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2025

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    安定市場にあえて挑むD2Cの新発想、Cycle.me「食物繊維がとれる水」開発の舞台裏

    安定市場にあえて挑むD2Cの新発想、Cycle.me「食物繊維がとれる水」開発の舞台裏

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    「“水分補給不足”が、日々のパフォーマンスや肌コンディションに影響を及ぼす可能性がある」

    そのように語るのは、D2Cブランド「Cycle.me(サイクルミー)」のブランドマネージャー、井手宏臣氏だ。「Cycle.me」というブランドに耳馴染みのない人も、『コンビニの店頭で見かける、洗練されたグレーのパッケージに包まれた食品やドリンク』と言われると、思い浮かべる人もいるかもしれない。 記事内画像

    Cycle.meは最近、小腹を満たすだけでなく栄養補給も可能なゼリー「グアー豆食物繊維がとれるゼリープラス」を発売し、注目を集めた。カロリーがわずか18kcal以下という設計がSNSでも話題を呼び、「罪悪感なく食べられる」と、美容・健康を意識する世代から好評を得ており、@cosmeの食品部門ではクチコミランキング入りも果たしている。

    そんなCycle.meが次に挑んだのは、あえて「安定市場」と言われる水系飲料のジャンルだ。2024年5月にリリースした「食物繊維がとれる水」の裏側には、市場の固定観念を突破する、新たな価値提案の挑戦があった。 記事内画像

    「夏だけではない」隠れたオフィスの水分不足に着目

    「進行する温暖化による熱中症対策が注目され、水分補給への意識が高まる中、ミネラルウォーターをはじめとする水市場/水系飲料市場は、安定成長を続けています(注1)。私たちもポテンシャルのある市場として着目しリサーチを進めてきましたが、実はオフィスワーカーは季節を問わず慢性的に水分が不足していることがわかり、そこを起点に深掘りすることにしました。」

    同社の独自インタビューなどを通じて、オフィスの空調環境や朝食抜きの忙しいライフスタイルにより、30~40代をはじめとする多くのオフィスワーカーは水分補給が不十分な実態がわかったという。環境省『熱中症環境保健マニュアル(2022)』(注2)によれば、私たちは1日に約1.2リットルを飲料から補う必要があるが、日本人の平均水分摂取量はこの基準にやや届いていないのが現状だ(注3)。

    「体の水分がわずか1〜2%不足するだけで、集中力(注4)や肌の調子に影響を与える可能性(注5)があるという報告もあります。なぜこれだけ水系飲料商品が溢れているのにペットボトル1本分の水分が微妙に足りない人が多いのか、という気づきが開発の出発点になったのです。」 記事内画像

    実は「D2Cと相性抜群」な水市場の可能性

    開発に先立ち、井手氏が特に着目したのは「水の選ばれ方」だった。 「購買データを分析すると、水は大手メーカーのブランドが選ばれやすい傾向があります。水の味わいには微細な違いがありますが、多くの人にとって“味や香りの違い”は比較が難しく、“安心・信頼のブランド”が選ばれやすい市場だと感じました。」と井手氏は語る。

    そんな市場環境と相性がよかったのがD2Cブランド、Cycle.meの特性だ。同ブランドは「とらなきゃに、しあわせを。」をパーパスに掲げ、創業4年目ながら既に全国の主要コンビニエンスストアに並ぶなど、パッケージ認知率も国内で40%を超える。D2Cブランドとしては異例ともいえる認知度と、コンビニエンスストアで展開することによる圧倒的な信頼感、さらに流行の発信地「@cosme TOKYO」などでも取り扱われる洗練されたブランドイメージを武器に、D2Cならではの新しい水分補給の価値を提案できると考えたという。

    確かに、“純粋さ”が基本価値とされる水市場は、採水地の違いで差別化されているケースが多く、一部フレーバー展開はあるものの、差別化競争はほかのカテゴリほど熾烈ではないかもしれない。一方で、温泉水やシリカ水など“栄養視点”の商品は盛り上がっていることから「変化や新機軸を求めている兆しはある」と感じたという。

    「食物繊維は、摂取したい栄養素として常に上位に挙がりますが、サプリメントだとコストや手間が気になって続かないという声が多かった。ならば“普段飲む水”で補えたらどうか──とお客様に問いかけたところ、タイパ・コスパの両面から非常に反応が良い感触を得られました。日常的に飲める価格で、水分補給ついでに不足しがちな栄養がとれる水に大きな可能性を感じました。」

    生活者ニーズとCycle.meの強みが絶妙な化学反応を起こし、新たな価値提供への道がここに開けたのである。

    “甘くない贅沢”が生み出す新しい飲料体験

    だが、いざ新しい水の開発となるとなかなか容易ではなかった。最大の課題は、明確にしづらい「水のおいしさ」とは何かという問いであった。

    「Cycle.meの製品づくりでは、“生活に自然になじむこと”という情緒価値と、“頑張らずに栄養が摂れること”という機能価値、そして“おいしさ”を重視しています。サプリメントではなく食品ですから、“おいしい”ことは続けるうえで非常に大事です。」

    試行錯誤の末に完成したのは、”ホテルの高級リフレッシュメントウォーター”をヒントにした、レモンとハーブがほのかに香る、上品だけれど甘くない味わいだった。グアー豆由来の水溶性食物繊維も配合し、1本で5gの摂取が可能となっている。 記事内画像

    グレーのパッケージも、店頭では個性を放ちながら、持ち帰るとオフィスや自宅に自然と馴染むように設計されている。Cycle.meは「水と食物繊維を心地よく摂る」という新しいライフスタイルの提案に挑んでいる。

    水と栄養素は「暮らしの下地」になる

    井手氏は次のように締めくくる。

    「水と食物繊維などの栄養素は、私たちの暮らしにおいて“下地”のような存在です。たとえば肌でいえば、水分が足りていなければ、どんなにいい化粧品も本来の力を発揮しきれない。だからこそ、“見えないベース”である水と栄養を、もっと自然に、もっと心地よく採り入れられる体験をつくっていきたい。それが、私たちが水市場に挑む理由です。」

    慣習にとらわれない挑戦と生活者のリアルなニーズを突いた視点――Cycle.meが仕掛ける新提案がどのように消費者に受け入れられていくのか、今後も注目していきたい。

     
    参考

    1. ミネラルウォーター類 国内生産、輸入の推移|一般社団法人日本ミネラルウォーター協会(2025)

    2. 環境省『熱中症環境保健マニュアル2022』pp.33-34

    3. 厚生労働省『日本人の食事摂取基準〈参考〉水』(2020)

    4. Ganio et al. (2011). /Armstrong et al. (2012). "Mild Dehydration Affects Mood in Healthy Young Women",

    ①Sawka MN et al. (2005). "Physiological consequences of dehydration: exercise performance and thermoregulation." Journal of the American College of Nutrition.

    ②Gonzalez-Alonso et al. (1998) “Muscle blood flow is reduced with dehydration during prolonged exercise in humans”


    ・Bouwstra JA et al. (2003). Advanced Drug Delivery Reviews
    ・Elias PM (2005). Journal of Investigative Dermatology
    ・Denda M. et al. (2000). Journal of Dermatological Science

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