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「出る杭は打たれる」文化からの脱却。森永乳業・大貫社長が語る「質」への追求と、挑戦する「人財」を育む組織改革(前編)
ビジョナリー編集部 2025/11/18
森永乳業の大貫陽一代表取締役社長がコロナ禍の2021年6月という激動期に就任し、約4年半が経過した。原材料高騰や円安、緊迫する国際情勢という未曾有の危機の中、いかにして会社を導いてきたのか。大貫社長が目指す「規模」よりも「質」を重視した経営、そしてその土台となる「組織風土改革」への強い想い。「独自性がなければ生き残れない」と語る社長が、保守的な企業文化を変革し、「トライアル&エラー」を推奨するまでに至った背景、そして次世代に託す「先見性」と「グローバルな視点」とは。その経営観の真髄に迫る。
コロナ禍と国際情勢の激動。就任から4年半で実感した「独自性」の重要性
2021年6月に社長に就任され、約4年半が経過しました。コロナ禍や厳しい外部環境の中、どのような4年半であったと感じられていますか。
2021年はコロナ禍のまっただ中でした。先日、ロンドンの投資家と面談した際、「どうしてあんな先行き不透明な状況で社長を引き受けたのか」と問われるほどでした。
世界では戦争や緊迫した国際情勢が続いていましたから、その影響で、原材料価格は高騰し、円安も重なりました。その中で浮き沈みはあってもなんとか数字を作ってこられたということからも、お客様から価値を認めていただけるブランドや商品があるということは実感としてありました。
この経験を踏まえて、ますます強く思ったのが、「やはり特徴や独自性がなければ、生き残れない」ということです。それを再認識し、今回の中期経営計画につなげています。
社長に就任した当初、私自身は、本当は全然(社長に)向いていないと感じ、とても悩みましたが、「もう決まったからには、やるしかない」と覚悟を決めました。あとはいかに次の世代を育てるかということだと思っています。
「規模」より「質」へ。中期経営計画の土台に「組織風土改革」を据えた理由
本年度発表された中期経営計画では「成長戦略」「構造改革」「組織風土改革」の3つを柱にされています。特に組織風土改革を土台と位置づけられた意図をお聞かせください。
今回の中計を作るとき、まず日本の食品会社を「利益率」と「売上高」で整理してみましたが、森永乳業は「規模」でなく「質」を高めるべきだと判断しました。当社の強み・特徴は何かというところから、全方位戦略から強みを発揮できる注力すべきカテゴリーに絞り込みました。
そして組織風土改革も、AIなどいろいろなものが進化していますが、結局、最後は人の力だと思っています。成長戦略を作るにしても、構造改革をやるにしても、人間がやりますから、そこが一番大事だということです。挑戦するような「風土」、そういう「人」を作っていきたいという想いがありました。
そのためにはダイバーシティが大事です。当社も役員に女性や社外人材を登用し、若手の意見も積極的に取り入れています。ベテランの男性社員ばかりでやっていても難しい。今後も多様性を大切にしていきたいと思っています。
「出る杭は打たれる」からの挑戦。「トライアル&エラー賞」に込めた想い
組織風土改革を進める中で、具体的にどのような変化を感じられていますか。
実は、今年の大阪・関西万博への出展も、4年ほど前に若手社員たちから「やりたい」という声が上がったことがきっかけです。当時、そういうことが現場から上がってくることが少なかったので、とても驚きましたが、社員の想いを受けて「じゃあ、やろう」と決めました。
昔から当社は、どちらかというと「出る杭は打たれる」という保守的な社風が根強く、現場から新しい提案が上がってくることは稀でした。今では、積極的な、チャレンジを奨励しています。
特に私が好きなのは年に1回開催している「MORINAGA MILK AWARDS」という社内表彰制度の中にある「トライアル&エラー賞」です。うまくいかなくても、何度でも挑戦する社員や取り組みを表彰するもので、こうした取り組みによって、会社が少しずつ変わってきたかなと思います。
私が社内研修などで社員と話すとき、一方的に話すのではなく「どう思うか」と必ず尋ねるようにしています。以前は、指名しない限り誰も発言しない感じでしたが、今では以前より多くの手が挙がるようになりました。
若手社員との対話の機会も意図的に増やされたのでしょうか。
はい。若手社員との対話には非常に多くの気づきがあり、勉強になっています。当初は、「世代の違い」に不安がありましたが、話してみると、根っこの部分は自分が若かった頃とそんなに変わらないなと実感しました。27歳以下の社員を公募したのですが、応募者が多くて全員と話すことはできませんでしたが、社員同士互いに刺激し合っている側面もあって、非常に頼もしく思いました。
グローバル基準と「おいしさ」の追求。森永乳業らしさのDNAとは
成長戦略や構造改革を進める上で、改めて「森永乳業らしさ」をどのように進化させようとお考えですか。
食品会社として、人の口に入るものを作っているという覚悟を常に持っています。当社の品質管理はかなり厳しくしていますが、その品質管理を追求し過ぎてグローバルスタンダードとかけ離れていくと、競争力がなくなってしまいます。スピードは遅くなり、コストもかかります。
例えば昔、海外の取引先から「日本人はとてもうるさい」と言われたことがあります。日本国内で起こった品質に関するクレームについて伝えたところ、アメリカやヨーロッパから「食品なんだからこのくらいの品質の劣化は当たり前だ」という反応が返ってきました。でも日本市場の場合は「どうしてくれるんだ」という話になってしまう。日本市場の厳格さと、海外の価値観の違いを痛感しました。
当社は「かがやく“笑顔”のために」というスローガンを掲げているのですが、その前は「おいしいをデザインする」でした。今でもおいしさは非常に重要視していますし、「体に良いもので皆様のお役に立ちたい」という考えを持っています。しかし、「体に良いからおいしくない」ではなく、「体に良いという付加価値をつけつつ、さらにおいしい」というレベルを目指したい。そこを達成できてこそ、会社として本当に成長していると言えるのだと思います。
育児用ミルクの海外展開にも力を入れていらっしゃいますね。
はい。育児用ミルクは、当社の事業においても歴史が長く、海外においてはパキスタンやインドネシアで古くから事業を展開しております。
以前、出張先の飲食店で、料理を運んできてくれたインドネシア出身の方が森永乳業のロゴマークを見て「あ、そのマーク知っています!」と声をかけてくれたことがありました。森永乳業の企業ロゴがインドネシアでも浸透していることが実感できて嬉しかった記憶があります。
「おいしさ」へのこだわりと、「社会に貢献する」というこれまで引き継がれてきた精神が、当社のDNAを形作っているのだと考えています。


