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2025

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    若きサンマルク社長が語る、経営理念浸透の重要性(後編)

    若きサンマルク社長が語る、経営理念浸透の重要性(後編)

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    サンマルクホールディングスの歴史は、1989年4月、「ベーカリーレストランサンマルク」1号店の開業に始まった。その後、1999年に「サンマルクカフェ」1号店を東京都中央区にオープン。看板メニュー「チョコクロ」の人気とともに、同ブランドは一気に全国展開を遂げた。その後「鎌倉パスタ」「神戸元町ドリア」「倉式珈琲店」といった業態を立ち上げ、昨年(2024年)には「牛カツ京都勝牛」や「牛かつもと村」などを相次いでM&Aによりグループ化。

    店舗数の急速な拡大と、業態の多様化で躍進する同社は、ビジネス界全体で注目の的となっている。そして、急成長するこのグループを率いるのが、2022年、34歳で社長に就任した藤川祐樹氏。大きく成長した組織を運営する上で、改めて「経営理念」の大切さを実感しているという藤川社長に、サンマルクホールディングス成長の秘訣と、今後の展望を伺った。

    お客様の事前期待を超えていく

    前回までのお話で、藤川社長が創業以来の経営理念を非常に大切にされているというお話を伺いました。改めてこの経営理念について、社長のお考えを伺えますか。

    私どもは経営理念「私たちはお客様にとって最高のひとときを創造します」を、創業以来掲げています。ただ従業員の皆さんからすると、この言葉はハードルが高いと感じられることが多いようです。そのため、最近は元の言葉をブレイクダウンして話すことが多く、その結果「お客様の事前期待を超えていく」という表現を使っています。様々な形のレストランでも喫茶店でも、一つひとつ丁寧にお客様の事前期待を把握し、それを大きく超えるのではなく、少し超えていくことが重要で、その「少しずつ」が集まった時に「最高のひととき」になると考えています。

    例えば、お客様がサンマルクカフェのことを知らずにお店にいらして、たまたまチョコクロを注文されて、それが思いのほか温かくておいしい! となれば、これは事前期待を超えたということになります。入店時の挨拶のトーンが良かった、内装がきれいだった、椅子の座り心地が良かったなど、一つひとつの要素で事前期待を超えていくことを皆が目指す――それが積み重なることで「最高のひとときを創造できる」と考えていますし、逆に一つひとつで期待を下回ってしまうと、お客様を失っていくことに繋がります。だからこそ、皆が一つひとつの要素で「お客様の事前期待を超えていく」ことが重要。こういった話をさせてもらっています。

    個性際立つブランド群も、一つの経営理念で貫く秘訣

    特に貴社の場合は業態も多彩で、ブランドごとのキャラクターもはっきりしているように思います。それぞれの強い個性を保ちながら、一方で全てに共通する部分として経営理念を浸透させていくということでしょうか。

    おっしゃるとおりです。一つひとつの要素で「事前期待を超えていく」、それが「最高のひとときの創造」につながるという考え方は、どの業態であっても共通することだと思います。直近ではM&Aで参画いただいた新しい業態のお店などもあり、いわゆる企業文化が異なる会社も入ってきましたが、彼らも含めて、皆でこの経営理念を実現していくということが、私どもにとっても大きな目標となっています。

    そもそもM&Aの対象となる企業様を選ぶ際、当然オーナー様とさまざまなお話をします。その中で経営理念を共有できそうか、我われの考え方に馴染みそうかといったことをとても重視しています。今回、M&Aでご一緒することになった「牛かつもと村」は、以前所属していたグループの理念が、私どもと通じるものがありましたし、「京都勝牛」も同様です。表現は違えども「東西南北でいえば、皆、北を向いているよね」というように、理念が同じ方角を向いているのであれば問題はないと思っています。

    一つの方向を向き、一つの目標を共有するために

    経営者としては、経営理念の重要性というものをどのようにお考えでしょうか。

    経営者にとっては、大事な判断のところで最終的にミスをしないためにも、経営理念が重要だと感じています。というのも、社員規模が50名の会社であれば、社長が全従業員を把握していますし、この社員が違う方向を向いているなということがわかると思います。ところが弊社はすでに、M&A業態も含めますと社員数1,000人を超え、アルバイトも含めた従業員数は23,000人にもなります。となると、私としては皆に任せざるを得ません。幹部も含めて社員みんなで走りながら、「こっちの方向に進んでいるよね」というある程度の方向性が合っていれば、それほど大きなミスにはつながらないと思っています。

    では、その認識がバラバラだとどうなるかと申しますと、目指す方向が分散すればするほど、ビジネスの進行速度が遅くなっていく状況が発生すると思います。だからこそ、皆が一つの目標を目指すことが重要です。私を含めて従業員全員が一つの目標を共有していれば、自然にその方向性に動いて、意思決定の速度も落ちることはないはずです。お客様にお店に来てもらうことが一番の目標ではありますが、軸が定まっていることによって、皆が安心して進んでいくことができるということではないかと思っています。この点に経営理念の重要性があると考えています。

    では、その経営理念を浸透させていくためにはどのようなことが必要だとお考えでしょうか。

    経営理念を浸透させるために必要なことは、やはり四六時中伝えていくことではないかと思っています。そもそも経営理念が大事だなと思い始めたきっかけは、京セラさんの稲盛ライブラリーを訪れた時の話ですが、「フィロソフィーを浸透させるためには、さまざまな話をする場面において、必ずフィロソフィーに繋げていく」ということを聞いたことです。前編において述べた、「結果は行動量に比例する」という考え方に近いかもしれませんが、従業員が経営理念に触れる回数を単純に増やしていくことが重要ではないかと思っております。また、私もどんな話をするにしても必ず経営理念について触れる構文になるようにしています。

