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【独自レポ】問屋街から「感性を育む街」へ。エトワール海渡とコマンドAが挑むエリア構想「馬喰クラート」と「アートベース / 偶然はない。」
ビジョナリー編集部 2026/08/20
江戸時代からの歴史を持つ日本有数の問屋街、東京・日本橋馬喰町および東神田エリア。いま、この地に「卸×アート×地域」を掛け合わせた新たな都市循環を起こすビッグプロジェクトが始動した。
老舗問屋の株式会社エトワール海渡と、数々のオルタナティブスペースを手掛けてきた合同会社コマンドAが手を組み、まちづくりエリア構想「馬喰クラート」を発表。その最初の中核拠点となる「アートベース / 偶然はない。」のプレオープンに先立ち、2026年7月6日(月)にメディア向け記者会見が開催された。
登壇したのは、エトワール海渡 代表取締役社長の早川謹之助氏、コマンドA ディレクターの中村政人氏、同代表社員の小池一子氏、同デザインディレクターの佐藤直樹氏の4名。会見の詳報とともに、本プロジェクトが描く未来像をお届けする。
▲左から、コマンドAデザインディレクター佐藤直樹氏、エトワール海渡代表取締役社長の早川謹之助氏。続いて、コマンドA代表社員の小池一子氏、同社ディレクターの中村政人氏。
創業120余年の老舗問屋がなぜ「街」を開くのか?
会見の冒頭、エトワール海渡の早川謹之助社長より、エリア構想「馬喰クラート」に至る背景とビジョンが語られた。
街の地理的特性と急速な若返り
馬喰町・東神田エリアは、江戸通りなどの斜めに走る江戸時代の街割りと、近代の碁盤の目が交差し、独自の「路地巡りの楽しさ」を秘めた地域だ。早川社長は国勢調査のデータを提示し、エリアの急速な変化を客観的な数値で示した。
- 馬喰町・近隣5町の人口変化(2015年〜2020年国勢調査):
- 人口伸び率: 中央区平均 120% に対し、対象5町は131.8%
- 19歳以下: 中央区平均 134% に対し、対象5町は168%
- 20代〜30代(現役世代): 中央区平均 110% に対し、対象5町は 120%
かつての問屋街に現役世代や子育てファミリーが流入し、モノづくりの文脈に新しい暮らしの感覚が重なりつつあります。
「卸の力」と「身体性」を街へ解放する
1902(明治35)年に帯留めやかんざし等の貴金属小間物製造卸から創業したエトワール海渡。早川社長は、「我々は単にモノを流すのではなく、日常の気分が上がる価値を流通させてきた。いま都市の同質化が進む中で、店持ち卸として培った『価値を見出し、関係を結ぶ力』を商品提案にとどめず、街にひらいていきたい」と意気込みを語った。
さらにキーワードとして掲げたのが「職・住・探・創」だ。 「身体性を伴ったモノづくりの尊さや教育は、これからの時代に不可欠。働く、暮らす、探す、創るが歩いてつながる街にすることで、子供たちが『この街で育って良かった』と思えるシビックプライドを育みたい」と力説した。
中核拠点「アートベース / 偶然はない。」の全貌
続いて、コマンドAディレクターの中村政人氏より、7月7日にプレオープンを迎える中核施設「アートベース / 偶然はない。」の全貌が明かされた。7階建ての旧ビルをリノベーションし、アートのエコシステム(循環構造)を構築する拠点となる。
階層構成と施設の特徴
▲「アートベース / 偶然はない。」は旧ビルをリノベーションして構築された。
5階: 東京藝術大学「アート×ビジネス領域」ギャラリー
4階: コマーシャルギャラリー(若手や海外ギャラリーの参入を促進)
2階・3階: 24時間利用可能な共創アートスタジオ(企業スポンサーによる制作環境支援の仕組みを導入)
1階: カフェ&クラフトフーズ「マリシャック」、ワークショップスペース、ものづくり工房&デジタル「かえるラボ」、棚ギャラリー
地下: パフォーマンススタジオ、大型作品も保管できるレンタル倉庫
ネーミングの由来:「偶然はない。」
印象的な施設名について、中村氏は「宇宙の成り立ちから人間同士の出会いまで、一見すると偶然に見える出来事も、自分の望むベクトルや見えない因果関係の先にある。創造性を生み出す『スイッチ』が入る場所にしたいという思いを込めた」と説明した。
