Diamond Visionary logo

9/27(日)

2026年

SHARE

    ヘミングウェイ・カップ銀メダルの真実 ——カストロ議長との出会いとキューバ外交

    ヘミングウェイ・カップ銀メダルの真実 ——カストロ議長との出会いとキューバ外交

     「マグロ大王」や「実業家」としての顔だけでなく、私には自ら大海原へ出て巨大魚と対峙してきた「釣り師」としての側面もあります。

     2000年代初頭、アメリカ・フロリダ沖やバハマ沖で大物の本マグロが獲れると耳にした私は、すぐさま現地へ飛び、自ら竿を握って375キロという巨大な本マグロを釣り上げました。その壮絶な格闘の模様がテレビ番組で放送されたのですが、後日、一部の視聴者から「あんな巨大なマグロを本当に自分で釣れるわけがない。やらせではないか」という心ない投書がテレビ局に届きました。

     このことが、一度決めたら妥協を許さない私の負けず嫌いな性格に火をつけました。「言葉で弁明するくらいなら、歴史ある国際大会で結果を出して、実力でやらせではないことを証明しよう」——。テレビ局からの提案を受け、私は迷わず海を渡る決意を固めました。

     挑んだのは、2003年6月にキューバで開催された「第53回ヘミングウェイ・カップ」です。1950年に文豪アーネスト・ヘミングウェイが創始した伝統と権威を誇るカジキマグロの国際トローリング大会であり、それまで日本人選手がカジキを釣り上げた実績は一度もありませんでした。

     現地に到着して驚かされたのは、マイアミやモナコなど、世界中から集結した富豪や釣りのプロたちの豪華な最新鋭トローリング船の数々です。70艇以上が並ぶ中、私たちがチャーターできたのは現地の古びた一隻の漁船だけでした。性能差により、狙いのポイントに到着するだけでも出遅れてしまう厳しい条件下でのスタートとなったのです。

     さらに、現地独特のルールをめぐる誤解もありました。開催前のパーティで「ドルフィンフィッシュは1点」と説明された際、英語の名称をイルカのことだと勘違いした私は「イルカなど釣れるはずがない」と思い込んでいました。しかし、現地で「ドルフィンフィッシュ」とはシイラ(マヒマヒ)のことであり、ルール上はキャッチ&リリース(釣ったらすぐに海へ戻す)が義務付けられていたのです。そうとは知らず、かかったシイラを船上に引き揚げてしまったことで、貴重な1点を反則で失う痛恨のミスを犯してしまいました。

     しかし、本マグロの一本釣りで培ってきた私の仕掛けと手さばきがここで活きました。用意されていた釣り糸はわずか50ポンドのため、30キロ程度の引きにしか耐えられない細いものでした。そこへかかったのは、なんと130キロを超える巨大なカジキマグロ。力任せに引けば、一瞬で糸が切れてしまいます。魚の引きに合わせてリールを慎重に緩め、相手が疲れた隙に一気に巻き上げる――。

     2、3時間にわたる死闘の末、130キロ級のカジキマグロを3匹釣ったのですが、テレビ番組用に船に上げてしまい、これもノーカウント。結果、銀メダルとなりました。もしあのシイラとこれがなければ、確実に金メダルでしたから、悔しさは残りましたが、「すしざんまい」の実力を世界に見届けてもらえたことは、とても喜ばしいことでした。

     そして、この大会後に思わぬ「縁」が生まれます。

     大会終了後、首都ハバナの政府施設で開催された記念パーティの場で、私は大勢の要人を前に得意の本マグロ解体ショーを披露しました。実はその会場に、暗殺の危険を避けるために密かに変装したキューバの最高指導者、フィデル・カストロ議長が参列されていたのです。後日、カストロ議長とお会いした際、「あの時、会場で君の素晴らしい解体ショーを見ていたよ」と笑顔で明かされ、深い感銘を受けました。

     この時のご縁をきっかけに、カストロ議長の息子でありキューバ野球連盟副会長を務めるアントニオ・カストロ氏との深い親交が始まりました。彼は、来日するたびに「すしざんまい」へ足を運んでくれ、日本で行われた彼の結婚式にも招待してもらえるほど、強い絆が育まれたのです。そしてこの民間外交の広がりによって、本マグロだけでなく、現地で豊富に獲れる極上のロブスターを日本へ直輸入する新たなビジネスルートが確立されました。

     真剣勝負から生まれた信頼は、国境や政治の壁をやすやすと越えていきます。自らの腕一本で挑んだ挑戦が、また一つ、世界と日本を結ぶ豊かな実りをもたらしてくれたのです。

    #木村清#すしざんまい#マグロ大王#マグロ#ヘミングウェイカップ#キューバ#フィデルカストロ#民間外交#海外ビジネス#挑戦

    あわせて読みたい

    記事サムネイル

    「道徳銀行」が描く地域の未来。埼玉りそな銀行・篠...

    記事サムネイル

    「どうやってお客様を喜ばせ、驚かせようか」——伊...

    記事サムネイル

    「ご飯がススムキムチ」はどのようにして生まれた?...

    記事サムネイル

    医学と密教から導き出した「大欲得清浄」の経営哲学...

    記事サムネイル

    「現状維持は後退である」——渡辺パイプ渡辺圭祐社...

    Diamond AI trial

    ピックアップ

    Diamond AI
    Diamond AI