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2026

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    「挫折こそ、最強の才能だ」――上田綺世と鹿島学園、日本の若き才能を支えた鈴木雅人監督「再生」のマネジメント

    「挫折こそ、最強の才能だ」――上田綺世と鹿島学園、日本の若き才能を支えた鈴木雅人監督「再生」のマネジメント

    第104回全国高校サッカー選手権大会、初優勝。鹿島学園が成し遂げたこの偉業は、単なる「一大会の勝利」ではない。 かつて挫折を味わった一人の少年――上田綺世を日本代表のエースへと押し上げた育成メソッドが、組織全体に浸透し、花開いた証明でもある。 なぜ鹿島学園は、「選ばれなかった子供たち」を最強の勝者へと変えることができるのか。その極意は、徹底した「敗者復活(リエントリー)」の環境設計にあった。

    「君は不要だ」——エリートコースからの脱落がすべての“逆襲”の始まりだった

    今でこそ、日本代表のゴールハンターとして世界を席巻する上田綺世。だが、そのキャリアの序章は、栄光とは程遠い「拒絶」から始まっている。

    中学時代、彼は鹿島アントラーズの下部組織「ノルテ」に所属していた。しかし、当時の彼は「持たざる者」だった。 身長は伸び悩み、フィジカルコンタクトで弾き飛ばされる。スピードもない。 下された判定は、残酷なほど淡々としていた。 「ユース昇格見送り」。 さらに、県外の強豪高校への進学も叶わなかった。

    エリート街道からの脱落。15歳の少年に突きつけられた現実は、あまりにも重い。 だが、この「挫折」こそが、彼のエンジンに火をつけた。

    「いつか鹿島に必要とされる選手になってやる。自分を落とした大人たちを、必ず見返してやる」

    彼は逃げるのではなく、茨城の新興勢力・鹿島学園の門を叩く道を選んだ。 もし彼が順風満帆なエリートだったら、今の泥臭くゴールをもぎ取るスタイルは生まれていなかったかもしれない。彼から夢を奪わなかったのは、才能ではなく、強烈な「反骨心」だった。

    指導者は「教えすぎて」はいけない。遅咲きの天才を覚醒させた“放置”の美学

    鹿島学園での寮生活。それは彼にとって、自分自身と深く向き合うための「孤独と再生の時間」だった。 周囲の雑音を遮断し、ただひたすらにサッカーに打ち込む。 すると、まるで内なる熱量に呼応するかのように、肉体が劇的な変化を見せ始める。

    身長は約10センチ伸び、華奢だった身体に鋼のような筋肉が纏いつく。50メートル5秒9という驚異的なスピードを手に入れ、空中戦では誰よりも高く舞う。「未完の大器」は、鹿島学園という自由な土壌で、誰の型にもハマらない「怪物」へと変貌を遂げた。

    鈴木雅人監督は、そんな彼をどう導いたのか。 それは 「あえて教えすぎない」こと だった。彼の野生的な感覚、ゴールへの飢えを矯正せず、解き放つことだけに注力したのだ。

    「勝利至上主義」が組織を殺す。なぜ“失敗”を許容しないチームは脆いのか?

    鈴木監督の育成哲学には、現代のビジネスリーダーにも通ずる深い洞察がある。それは、「結果だけで人を評価しない」 という覚悟だ。

    「勝つことは重要です。しかし、『勝つことだけ』を目的にした瞬間、人は思考を停止させます」

    失敗すれば怒鳴られ、ミスをすれば外される。 そんな「恐怖によるマネジメント」の下では、選手は失敗を恐れ、チャレンジしなくなる。 最も恐れるべきは、敗北そのものではない。 「失敗から何も学べなくなること」 だ。

    だからこそ、鹿島学園ではプロセスが問われる。 どれだけ準備をしたか。仲間とどう向き合ったか。 結果や数字というわかりやすい指標の奥にある、「日々の姿勢」にこそ人間の本質が宿ると信じているからだ。

    戦術よりも「対話(1on1)」を。選手の心の壁を取り除く“心理的安全性”

    鈴木監督が最も重視するスキル。それは戦術眼ではなく、 「観察と対話」 だ。突き放すだけの指導では、人は育たない。 選手は一人ひとり、異なるコンプレックスや不安を抱えている。それは時に、本人さえ言語化できない深い澱(おり)となって心に溜まる。

    だから監督は、徹底的に面談(1on1)を重ねる。 表情の陰り、言葉の裏にある微細な感情の変化を見逃さない。 「お前を信じている」「見てくれている人がいる」。 その心理的安全性こそが、選手がリスクを恐れずピッチで躍動するための命綱となる。

    「鍛え、信じ、育てる」

    上田綺世という成功例、そして第104回大会での全国制覇。 これらはすべて、「挫折」を「原動力」に変えるための、緻密な対話と環境づくりの結晶だ。

    サッカーが終わった後も、人生は続く。 自分で考え、転んでも立ち上がり、仲間と共に進む力。 鹿島学園が育てているのは、サッカー選手である以前に、社会という荒波を生き抜くための「タフな個」そのものなのかもしれない。

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