「勝つだけでは、応援されない」――鹿島学園・鈴木...
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聖地・国立への序曲。「裏選手権」全勝優勝が鹿島学園にもたらした表舞台への進撃
ビジョナリー編集部 2026/01/12
第104回全国高校サッカー選手権大会。鹿島学園は初の決勝へと駒を進めた。だが、その鮮烈な栄光の輝きへの物語が、華やかなスタジアムではなく、凍てつくような冬の静岡から始まっていたことを知る者は少ない。
歓喜の1年前、2025年1月。場所は静岡・時之栖(ときのすみか)。全国への切符をあと一歩のところで逃した強豪たちが、泥にまみれてプライドをぶつけ合う場所――「ニューバランスカップ」、通称 「裏選手権」 。
鹿島学園はこの大会を制覇した。しかし、それは単なる敗者復活の慰めではない。この「裏」での全勝優勝こそが、後に聖地・国立を制圧するための 「勝者の魂(ウィニング・メンタリティ)」 をチームに植え付ける、決定的な分岐点だったのだ。
絶望の淵で見出した、唯一の生存戦略
2024年の冬、茨城県予選決勝。宿敵・明秀日立との死闘の末に突きつけられた敗北。国立への道が閉ざされた瞬間、チームはどん底に突き落とされた。普通の高校生なら、ここで心が折れてもおかしくない。
だが、指揮官・鈴木雅人は、その絶望を即座に「燃料」へと変えた。目指すべきは、目の前で行われている本大会ではない。静岡の地で、全国の強豪をなぎ倒し、「実力では俺たちが一番だ」と証明すること。 鈴木監督が掲げたテーマは、 「地道に、懸命に」 という、極めて泥臭い哲学だった。
華麗なパスワークや個人技ではない。 球際で負けない。走り負けない。セカンドボールを拾う。 「勝ちたいという欲求以上に、目の前の敵を倒す準備を徹底せよ」 その言葉通り、彼らは執拗なまでの「粘り」をチームカラーとして確立していく。
「100%では足りない」——限界突破の要求
この大会で、鈴木監督の選手への要求は非常に高いものだった。
「100%は当たり前。常に105%から110%を出せ」
強豪校相手に「そこそこ」のプレーは通用しない。限界を超えた強度でプレスをかけ続け、思考し続けること。「子どもたちの成長は計り知れない」と信じる指揮官の、容赦のない信頼。それに呼応するように、選手たちは試合ごとに覚醒していった。
決勝の東山(京都)戦。当時1年生・内海心太郎が奪った値千金の決勝点は、チーム全員が110%の力で繋いだ「執念の結晶」だった。 予選から決勝まで無敗。圧倒的な強度での完全優勝。この瞬間、選手たちの脳裏に刻まれたのは、根拠のない自信ではない。 「俺たちは、全国の強豪に勝ち切れる」 という、強烈な実感を伴う確信だった。
そして、物語は「表舞台」へ
裏選手権を制した直後、選手たちの口から出たのは、安堵の言葉ではなかった。
「インターハイ、プリンスリーグ、選手権。すべてを獲る」
彼らの視線はすでに、1年後の国立を見据えていた。
選手権に出られない悔しさを、そのまま成長へのエネルギーに変換する。 言うは易いが、それを成し遂げるには強靭なメンタリティが必要だ。 時之栖の寒空の下で培った「粘り」と「110%の強度」。それがなければ、翌年の国立競技場での、あのアディショナルタイムの劇的ゴールは生まれていなかっただろう。
裏選手権での全勝優勝は、決して「裏」の物語ではない。それは、鹿島学園が「真の王者」へと進化を遂げるために通過しなければならなかった、必然のプロローグだったのだ。