    既存マーケットに付加価値を付けてスタートした、自分たちのマーケット創造

    先ほどからテーマになっているM&Aについて伺いたいと思います。昨年(2024年)末に、「牛かつもと村」と「牛カツ京都勝牛」を立て続けに子会社化されました。これまで貴社はカフェやパスタを中心として洋風のイメージが強く、牛カツのお店2社の買収というニュースには驚きました。

    まず究極的に言えば、私たちの経営理念「お客様にとって最高のひとときの創造」を実現できるのであれば、業態は飲食に限らないと考えています。たとえば、宿泊業でもいい。基本的にはそれくらい広いスコープを持っています。現実的には今、私たちが手掛けるのはやはり飲食業になりますが、それほど広い視野を持っているということがあります。

    そのうえで、私たちには培ってきた経営戦略というものがあります。それは「既に出来上がっているマーケットに参入して、そこに付加価値を付けて自分たちのマーケットを創る」ということです。「ベーカリーレストランサンマルク」のケースが特徴的なのですが、あの1号店がオープンしたのは1989年。当時は「すかいらーく」や「ロイヤルホスト」といったファミリーレストランが全盛期に近い状況でした。そのお客さんたちの中に、ファミレスに飽き足らない人たち、つまり多少高価でもいいから、もう少しおいしいものを食べたいという人も出てくるだろう、というところに目をつけたのです。そこでサンマルクではホテル並みのサービス、味、雰囲気を、ホテルよりも安く提供する。ホテルのコースが5,000円なら2,500円で提供することで、既存のファミレスからステップアップしたいお客さんのニーズをとらえ、そこで新しい自分たちのマーケットにしていく、という考え方ですね。

    今回の牛カツのジャンルも同様の考え方があります。広く見れば牛カツもとんかつと同じ「カツ」の業態ですよね。しかしカツというジャンルは有名なプレイヤーがひしめいていて、すでに飽和状態です。「和幸」「さぼてん」「まい泉」など、昔ながらのお店がたくさんあって、新陳代謝が起こっていない感じがします。そこに参入する上で牛カツというのは、一つの付加価値になるのではないか。そういった意味で魅力ある業態だと思っています。  そして、もう1点外せない点として、当社の中で欠けていたのがインバウンドのお客さんを集められる業態という点です。牛カツは、その欠けたピースを補ってくれるはずだと、かなり期待をしています。

    多店舗経営だからこそ掲げるビジョン、伝えるメッセージ

    経営理念と経営戦略、どちらもとても明確で、急成長の理由が理解できたように思います。藤川社長としては、理念に基づいてこれから会社をどのように成長させていきたいですか。そのビジョンを伺えればと思います。

    大きく言ってしまうと、日本を代表する外食企業になりたいと思っています。例えばゼンショーホールディングスさんは売上高1兆円を超えていますが、日本で売上1,000億円を超える上場会社というのは15社程度、そこに食い込んでいく必要があると考えています。単なる売上規模が大きいだけでなく、例えば日本人のお客さんに「外食チェーンで思い浮かぶ店を挙げてください」と言った時に名前が出てこなければ、日本を代表する外食企業とは言えません。名前が出てくるということは、お客様に選んでいただきやすくなっているということだと思います。この辺りは経営理念を実現できていれば自然と店舗数は増えていくと思っています。

    売上規模や店舗数が増えてくると、従業員の皆さんの採用という意味でも、外食産業で働きたいという人にサンマルクという名前を思い浮かべてもらえばやりやすくなると思います。そういった意味でも、業態単位でもいいので突き抜けていくことによって、日本を代表する会社にすることが目標です。

    いま伺った目標達成のためにも経営理念の浸透が重要なのですね。藤川社長はご自身自ら社員の方々へのメッセージを頻繁に発信されていると伺いました。

     現在は月に1回、グループ全体に向けてのメッセージを文章で発信しています。もっと回数を増やしていきたいと思っており、筆が進めば週に1回でもよいと思っています。文章だけでは馴染みにくいということもあるので、従業員向けの決算説明会も半期に1回、全国を回って直接伝える機会を設けています。それに加えて年に1回社員総会があり、全社員が一堂に会した場で伝えるようにしています。

    また、それとは別に幹部を対象にワークショップも実施していて、単なる文字列として経営理念を知っている、というのではなく、行動に移せるレベルで経営理念を理解する。経営理念を知っているということを超えて、経営理念を体現できる幹部が成長すれば、全ての従業員への浸透も早くなっていくと思います。

    ただ、特に最近実感しているのは、どれだけ経営者が発信しても、やっぱり経営者が一人でできることというのは、限られているという当たり前の事実です。経営者の多くは、「こうでありたい」というイメージを描くことは得意だけれども、じゃあ実際どうすればいいのか、というところで立ち止まってしまう。ですからやはり、経営者そのものよりも、それを支えるメンバーが大事なのではないかと感じています。一人ひとりが企業理念という一定の方向に向かって大きく成長していくことこそ、企業を飛躍させる原動力だと強く感じています。

    サンマルクホールディングス公式サイト

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