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2026

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    「本当にできるの?」現場の疑念をデータで粉砕。営業が自ら“研究”に踏み込む、中西製作所「6次営業」の突破力

    「本当にできるの?」現場の疑念をデータで粉砕。営業が自ら“研究”に踏み込む、中西製作所「6次営業」の突破力

    この記事で紹介された企業

    鮮度保持の常識を覆す。「本当に菌は減るのか?」という現場の疑念にデータで挑む、中西製作所・6次営業の流儀

     多くの方が日常的に口にする野菜や果物。しかし、その鮮度を当たり前に保ち続けることがどれほど困難なことか、一般には意外と知られていない。

     収穫の時期は限られている一方で、消費者の需要は一年中続く。このギャップを埋めるのが保管という工程だが、そこには常にカビや腐敗、そして「廃棄」という課題がつきまとう。

     「ロスを減らせないか」「年間を通じて販売できる状態をつくれないか」――。そんな切実な課題に対し、業務用厨房機器メーカーの中西製作所が、独自の切り口で解決の糸口を見出そうとしている。キーワードとなるのは、野菜の「衛生処理」と、その根拠となる「菌数低減」の実証だ。

    6次営業は、社内の「チャレンジ投資」から生まれた

     中西製作所が食品加工・6次産業への本格的な取り組みを始めたのは、7年前のことだという。それまで同社がリーチできていなかった新しい市場や顧客層を開拓するプロジェクトとして始動した。社内で新規事業を認定し投資を行う「チャレンジ投資」案件として認められたこの試みは、現在では総勢13名が名を連ねる一大プロジェクトへと成長している。

     「食品加工・6次営業プロジェクト」と銘打たれたこのチームは、同社が長年、学校給食や病院給食の現場で培ってきた衛生ノウハウや技術を土台に、自社製品を新たな市場へ広げるための部門横断的な組織だ。ターゲットは農作物や水産・畜産物の加工場から、道の駅、観光販売所、カット野菜工場、惣菜工場まで、多岐にわたる。

     この新市場において、同社がまず着目したのが、自社製品である「過熱水蒸気オーブン」だった。業界トップクラスの実績を誇る一方で、さらなる付加価値を模索していた同社は、産学連携先である北海道の酪農学園大学との共同研究の中で、過熱水蒸気による処理が野菜の菌数低減に寄与する可能性をつかむ。

     「ならば、野菜の衛生処理に特化した専用機を作ろう」。この発想が、野菜殺菌装置開発の原動力となったという。

    学校・病院の営業から、6次営業へ。髙木浩太氏が担う市場を拓く仕事

    記事内画像 ▲中四国支店 営業課長 髙木浩太氏

     今回取材したのは、この6次営業を牽引する一人、髙木浩太氏だ。髙木氏はもともと、学校や病院を対象とした営業として現場を走り回っていた人物である。そこから一転、未知の領域である野菜殺菌装置の販売を担うことになった。

     しかし、扱うプロダクトが変われば、営業の難易度も一変する。厨房機器であれば導入後の厨房の動きはイメージしやすいが、目に見えない「衛生処理」の価値は伝わりにくい。商談の場で必ずと言っていいほど投げかけられる問いがあった。

     「本当に(菌数が)下がるの?」

     髙木氏はこの問いに対し、単なる営業トークでは通用しないと痛感したという。「営業の現場で一番聞かれるのは、ここなんです。『本当にできるの?』って。だから、言葉じゃなくて、根拠で返せる状態にしないと前に進まない」。そう髙木氏は振り返る。

    営業が「研究」に踏み込む理由

     髙木氏の動きで特徴的なのは、営業の枠を越え、研究や検証のプロセスに深く踏み込んでいる点だ。過去には群馬工場の研究開発チームと共に、もやしを対象とした衛生処理の検証を実施。さらに大阪本社のテストキッチンでも検証を重ね、現場の疑問にデータで即答できる体制を構築している。

