を変える新しい商品につながるとしたらどうでしょうか。
実は今、子どもたちの好奇心と探究心が、社会課題の解決や新しい市場づくりに結びつく事例が続々と生まれています。今回は自由研究発のヒット商品や注目事例を通して、その裏にある子どもの成長、家族や地域のサポート、そして未来への可能性について考えてみます。
最初にご紹介したいのは、福井県の五十嵐優翔さんが小学校4年生から5年間取り組んだ、「紙漉(かみすき)」の自由研究です。彼の研究は、廃棄食材を原料にしたサステナブルな紙「FOOD PAPER」として商品化され、全国から高い注目を集めることとなりました。
ある夏の日、優翔さんがテレビで「バナナからできる紙」を紹介する番組を見かけました。ただ、途中から見たため、本当は「バナナの幹の皮」だった内容を「実の皮」と勘違い。それでも「バナナの皮で紙を作ってみたい!」と家族に伝えました。
母親の匡美さんは、家業である越前和紙の工房から簡易紙漉きキットを貸し出します。すると、初めてバナナの皮で紙ができた感動から、冷蔵庫の中のセロリや野菜、家の中のあらゆる素材で紙作りに挑戦し始めたのです。
1年目は14種類もの紙を作り、地元の理科作品展で優秀賞を受賞。その経験が翌年以降のモチベーションへとつながりました。優翔さんは「顕微鏡で紙の繊維を観察したい」と主体的に親へ交渉。実験計画を立て、家族や先生に相談しながら道具を工夫し、毎年着実に研究を深めていきました。
母親は「本人の自主性に任せていた」と語ります。日々の暮らしの中で、子どもが“なぜ?”と感じたことを自分なりに掘り下げていく――まさに理想的な探究学習の姿です。
そんな自由研究が思わぬ展開を見せたのは中学生になってから。母・匡美さんが参加したビジネス講座で「食べられる紙ってあるんですか?」と問われ、息子の研究を紹介したところ「それだ!」と商品化の話が一気に進展。「FOOD PAPER」は、廃棄食材を活用することで環境負荷を軽減するアイディアも評価され、見事に製品化。展示会でも大反響を巻き起こしました。
実際に自分の研究が社会に役立つ商品となったことで、優翔さん自身も「SDGsを身近に感じるようになった」と語っています。
次に注目したいのは、福島県の関本創くん(当時小3)が夏休みの自由研究で生み出した「ドライヘルパー」。洗濯物、とくにバスタオルの乾きの遅さを解決するアイテムとして、100円ショップ「Can★Do」で商品化されました。
創くんは元々ものづくりが好きで、「せっかくなら誰かの役に立つものを」とお母さんに相談したところ、「バスタオルが乾かない」という日常の悩みがテーマに。空気の通り道を作れば乾きやすくなると考え、ペットボトルやアームリングなど家にあるもので試作品を何度も作り直しました。
改良に改良を重ねた末、「物干し補助具」として特許まで取得。新聞で小学生の発明が特許をとったという記事に刺激され、「自分もやってみたい」という思いが原動力になっていたそうです。実際、母親がこの商品を使い続けていることに大きな喜びを感じているそうです。
創くんはこの他にもオリジナルのグッズ開発や、収益で購入したマスクを地元の医療機関へ寄付するなど、“人の役に立ちたい”という気持ちを行動で示しています。
小学生の自由研究がきっかけで企業の商品開発が動いた例もあります。山口県防府市の光浦醸造工業が開発した「STROLL(ストロール)」は、洗って繰り返し使える新しいストロー。元は光浦社長の娘さんが「ストローは自然にかえる素材で作れないか」と自由研究で探究したことが発端でした。
ライスペーパーやマカロニ、空芯菜の葉など様々な素材でストローづくりに挑戦。しかし、いずれも一度しか使えなかったり、腐ってしまったりする課題が浮上。そこで発想を転換し、クリアファイルを巻いて洗えるシート型ストローを考案したのです。
学校での発表後、担当教員から「特許が取れるのでは?」とアドバイスがあり、父親が本格的に事業化に着手。何度も改良を重ね、ついに一般販売へ。慶応元年創業の老舗企業が新たな挑戦を始めるに至りました。
愛知県豊川市の伊藤梢さん(当時小3)は、誕生日に飲んだコーラをきっかけに「コーラって自分で作れないの?」という素朴な疑問を自由研究のテーマに選びました。
市販のコーラの材料を調べ、手に入らない「コーラの実」の代わりに地元特産のシソやレモンで“クラフトコーラ”を開発。家族や友人に試飲してもらい、最も評判の良かったレシピを商品化するため、地域のカフェスペースと協力。ラベルデザインも自身で手がけ、発表会では用意した60本がほぼ完売する大成功となりました。
話題を呼んだ梢さんのコーラ作りは、さらに「ローゼル」という赤い植物を使った新レシピへ発展。地元農家や障害者施設の協力を得て試作と味比べを重ね、人気投票でベストレシピを決定。完成した新商品はクラウドファンディングも活用し、「自分の疑問から社会に広げる」体験を重ねています。
大阪の南端匠くん(当時小1)は、動物園をテーマにしたオリジナルボードゲームを夏休みの自由研究で制作。家族で遊ぶ中で「自分も作ってみたい!」という好奇心が芽生え、イラストやルールづくりまで自分で担当しました。
学校での展示の後、母親が「せっかくならもっと多くの人に知ってほしい」とSTEAM Toy Contestに応募。見事キッズクリエイター部門賞を受賞し、おもちゃメーカーから商品化の声がかかります。
匠くんの家庭では、「質問には必ず答える」「やるべきことをやれば自由」といった子育ての方針を徹底。分からないことがあれば一緒に調べ、好奇心の芽を摘まない工夫が、子どもの創造力を大きく伸ばしたのです。
ここまでご紹介したように、夏休みの自由研究から生まれた商品には共通点があります。それは、
という点です。
とくに、子どもが日常の中で感じた小さな「疑問」や「困った」が、社会全体の課題解決につながることも少なくありません。家族が「そんなことできるの?」と否定せず、時に一緒に調べたり、時に静かに見守ることで、子どもの自発的な探究心が最大限に引き出されます。
もし、お子さんが「これってどうして?」「やってみたい」と言い出したら、ぜひ応援してあげてください。失敗しても、うまくいかなくても、その過程こそが学びです。そして、思いがけない発見や、社会を変える商品の種がそこから生まれるかもしれません。
「なぜ?」を一緒に探し、子どもの可能性に寄り添う時間を作ってみてはいかがでしょうか。自由研究が、子どもの未来だけでなく、私たちの社会全体に新しい風を吹き込んでくれることでしょう。
「なんで?」という子どもの言葉に耳を傾けてみてください。きっと、そこには思いがけない発見と成長のチャンスが眠っています。