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AIに答えを委ねるな——次世代のリーダーに贈る「0から1を創る」気概と原理原則
日覺 昭廣 2026/06/26
これからの激動の時代を担う若い人材や、次世代のビジネスリーダーに向けて、私が今最も強く伝えたいメッセージがあります。それは、東レが創立以来一貫して掲げてきた「企業の盛衰は人が制し、人こそが企業の未来を拓く」という、人を基本とする経営の根幹に関わる重要なテーマです。
昨今、生成AIなどの急速な発達に伴い、「いずれ人間の仕事は必要なくなるのではないか」といった極端な議論さえ交わされるようになりました。確かに、膨大なデータの処理や業務の自動化など、徹底的な効率化という側面においてAIは目覚ましい成果を上げています。
しかし、忘れてはならないのは、既存のデータの枠組みを超えて「無から有」を生み出すこと、すなわち「0から1」を創り出すイノベーションは、人間にしか絶対にできないという厳然たる事実です。AIは過去の蓄積から最適解らしきものを選り抜いて提示することはできても、未知の可能性を切り拓く意志や大義を持つことはありません。世の中を変え、未来を切り拓く主役は、いつの時代であっても私たち人間なのです。
若い世代に期待したいのは、この「人間にしかできない仕事」にこそ、強い気概を持って取り組んでもらいたいということです。人生は一度しかありません。せっかくビジネスの世界に身を置くのであれば、周りに流されることなく、本当に自分のやりたいことを突き詰め、徹底的に勉強してその分野の第一人者を目指してほしいのです。
そのためには、すべての出発点として、自らの頭で「物事を深く理解する力」を養わなければなりません。AIが進歩した現代では、何でも検索すれば瞬時にそれらしい答えが返ってきます。しかし、最初から何も知らない人間がAIの出した結果をそのまま鵜呑みにし、それだけで「物事ができたような気持ち」になってしまうことは、非常に危険だと言わざるを得ません。
自分で苦労して考え、現状を把握し、分析するプロセスを完全にスキップしてしまえば、本人の思考力や能力は鍛えられるどころか、むしろ退化してしまいます。「コンピューターが出した結果だからこれが正しい」とそこで思考停止をさせて終わりにしてしまうのは、あまりにももったいないことです。
重要なのは、AIを効率化のために徹底的に活用しつつも、それと同時に「なぜこの答えになるのか」「本当にこの結果は現実と合致しているのか」に疑問を持ち、AIの思考回路やアルゴリズムの内容、その意味を自ら検証する姿勢を持つことです。これこそが、本人の真の能力を高める格好の訓練となります。長年の経験と知識の蓄積を持ったプロフェッショナルが、さらなる効率化のためにツールとしてAIを駆使するのは大いに結構です。しかし、若い世代が最初からツールに思考を委ねてしまっては、本質原因を見抜くための背骨が育ちません。
AIが提示した結果に対しても、必ず「原理原則」や「本質的な課題」に立ち戻り、自らの頭で考え抜くこと。そして、その検証結果を活かしながら、正しい方向に向けて突き進んでいく姿勢と強靭な意志が必要です。効率化の波に飲み込まれるのではなく、AIに負けないという断固たる気概を持ち、AIの出した回答すら自らの能力を練り上げるための糧にする。
そうした自律的な姿勢を繰り返すことの先にしか、次世代のリーダーとしての成長は存在しません。すべての人は、自分の中にまだ見ぬ大きな可能性を秘めています。東レの「人を基本とする経営」は、夢と理想に向かって自ら考え、行動する人材を育成することが、企業と社会の持続的な発展につながっていくという、創業以来の揺るぎない経営の考え方です。原理原則を外さず、基本に忠実にあるべき姿を目指して地道な努力を積み重ねていけば、皆さんの流した汗は必ず大きな成果として実を結ぶと、私は確信しています。