     「『できるはず』ではなく、『この条件ならこうなる』と言い切れなければお客様は動けない。結局そこが信頼に繋がるんです」。営業担当が自ら検証に関わることで、顧客の信頼を勝ち取っていくという。

    広島のレモンが、価値を厨房の外へ連れていった

     中四国エリアを担当する髙木氏が、象徴的な事例として挙げるのが、広島のレモンをはじめとする柑橘類の現場だ。柑橘類は収穫時期が限られているため、生産者は通年での販売を希望している。しかし、保管中にカビが発生し、泣く泣く廃棄せざるを得ないケースが後を絶たない。

     現状、お湯による処理やフィルム包装、冷蔵保管といった対策が採られているが、現場の負荷は高く、ロスを完全に防ぐことは難しい。もしここで、専用機による高度な衛生処理が実現すれば、ロスが激減し、通年販売が可能になる。それは生産者の収益向上だけでなく、地域の持続可能性にも寄与するはずだ。

     髙木氏はこれを「まさにSDGsだ」と表現する。食品ロス削減という観点から、衛生処理技術を厨房内にとどめず、生産・流通・販売というサプライチェーン全体の課題解決に繋げようとしているのだ。

    検証は食材別に進む。鍵は「菌数」と「品質」の両立

     現在、同社ではあらゆる食材での検証を加速させている。その一部を紹介しよう。※数値は一般生菌数。ブランク(未処理)との比較。 ※食材の特性に合わせた複数パターンで検証。

    • かぶ
       ・すべての条件で一般生菌数が 100分の1〜1000分の1に低減。
       ・明確な低減傾向が見られ、加熱による可食部(身の部分)の変化もほぼ見受けられない。
    • とうもろこし
       ・ブランク:5.5×10⁵
       ・すべての条件で <300 に低減。
       ・外皮が厚いため、加熱による品質への影響もほとんどない。

    •  ・すべての条件で <300 に低減。
       ・食材が固く丈夫なため、加熱による影響を抑えつつ殺菌が可能。
    • オレンジ
       ・ブランク:5.5×10⁵
       ・すべての条件で <300 に低減。
       ・外皮の厚さにより、内部品質を保ったままの処理が可能。
    • そらまめ
       ・ブランク:2.9×10⁴
       ・すべての条件で <300 に低減。
       ・加熱による影響はほぼ見られない。

    次のテーマは「見える化」

     髙木氏が次に見据えているのは、菌数という数値だけでなく、視覚的な「見える化」だという。菌数検査で良好な結果が出た食材を使い、「衛生処理をしたサンプル」と「未処理のサンプル」を同じ条件で保存し、カビの発生や腐敗の進行にどれだけの差が出るかを比較検証していく。さらに、野菜の「種」への研究にも広げ、装置の効果を多角的に実証する方針だ。

    6次営業とは、「現場の疑問」を「市場の価値」に変える仕事

     この取り組みの本質は、単に「新しい装置を売る」ことではない。営業が現場の切実な疑問を拾い上げ、それを検証の場へ持ち帰り、確かなデータへと変換して現場へ戻す。この循環を生み出すこと自体に価値がある。

     「本当にできるの?」という問いは、不信感ではなく、導入を決断するための切実な確認である。その問いに、勘や経験ではなく「根拠」で答える。そして、食品ロスという大きな社会課題に対し、現場から一つずつ答えを積み上げていく。中西製作所の6次営業、そして髙木氏の挑戦は、まさにその最前線にある。

    副次的な価値としての「共創」

     このプロジェクトは、装置単体で完結するものではない。食材特性の評価、保存条件の設計、さらには包装や物流まで含め、現場で再現可能な形に落とし込む必要がある。中西製作所では、こうした検証や実装をさらに加速させるため、外部のパートナー企業との連携も視野に入れているという。

     中西製作所の 「いただきます」の未来をつくる。 という挑戦は、6次産業という新たなフィールドにおいて、着実にその結実を迎えようとしている。

    #中西製作所#6次産業化#食品ロス#SDGs#営業戦略#産学連携#ビジネスモデル

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