
「よりよい人生をつくる」――理念を形にした福利厚...
8/28(木)
2025年
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ビジョナリー編集部 2025/08/28
英国の教育専門誌「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション」(THE: Times Higher Education)が発表した日本大学ランキング2025。その総合トップ10には、東京大学や京都大学といった旧帝国大学をはじめ、東京科学大学(旧:東京工業大学・東京医科歯科大学)、筑波大学など、歴史と実績を誇る大学がずらりと並ぶ。しかし、その中に一つ、異彩を放つ公立大学がある。秋田にキャンパスを構える国際教養大学(Akita International University: 通称AIU)だ。
開学からわずか20年という若い大学ながら、「国際性」で全国第1位、「教育充実度」で全国第2位、そして総合で第10位という快挙を成し遂げた。なぜ、地方の小さな公立大学が、これほどまでに高い評価を得ているのだろうか。
その背景には、2004年の開学以来、徹底して貫かれている独自の教育システムがあるという。「国際教養教育」を理念に掲げ、すべて英語で行われる少人数授業、教員の半数以上を外国籍で構成し、学生の約4分の1が留学生という「多文化共生のキャンパス」、そして全学生に課される「1年間の留学義務」。こうした学びの仕組みと環境は、日本の高等教育における国際化を牽引する存在として「2023年度グッドデザイン・ベスト100」を受賞するなど、外部からも高く評価されている。その使命は、国際社会で活躍できる「グローバルリーダーの輩出」だという。
国際教養大学の名を耳にして、美しい建築を誇る「24時間365日開館」の中嶋記念図書館を思い浮かべる人も多いだろう。しかし、その神髄は「すべて英語で行われる少人数授業」と「1年間の留学義務」という、独自のカリキュラムにある。
入学直後から学生たちは、学術英語を徹底的に叩き込まれ、多分野にわたる科目をすべて英語で履修する。授業の多くはディスカッション形式で、自らの考えを英語で主張し、他者の意見を英語で理解する能力が日々問われるという。この厳しい学修環境こそが、全学生に課される1年間の海外留学を成功に導くのだ。
留学を必須とする大学は増えているが、国際教養大学のそれは単なる語学研修ではない。50を超える国・地域に広がる200以上の提携校の中から、自身の学問的関心に合った大学を選び、1年間、現地の学生と全く同じ条件で単位を修得しなければならない。世界のトップクラスの大学も含まれる留学先で好成績を収めることは、まさに「本気」の挑戦と言えるだろう。
留学先の授業はカリキュラムの一部と位置づけられており、卒業が遅れることはない。また、一部の大学を除き、留学先の授業料は国際教養大学に納めることで免除される仕組みも特徴だ。派遣した学生とほぼ同数の留学生を海外から受け入れることで、キャンパスにいる学生の約4分の1は、年間を通して留学生が占める。約9割の学生が学内の寮や宿舎で留学生と寝食を共にする環境は、まさに「多文化共生キャンパス」と呼ぶにふさわしい。
コンビニひとつない、自然に囲まれた山の中のキャンパス。英語漬けの毎日と厳しいカリキュラム。それでも国際教養大学の学生たちは、意欲的に学び続けているという。その背景には、大学独自の充実したサポート制度の存在がある。
入学直後から始まる「英語集中プログラム(EAP: English for Academic Purposes Program)」では、英語で学ぶために不可欠な学術英語の運用能力を集中的に身につける。また、学生一人ひとりにはアドバイザー教員が割り当てられ、履修科目の選択から進路相談まで、学業のあらゆる面でサポートを受けることができる。国をまたいだ複雑な手続きが必要となる留学に関しても、生活面を含めて親身に相談に乗る留学コーディネーターという心強い職員が支えてくれる。学生のやる気を引き出し、支える厳しくも温かなサポートは、小規模な大学だからこそ可能なのだろう。
予備校各社が公表する偏差値を見れば、国際教養大学は東京大学とも肩を並べるほどの難関だ。しかし、大学が求めているのは、決して「勉強だけができる学生」ではないという。 多彩な能力や資質を備えた学生を選抜するため、課題解決型の合宿を通じて評価する「グローバル・ワークショップ入試」や、入学前のボランティア活動などを評価する「ギャップイヤー入試」といった独自の制度を導入。その入試方式は全部で16種類にも及ぶ。他の国公立大学とは異なる入試日程を組むことで、受験機会を多く設定しているのも大きな特長だ。
2021年4月からは、応用国際教養教育(AILA: Applied International Liberal Arts)という新たな教育手法を導入。多様な分野の知識やスキルを関連づけて考える力(統合知)と、仲間や地域社会と協働しリードしていく力(人間力)の育成を両輪とし、従来のリベラルアーツ教育を基盤としながら、実践力をさらに強化していく構えだ。その挑戦は、これからも日本の高等教育に大きな影響を与えていくだろう。