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創業100年の強み × デジタル。キユーピーが描く「一人ひとりの食のパートナー」へのロードマップ
ビジョナリー編集部 2025/12/05
創業100年企業の「健全な危機感」。キユーピーがDXで目指す「食生活メーカー」への進化
消費者のライフスタイルや食嗜好が多様化し、企業と顧客の関係も大きく変化しています。大量生産・大量消費の時代は終わり、消費者一人ひとりの食生活に寄り添った、新たな価値を創造することが求められています。
キユーピーグループは、こうした時代の変化に対し「健全な危機感」を持ち、デジタルトランスフォーメーション(DX)を経営の重要テーマに据えている。彼らが目指すのは、単なる業務効率化ではない。「価値創造プロセスの進化」を掲げ、顧客との関係を深めることで持続的な企業価値を生み出そうとしているのだ。
そのDX戦略の中核を担うのが、運用開始から3周年を迎えた「kewpie ID」である。同社のDX戦略を牽引する、執行役員 デジタル推進本部長の椎野浩幸氏と、デジタル推進本部 カスタマーサクセス室長の小林野映氏に、これまでの歩みと今後の展望について話を聞いた。

左:キユーピー株式会社 執行役員 デジタル推進本部長 椎野 浩幸 右:キユーピー株式会社 デジタル推進本部 カスタマーサクセス室長 小林 野映
グループ横断の基盤「kewpie ID」が達成した成果
キユーピーグループのDX戦略において、重要な柱となっているのがkewpie IDだ。
小林氏によると、このIDは顧客とキユーピーを直接つなぐ共通基盤として機能している。具体的には、会員専用サービスHi! Kewpieと、食品ECサイトQummyという2つのデジタルサービス(※1)を、1つのアカウントでシームレスに利用できる仕組みだ。登録することで、レシピや商品のお気に入り保存、キャンペーンへの応募、そしてオンラインでの買い物がスムーズに行えるようになる。
2022年9月にスタートしたkewpie IDは、順調にユーザー数を伸ばしている。小林氏は、当初掲げていた 「3年間で30万人到達」という目標を達成 したことを明かした。現在は次なるフェーズとして、100万人の顧客とのつながりを目指しているという。 ※1 参考:キユーピー商品サイト内に日々の食卓をさらに便利に楽しむための会員専用のサービス『Hi! kewpie™(ハイ! キユーピー)』をオープン(2022年9月リリース) 参考:「一人ひとりの食のパートナー」をめざして バラエティ豊かな野菜料理を楽しむためのD2Cの新サービス『Qummy®(キユーミー)』誕生(2022年9月リリース)
LTV最大化へ、デジタルとリアルの接点を統合
では、このID統合は経営戦略上どのような意味を持つのだろうか。椎野氏は、 LTV(ライフタイムバリュー;顧客生涯価値)を最大化させ、お客さまとの長期的な関係性を構築する意義 があると強調する。これまで点在していた顧客接点を共通プラットフォームに統合することで、嗜好や期待を深く理解し、商品開発へ還元する狙いがある。
LTV向上のためには、継続的な利用が鍵となる。同社では、サイト訪問やメルマガ購読などの日常的なアクションに対してポイントを付与するなど、顧客が楽しみながら関わり続けられる工夫を凝らしている。
さらに2025年6月には、新たな一手として LINEで献立相談ができる対話型レシピ提案サービス「レシピトーク」の提供をスタート (※2)させた。これはAIが「キユーピー3分クッキング」などの膨大なレシピから、その日の献立を提案してくれるサービスだ。家族とのグループトークでも利用可能で、コミュニケーションの活性化も図れるという。
椎野氏は「私たちとしては、 お客さまの理解をもっともっと深めていきたい 」と語る。顧客理解を深めることで、よりニーズに合致した情報やサービスを提供していく考えだ。そして、そのための重要なタッチポイントとして、kewpie IDと同時期に立ち上がった「Qummy」の存在感がましている。

※2 参考:LINEで献立相談ができる対話型レシピ提案サービス「レシピトーク」の提供を開始 社内のDX人材が生成AIを活用して独自にシステムを構築
直販サイトを超えた「イノベーション・プラットフォーム」への進化
運用開始から3年が経過した直販サイト「Qummy」も、単なる販売チャネルから進化を遂げている。
小林氏によれば、定量的な成果としてサラダセットの商品ラインアップを100種類まで拡充。 3年間でお客さまに提供してきたサラダの数は約5万食を超え、 「サラダのEC」としての認知を広げてきた。
定性的な面では、リピーターの行動データ分析から新たなインサイトが得られたという。例えば、サラダを手軽にアレンジできる「トッピング」への評価が予想以上に高いことが判明したため、トッピングのみのセットを商品化したところ好評を博した。また、利用頻度の高い層に「一人暮らしの単身者」が多いことから、一食で満足感が得られるたんぱく質強化メニューを拡充するなど、データに基づいた商品開発が進んでいる。
これまでは小売店を通じて反応を探るのが一般的だったが、 Qummyによってお客さまとよりダイレクトにつながる ことが可能になった。小林氏はQummyについて、 「お客さまの声を聞く場」また、その声を聞いてお客さまの潜在的なニーズを迅速に商品などに反映できる「イノベーション・プラットフォーム」 の役割を果たしていると定義づける。

DX認定取得は「スタート地点」。3つの柱で挑む変革
2025年8月、キユーピーは経済産業省が定める「DX認定事業者」に認定された(※3)。しかし椎野氏は、これをあくまでDX推進の「スタート地点」と捉えている。目指すのは業務効率化を超えた、「企業価値の持続的な向上」だ。同社はkewpie IDを軸に、以下の3つの柱を掲げている。
- リアルとデジタルの融合により、お客さまにキユーピーのファンになっていただく Qummyなどのデジタル接点に加え、オープンキッチン(工場見学)や「マヨテラス」、「深谷テラス ヤサイな仲間たちファーム」といったリアルな体験の場を持つのが同社の強みだ。これらを統合することで顧客解像度を高め、画一的なマーケティングから脱却して、個別のニーズに応える「パーソナライゼーション」を実現し、グループ全体でLTVを高めていきたい としている。
- 情報のパーソナライズ化 kewpie IDとAIを組み合わせ、個人の味の好みや健康課題に合わせたレシピ提案を行う。椎野氏は、 個人の健康課題を解決したり、食の多様性に応えていくことで、食を通じたウェルネスの実現、ひいては社会課題の解決にもつなげられる と展望を語る。
- データ活用の高速サイクル 顧客の声を新商品開発や研究に生かすサイクルを高速化させる。特にQummyは イノベーションプラットフォーム として、その役割を強化していく方針だ。 ※3 参考:キユーピー、経済産業省が定める「DX認定事業者」に認定
「食品メーカー」から「食生活メーカー」への進化
インタビューの最後、椎野氏は変化の激しい時代において企業には 「健全な危機感」が不可欠 であると語った。
「メーカーが物を作れば売れる時代は終わった」と冷静に分析する同社は、 価値創造プロセスを進化させ、企業体質も変革させていきながら、「キユーピーらしさ」は決して失わないという覚悟 を持っている。長年培ってきたブランドや知見という強みにDXを掛け合わせることで、 食品メーカーから食生活メーカーに進化し、「一人ひとりの食のパートナー」を実現 する。そのために、キユーピーはこれからもDX戦略を強力に推し進めていく構えだ。



