「最初の3年は頭を横に置け」——JACリクルート...
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激動の時代を生き抜く次世代のリーダーへ贈る、決して変わることのないメッセージ
日覺 昭廣 2026/06/30
これまで全30回、私自身の生い立ちに始まり、これまで曲げずに貫いてきた考え方や、それらを東レの経験の中でどのように活かしてきたのか、といったことをお話ししてきました。振り返れば色々なことがありましたが、現場でのトラブルから未曾有の経済危機に至るまで、自らの信念と信頼の置ける仲間たちとの協力で乗り越えてきた経験は、何物にも代えがたい私の財産です。
本連載の締めくくりとして、これからの激動の時代を担う次世代のビジネスリーダー、そして未来を拓く若い世代の皆さんへ、私が最も大事にしてきたことをあらためて伝えたいと思います。
昨今、世間では「予測不能なVUCAの時代」という表現すら古いとされるようになり、新たな時代を表す言葉としてBANIという概念が提唱されるなど、現代は正に混迷を極めた時代であると言えます。そのような中で、進むべき方向や次に打つべき手に迷うこともあるでしょう。しかし、時代がどれほど目まぐるしく変わろうとも、ビジネスを成功させ、組織を率いるための根底にある「基本」は、いつの時代も変わりません。私が皆さんに示したいのは、一過性の出来事や流行の言葉に踊らされることなく、あくまでも「基本に忠実に、あるべき姿を目指し、やるべきことをやる」という姿勢です。
問題を解決し、理想と夢に向かって前進するための答えは、常に「現場」の中にあります。現場を見ようともせず机の上だけで考えて「こんな未来を作りたい」といくら語ったところで、現状を徹底的に分析し正確に把握していなければ、それを実現させるための正しい方向に進むことはできません。
世の中では、毎日さまざまなトラブルや予期せぬ出来事が起こります。しかし、発生したすべての事象には、必ず明確な「理由」や「原因」があります。常に現状の「把握」と「分析」を徹底し、その本質原因を突き詰めていくこと。原因さえ完全に究明できれば、次に私たちが解決のために何をすべきかという課題は、自ずと明確になるのです。
最も起こしやすい間違いは、本質原因をあいまいにしたまま、中途半端な知識で目先の対策を作って満足してしまう「対策先行」です。また、なまじっかな勉強をしてきた人にありがちなのが、学者の唱える説や教科書に書いてあるセオリーを鵜呑みにして、目の前の問題に勝手に理由付けをして納得してしまうこともあります。
例えば、新しいプラントを稼働させたり新規で機械を導入させたりした直後にトラブルが起きたとき、品質管理の教科書に載っている「バスタブカーブ(故障率曲線)」という言葉を持ち出し、「初期故障期ですよ、初期不良はよくあることです」と言って片付けてしまう人がいます。しかし、そんな一般論で納得してしまっては、いつまで経っても本質的な解決には至りません。実際に起きた事象をどこまでも細かく調べていけば、「新しい設計によって、ワイヤーの曲がる角度が今までと違っていたことから余計に負荷がかかっていた」など、設計上の原因が客観的に浮かび上がってくるのです。
「イノベーションのジレンマ」といった有名な学説も同様です。学者が過去の事象を整理して理論化する分には大いに結構ですが、現場で戦う我々が「これはイノベーションのジレンマだから、最初はうまくいかなくても仕方がない」と言い訳に使って諦めてしまっては意味がありません。直面した課題に対し、既存の技術でどこまで対抗できるかを徹底的に考え抜くこと。セオリーを言い訳にせず、目の前の現実にある問題と向き合うことこそが、真のリーダーには求められます。
この本質原因をあぶり出し、実践に落とし込むためのコツが、私自身が徹底してきた「実行計画書」の作成です。実行計画書を作らせると、多くの人は自分が「すでに分かっていること」を長々と書き連ねたがります。しかし、分かっている事実は1行書けば十分です。本当に書くべきなのは、「何が分かっていないのか」ということです。何が判明していないのかを明確にするからこそ、さらに本質原因に近づくための深掘りが可能になり、「では、それを解決するために、誰が、いつまでに、何をするのか」という、実行すべき具体的な計画がシンプルに見えてくるのです。
ビジネスの世界では、「自分のできること」だけをただ漫然と続けているだけでは、何も成し遂げることはできません。現状分析から導き出した「やるべきこと」を決めたならば、そこにどれほど困難な壁が立ちはだかろうとも、強い意志を持ってやり抜かなければなりません。たとえ最新のAIが答えを見つけてくれたとしても、それを盲信するのではなく、「AIがどのような思考回路でその結論を出したのか」を、自らの頭で検証することを怠らないでください。ツールに思考を委ねた瞬間から、リーダーとしての成長は止まってしまいます。
今の世界では、EUでは指令や規制を作って環境対応をリードしようとしていることや、米国が自国の標準を「グローバルスタンダード」として定着させようとしていることなどに、我々は気づくべきです。そして、社会の「あるべき姿」の実現に向けて取り組むべきこと、すなわち、持続可能な社会の実現に貢献するサステナビリティ経営を推進するためには、人を基本とする日本的経営を実践することが必要であり、サステナブルな環境を実現する日本の高い技術力が不可欠です。ルール作りを欧米に任せてそれに従うのではなく、日本人であることに自信を持ち、日本の良さを世界に広めるよう働きかけていきたいものです。
若い皆さんには、未来を切り拓くための十分な「体力」と「気力」が備わっています。だからこそ、安易に走らず徹底的に考え抜き、「基本に忠実にやるべきことをやる」という姿勢で取り組めば、皆さんの努力は必ず大きな成果として結びつくと、私は確信しています。
「答えはすべて現場に在る」ということ、そして常に「基本に忠実」であること。
この変わることない事実と信念を忘れず、これからの新しい時代へ向けて、自らが考えた夢と理想の実現のため、堂々と突き進んでいってください。皆さんのこれからの大いなる挑戦と躍進を、私は心から期待し、応援しています。


