
手づくり業界トップランナーの成り立ちに迫る——ジャパンクラフトHDの挑戦
ビジョナリー編集部 2025/04/09
ネットショップの普及やコロナ禍の巣ごもり需要を受け、近年急速に成長している『手づくり業界』。2022年の世界市場規模は約9160億米ドルとされ、2030年にかけ10.1%の成長が予想されている。昨年も、韓国アイドルグループに端を発した編み物ブームは、世代や性別を超えてちょっとしたトレンドになっている。
そんな手づくり業界の日本におけるトップランナーが、ジャパンクラフトホールディングス株式会社(以下「ジャパンクラフトHD」)だ。業界唯一の上場企業として、M&Aを通じて手づくり総合事業グループを築くに至った背景と、各企業の挑戦の歴史を紐解いていく。
藤久の革新——「手芸流通センタートーカイ」の誕生
ジャパンクラフトHDの子会社である藤久株式会社(以下、「藤久」)は、1970年代から 手芸用品専門店「すずらん」 を運営していたが、当時、糸や釦、毛糸などはそれぞれ異なる専門店で購入するのが一般的であった。
藤久は、複数の店舗を回り買い揃えている人達の姿を見るうち、手芸用品を一つの店舗でまとめて買いたいという潜在的ニーズがあることに気づき、1983年、手芸用品を一通り揃えた大型手芸用品店 「手芸流通センタートーカイ(現:クラフトハートトーカイ)」 の一号店をオープンさせた。
大型店舗ならではの豊富な品ぞろえと、多店舗展開によるバイイングパワーを活かした手頃な価格で、瞬く間に地域の一番店となり、店舗数は拡大していった。(全国215店舗:2025年3月31日時点)
日本ヴォーグ社の躍進——ブランドの確立
1954年に設立された株式会社日本ヴォーグ社(以下「日本ヴォーグ社」)は、編み物に特化した出版社として創業された。
同社は2025年4月現在、『毛糸だま』『キルトジャパン』『ステッチイデー』『ニットマルシェ』『ペイントクラフトデザインズ』…など年間100点もの書籍・ムック本を出版し、編み物文化の普及に取り組んでいる。
創業当時の1954年、編み物は生活の術として社会に広く浸透しており、編み物を学びたい若者が増加していた。そこで、日本ヴォーグ社は全国に3万軒あると言われる編み物教室をネットワーク化し、編み物を体系的に学ぶことのできる専門教育機関の設立に向け、動き出した。
そして1971年、全日制の プロ養成目的の養成学校『ヴォーグ編物指導者養成校』 を開校。これを前身として、1977年には 株式会社ヴォーグ学園(以下「ヴォーグ学園」) を設立した。
同社は編み物を学ぶ通信教育や対面教室を展開し、手づくり文化の発展に大きく貢献していく。教育業界からのアプローチによって認知を広げ、自社のブランドの地位を確固たるものへと築き上げた。
手づくり市場の変化——生活必需品から趣味商材へ
かつては、衣類の修繕や家庭用品の製作に不可欠であり、生活必需品であった手づくり用品。 しかし、衣料品の大量生産・低価格化が進んだことで、編み物、刺しゅう、パッチワークなどは、趣味や創作活動としての側面が強まり、自己表現やリラクゼーションの手段へと変化している。
これにより、消費者の購買動機も、実用性ではなく、『楽しむため』という需要が高まっているのである。
進化する手づくり業界——出版・教育・リアル店舗の融合
近年、100円ショップの市場参入もあり、手づくり市場はより一層成熟してきている。
こうした市場の変化に対応するため、先の3社を束ねた 手づくり特化型グループ として、 ジャパンクラフトHD は誕生した。
同社の新たな挑戦の1つが、 定期刊行誌「CRA-SEW(クラソウ)」 の創刊である。
手づくり愛好者は、本やWebを参考に制作する作品を考えることが多い。しかし、タイミングにより材料が完売することもあり、掲載されている商品を必ずしも入手できるとは限らない。また、本やWebで見た作品と実際の作品とに、色味や質感のギャップがあり、購入後に後悔するといった課題もあった。
そこで「CRA-SEW」は、掲載商品を店舗で一式購入できる仕組みを導入し、新たな購買体験を提供した。 掲載商品は、全国に200店舗以上展開するクラフトハートトーカイグループ店舗、オンラインショップ「シュゲール楽天店」、「シュゲールYahoo!ショッピング店」にて購入が可能となっている。
さらに、藤久は初級者、ヴォーグ学園は中級者以上への教育に強いため、藤久の顧客が初級から中・上級へ移行したい時には、ヴォーグ学園を案内することで、それぞれの顧客ニーズに応じて一貫したサービスを提供できることも、同社の強みである。
“外の風”を取り入れる——異業種との提携
ジャパンクラフトHDは、異業種のエッセンスも積極的に取り入れている。2021年には、株式会社エポック社との業務提携を締結。シルバニアファミリーの服を手づくりするワークショップや、オリジナル商品の共同開発を行い、顧客層へ相互にアプローチし合う関係を築いている。
ビジョン——手づくり業界の未来を切り拓く
今後、手づくり業界は「趣味市場」としての地位を高めていくと予想される。しかし、市場の成熟とともに競争も激化しており、各社は独自の強みを打ち出すことが求められる。
ジャパンクラフトHDは、グループ内外の力を結集し、店舗とEC、出版、教育事業を連携させ、従来にはない新たな価値を創造することに注力している。
『手づくり総合事業グループ』として、単なる「モノの販売」にとどまることなく、消費者に『体験』としての手づくりを楽しめる環境を提供し、ライフスタイルの提案までも視野に入れた業界変革を牽引していくことが予想される。
今後も市場動向を見据え、新たな価値を生み出すことが、重要な課題となるだろう。