また、インパクトのある外壁の抽象壁画は、韓国を代表するグラフィックデザイナー/アーティストのアン・サンス氏によるコミッションワークで、日本ペイント株式会社の協賛により実現した。
プレオープン期間(7月7日(火)〜今秋)には、子供向けプログラム「3331夏のこども芸術学校」や、作品の購入価格を鑑賞者が提示できる「3331シークレットオークション展」などが開催される。
「馬喰クラート」名前に込められた思想とデザイン
本プロジェクトのクリエイティブを担う小池一子氏と佐藤直樹氏からは、名称とビジュアルイメージに関する深いストーリーが明かされた。
小池一子氏:文化の継承と「CURE(世話・気遣い)」の精神
1980年代にオルタナティブスペースの草分け「佐賀町エキジビットスペース」を立ち上げた小池氏は、自身の駆け出し時代、馬喰町の問屋街へファッションの素材探しに通いつめた思い出を振り返った。
小池一子氏:
「馬喰町という歴史ある街の名を残しつつ、時代へ何を提案するかという『キュレーション(Curation)』、そして語源である『CURE(世話・気遣い)』の精神。そこにエトワール海渡様が大切にされてきた『アート(Art)&クラフト(Craft)』の伝統を結びつけ、『馬喰クラート(Bakuro-Curart)』と命名しました」
佐藤直樹氏:都市の「原理」から問い直したシンボルデザイン
ビジュアルデザインを担当した佐藤直樹氏は、開発の苦心を次のように明かした。
佐藤直樹氏: 「グローバル化された均一なマーク(垂直・水平・正円の組み合わせ)の限界を感じていました。今回のシンボルはベクターデータではなく、一つ一つの『粒(点描)』の集合体として表現しています。水辺や木々、風、旗など、見る人によって多様な解釈ができる造形です。この街の複雑な路地やアイデンティティに寄り添い続けるためのチャレンジです」
質疑応答:新たな商流とコミュニティの誕生へ
会見終盤の質疑応答では、ビジネスメディアや美術専門誌から鋭い質問が飛んだ。
Q1. アートと学びの共存で、具体的にどんな「新しい商流」を見出すのか?
早川社長:
「当施設が位置する通りを『アートストリート』、江戸通りへ向かう垂直の通りを『コマース/リテールストリート』と位置づけている。単に卸にとどまらず、一般の生活者が回遊して買い物や体験を楽しめるようなリテール拠点を呼び込み、街歩きの動線を作っていきます」
Q2. ギャラリーフロアの入居基準やアートフェアの構想は?
中村氏:
「初期投資を抑えてスタートできるよう、4階には構造用合板を入れた強固なギャラリー壁を完備しています。新規参入の画廊や海外ギャラリー、大学等の利用を想定しており、秋口などを目指し、全館を使った『アートフェア』の開催も計画中です」
Q3. エトワール海渡とコマンドAの協働のきっかけは?
早川社長:
「2023年の『東京ビエンナーレ』で会場をお貸ししたご縁が始まりです。単なる一過性のイベントで終わらせず、アフタービエンナーレとして街に何を残せるかを議論し、専門家を交えたエリアマネジメント勉強会を経て本構想に至りました」
まとめ
単なる不動産再開発でも、一過性のアートイベントでもない。「馬喰クラート」の試みは、地域に長年根を張ってきた企業と、文化の現場を作り続けてきた表現者たちが、都市の歴史や人々の営みを丹念に読み解くことから始まっている。
街を歩き、自ら発見し、身体を使って創り出す——。「アートベース / 偶然はない。」を起点に広がっていくこの緩やかなネットワークが、東京の東側にどのような新しい文化と経済の循環を生み出すのか。今秋のグランドオープンに向けて、今後の動向から目が離せない。
施設概要
名称: アートベース / 偶然はない。(馬喰クラート 中核拠点)
所在地: 東京都千代田区東神田1丁目13-3
プレオープン: 2026年7月7日(火)(1階スペースのみ先行オープン)
グランドオープン: 2026年今秋予定(全館オープン)
1階カフェ「マリシャック」営業時間:
ランチ 11:00〜14:00
カフェタイム 14:00~17:00
ディナー 17:00〜22:00


