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2026

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    「売れるものを、売れるだけ作る」理想の実現へ。タビオ生産システムの根底にある「理念の共同体」とは

    「売れるものを、売れるだけ作る」理想の実現へ。タビオ生産システムの根底にある「理念の共同体」とは

     アパレル業界において、シーズン前に生産数量を決め、海外で計画生産する手法はもはや一般的だ。コスト抑制のための合理的な仕組みに見えるが、実態は「予測」と「需要」が乖離する大きなリスクをはらんでいる。当てが外れれば、在庫の山だ。売れ過ぎて、品切れとなれば商機を逃す。どちらにせよ、企業にとっては手痛い損失となる。

     昨今、SDGsへの関心が高まる中で、廃棄や無駄を生む企業に対する消費者の視線はかつてないほど厳しくなっている。「作った分だけを、確実に売り切る」。この理想のビジネスモデルを半世紀以上にわたって追求し続けているのが、靴下専門店を展開するタビオだ。同社がいかにして市場の需要と工場を直結させる仕組みを築き上げたのか、その歩みにはいくつもの「転換点」があった。

    「売れないものを作るな」――心に刻まれた指針

     実はタビオも、創業間もない頃は「作りすぎ」による経営危機に直面していたという。

     創業者である越智直正氏が、13年間の丁稚奉公(でっちぼうこう)を経てタビオの前身となる靴下卸業「ダンソックス(以下、ダン)」を1968年に起業した当時のことだ。当時は越智氏が自身の感性で気に入った靴下を大量に作る傾向があり、過剰発注による借金は創業わずか5年で7,000万円にまで膨れ上がっていた。当時のダンの年商に匹敵する、天文学的な数字である。

     金策に走り回る中で、越智氏が経理担当者に「どうすれば金を“返す”側のやり手になれるか」と漏らした際、返ってきたのはあまりにシンプルな言葉だった。

     「売れるものを売れるだけ作ればいい。売れないものを作るな」

     丁稚時代から需要を当てることの難しさを痛感していた越智氏は、「それができたら苦労はない!」と反発したという。しかし、在庫の重みに押しつぶされそうになっていた彼にとって、この言葉は呪縛のように、そして確かな指針として胸に深く刻まれることになった。

    タバコ屋の店先でひらめいた「ユニットコントロール」

     当時のダンは大阪を中心に商いをしていたが、資金難ゆえに余分な在庫を持つ余裕はなかった。そこで営業マンが卸先を回り、在庫を確認しては売れた分だけを補充する「店頭第一」の管理を徹底。大阪の環状線を電車で一周しながら在庫を埋めていくという、泥臭い手法を続けていた。

     越智氏には「自分が一生懸命作った靴下が売れ残るのはかわいそうだ」という独特の愛着もあり、売り場の“歯抜け”を嫌い、即座の補充にこだわった。

     そんなある日、高知の婦人服専門店から取引の申し出が舞い込む。販路拡大は魅力だが、高知まで頻繁に在庫確認には行けない。一度は断った越智氏だが、店主の熱意に押され、「なんとかする方法を考える」と約束してしまう。

     そのアイデアは、意外な場所で生まれた。ふと立ち寄ったタバコ屋で、店主が売れたパンの種類と数を電話で卸先に報告している光景を目にしたのだ。

     「これだ!」

     越智氏はすぐさま、品番別の在庫数を週に一度、電話で報告してもらう仕組みを考案した。納品数から在庫を引けば、売れた数が正確にわかる。今でこそ当たり前に聞こえるが、当時としては画期的な「ユニットコントロールシステム」の誕生だった。この誠実な管理体制が信頼を呼び、高知を皮切りにダンの商圏は全国へと広がっていく。

    書店の「スリップ」が教えてくれた効率化の極意

     取扱店が170店を超えた頃、再び壁が立ちはだかる。商品数が増えすぎて、店頭の販売員が在庫を数える負担が限界に達したのだ。

     越智氏は再びヒントを求めて本屋へ向かった。そこで会計時、店主が本から「スリップ」と呼ばれる短冊状のカードを抜き取る動作に目を留める。それが書籍の情報と注文書を兼ねていると知った瞬間、靴下への応用がひらめいた。

     靴下に品番やカラーを記した管理カードを添付し、販売時に切り取って本社へ郵送してもらう。この「カード方式」の導入により、現場の負担を抑えつつ、正確な販売動向を把握することが可能になったのである。

    テレビ番組から着想を得た、驚きのIT戦略

     しかし、このカード方式も全国1,400店規模になると、物理的な処理能力を超えてしまう。社員が朝から晩までカードの整理に追われる姿を見て、越智氏が次に目をつけたのは、1980年代当時まだ珍しかった「コンピュータ」だった。

     驚くべきは、その着想源だ。歌謡番組で歌手の情報を引き出すのにコンピュータが使われているのを見て、「これを靴下の管理に使えないか」と考えたというから、その発想の柔軟さには脱帽する。

     1984年の直営店「靴下屋」の展開を機に、POSレジの導入を強烈に推進。本社、卸先、直営店、さらにはフランチャイズ加盟店や「国内の協力工場」までをネットワークで結び、販売状況をリアルタイムで共有する仕組みを作り上げた。これこそが、現在もタビオの根幹を支えるサプライチェーンの正体である。

    効率化の先にある「理念共同体」という絆

     タビオのシステムが単なる「絵に描いた餅」に終わらなかった理由は、ITの力だけではない。そこには「最高の靴下を作って、三方良しの商売をしよう」という創業の理念を共有する、人間同士の強いつながりがあった。

     タビオの協力工場のほとんどは国内にあり、越智氏と苦楽を共にしてきた職人たちだ。彼らとは近い距離で語り合い、利害を超えて手を取り合う「理念共同体」であったからこそ、市場の動きに合わせて工場が即座に動くという、血の通ったネットワークが実現したのだ。

     日常の些細な光景からヒントを得て、執念で形にしてきた在庫管理の仕組み。その裏側にあるのは、一足の靴下に込められた、作り手と売り手の矜持(きょうじ)に他ならない。

    #TABIO#Tabio#靴下#タビオ#SDGs#SDGs#靴下屋#ソック

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