
“現実逃避”ではなく“現実拡張”――ココネが提唱...
9/30(火)
2025年
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ビジョナリー編集部 2025/09/30
飲食業界において省人化・機械化が急速に進む中、あえてその対極にある「人の力」に最大限注力する経営方針を掲げる企業がある。手づくり・できたてのうどんで知られる丸亀製麺などを展開するトリドールホールディングス(以下、トリドールHD)だ。
同社は、人的資本経営をさらに深化させた独自の経営手法として、人の“心”を起点とする「心的資本経営」を2025年9月より始動させた。これは「従業員の“心”の幸せ」と「お客様の“心”の感動」を重要な資本ととらえ、双方を満たし続けることで持続的な事業成長を目指す試みだ。
実はトリドールHDでは、昨年6月からこの心的資本経営の社内浸透を進めてきたという。その結果、従業員の離職率が約12.9%低下(2023年度と2024年度の比較)、トリドールグループに寄せられた顧客からの称賛の声が24.5%増加(同)するなど、すでにポジティブな効果が表れ始めている。
創業以来の価値観である「人」が持つ無限の可能性に着目し、人の温もりが感じられる接客を大切にし続けてきた同社。「人の力」こそが顧客に唯一無二の感動を届け、ブランドの源泉であると再認識した今、「心的資本経営」を新たな原動力としてグループ全体の経営改革に乗り出す構えだ。
トリドールHDの代表取締役社長兼CEOである粟田貴也氏は、次のように語る。 「省人化が進む時代だからこそ、『人の力』が唯一無二の感動を生む源泉だと信じています。『心的資本経営』を通じて、従業員の幸福とお客様の感動が循環する仕組みを育み、これからも『食の感動で、この星を満たせ。』という私たちの使命を追求していきます」
この「心的資本経営」の核となるのが、同社が独自に定義した実践モデル「ハピカン繁盛サイクル」だ。
その起点に据えるのは、従業員の“幸福実感”=「ハピネス」。従業員が心からの幸福感を持って働ける職場環境が整うことで、自ら考えて行動する「内発的動機」を育むという。そして、この内発性こそが、顧客に「感動」をもたらす体験を生み出す原動力だと考えているという。
顧客の感動体験が積み重なることで支持が高まり、店舗の持続的な「繁盛」へとつながる。さらに、その成果を従業員へ適切に還元することで、再びハピネスが高まり、感動体験の質が深化していく。この「幸福(ハピネス)」と「感動(カンドウ)」の頭文字をとった「ハピカン経営」が、好循環を生み出すというわけだ。
この「ハピカン繁盛サイクル」を回していくため、同社は具体的な制度改革にも着手する。
まず、「心的資本経営」を実現するために、従来の店長制度を刷新し、新たに「ハピカンオフィサー制度」を導入。
ハピカンオフィサーの主な役割は、店舗での「ハピカン繁盛サイクル」の実現だ。従来、店長が担っていたオペレーション業務の一部を他のメンバーへ移管。店舗で働く従業員一人ひとりの内発的動機を引き出し、店独自の感動体験の創造をリードする役割へとシフトするという。
注目すべきは、抜本的に見直される報酬制度だ。ハピカン繁盛サイクルの実践レベルに応じて報酬が変動し、最大で年収2,000万円を得ることもできる制度になるという。「大きな貢献に大きく報いる」ことを可能にする報酬体系を構築するとしている。
丸亀製麺では「ハピカンキャプテン」という呼称で、2025年11月からの導入に向けて研修などを進めており、2028年には300名のハピカンキャプテンを育成する予定だ。今後、国内のその他業態へも展開していく。
従業員本人だけでなく、その家族にも温かな体験を届けることを目的とした新制度「家族食堂制度」も開始する。
この制度は、トリドールグループの店舗で働く従業員の家族(15歳以下の子ども)を対象に、所属するブランドの全国の店舗で、いつでも無償(ブランドごとに利用条件あり)で食事を楽しめる機会を提供するものだ。家族との団らんの時間づくりや子育て支援、職場への理解を深めるきっかけにしてもらう狙いがあるという。
2025年12月より丸亀製麺・天ぷらまきの・焼き鳥とりどーる・長田本庄軒・とんかつとん一で導入を開始、その後、他ブランドへの展開も視野に入れている。企業と従業員の関係を個人から家族単位へと広げ、従業員の安心感や幸福感の向上を目指す。
従業員の心の状態を可視化し、「感動」と「繁盛」の相関分析で好循環を裏付ける動きも進んでいる。「心的資本経営」の基盤を支えるデータサイエンスとして、同社は独自指標「ハピネススコア」を設計・導入した。これは、アルサーガパートナーズの調査(2025年9月現在)によると、国内の主要な8社の従業員エンゲージメント測定サービスにおいて初の試みだという。
丸亀製麺では、昨年4月から顧客の食後の感情をアンケートで「感動スコア」として可視化。今年7月からは店舗で働く従業員の心の満足度を測る「ハピネススコア」も導入し、従業員と顧客双方の“心の状態”を可視化している。これにより、業績との相関・因果関係を複数の統計手法を用いて明らかにする。
初期分析では、ハピネススコアが高い店舗ほど感動スコアも高く、業績への貢献が明確に現れる傾向が確認されているとのこと。今後はこの成果をさらに深掘りし、ハピカンアクションを促進するデータサイエンスの活用を発表していく予定だ。
トリドールグループは、心的資本経営に基づき、従業員の内発的動機を高め、唯一無二の感動創造への挑戦を続けていくとしている。