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2025

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    ベストセラー作家から外資系コンサルタントへ

    ベストセラー作家から外資系コンサルタントへ

    一橋大学に入学してすぐ、その年に東京オリンピックが開催されました。私はすぐに観光通訳のガイド試験を受け、難なく合格することができました。外国人ゲストのための通訳としてJTBや藤田観光といった旅行会社と契約し、通訳が必要な際に仕事が来るという恵まれた環境でした。仕事のギャラも非常に良く、学生としては破格の収入を得ていました。

    一方で、もう一つ、私の運命を大きく変える出来事がありました。高校時代のAFS留学の経験をまとめた文章を団体の会報に寄稿していたのですが、それをたまたま学習研究社の編集の方が読んでくださったのです。そして、すぐに私に電話がかかってきました。「君の書いたものは面白いから、一冊の本にしてみないか?」と。私は大学1年の夏休みを使って原稿を書き上げ、翌年の春に出版したところ、なんとその本がベストセラーになったのです。新宿の紀伊國屋書店などでランキングのトップ5に入るほどでした。

    またこれは後になって知ったのですが、この本がきっかけで、一人の著名な方の将来を決めてしまったということがありました。それが、幻冬舎の現社長である見城徹(けんじょう とおる)さんです。当時、彼がまだ高校1年生の頃に私の本を読み、大変感激してくれたそうで、これを機に「国際的な勉強をしたい」「将来、編集者になりたい」と決意したというのです。後日、お目にかかる機会があった際に、「植山さんの『サンドイッチ・ハイスクール』を読んで、編集者になることを決めました」と打ち明けられ、さらに「今日お目にかかれた記念に、一冊本を書いてください」と頼まれました。

    彼はその当時、角川書店の編集長を務めていました。私はそのオファーに応じ、自身の経験に基づいた小説、『パストラル』を執筆しました。この小説の核となったのは、私がソニーを辞めた後、アメリカの世界的な広告代理店・BBDOとコンサルタント契約を結んだ時の実話です。私のミッションは、日本の主要な広告代理店とBBDOとの業務・資本提携をアレンジすることでした。

    その交渉相手として選んだのが、後のADKとなる、当時の株式会社旭通信社の社長、稲垣正夫さんでした。私はBBDOの代表として、彼に直談判に行きました。「外資の世界最大のBBDOと資本・業務提携し、お互いのクライアントを交換しませんか」と。しかし、彼は「国粋主義者」に近いほど右寄りな考え方で、「私は黒船に乗ったペリー提督に、うちの家宝を渡すつもりは全くありません」と、交渉は非常に困難を極めました。

    彼を口説き落とすのに、実に1年もの歳月を費やしました。そして最終的に、旭通信社の株10%を10億円でBBDOに売却するという条件で、提携に漕ぎ着けました。

    当時の為替は1ドル100円程度で計算しやすかったのですが、会計ルールには「持分法」というものがあります。これは、ある会社の株を20%以上所有していれば、その会社の売上や利益を自分の会社の利益に合算できるというものです。通常、10%ではこの持分法は適用されず、単なる投資で終わってしまいます。

    そこで私は知恵を絞りました。「20%の株を買わせてください」という提案は拒否されたため、代わりに「役員を交換しましょう」と提案しました。稲垣社長にはBBDOの役員になってもらい、BBDOの国際部門の社長には旭通信社の役員になってもらう。さらに、私自身がBBDOの代表として毎日、旭通信社の事務所に通い、実際に業務提携の仕事に深く関わる。そこまでどっぷり関わるのだから、10%でも特別に持分法を認めてほしい、と主張したのです。説得の相手は、大手会計事務所のアーサー・アンダーセンでした。この説得がついに成功し、10%の出資でも持分法を適用させることができたのです。

    その2、3年後、旭通信社が株を上場すると、株価はなんと4倍に高騰しました。BBDOは10億円で買った株が40億円になったわけです。すると、「わずか2、3年で30億円も儲かったのだから、提携を解消して全株を売却しよう」とBBDOは決定しました。旭通信社の稲垣社長は「アメリカ人ってドライですねえ」と語っていましたが、結局、提携関係は解消となりました。

    この時の交渉のストーリーが、私が執筆した小説『パストラル』のベースとなっています。小説では、主人公である私のような人間が、妻と子供がいながらニューヨークへの出張中に、JALのファーストクラスでハーフの絶世の美女と隣り合わせになるという設定を加えました。彼女はアメリカの自動車会社の日本法人の社長秘書兼役員で、交渉のためにデトロイトへ向かう。東京からサンフランシスコまでの機内で知り合った二人は、彼女を素晴らしいホテルに案内するところから恋人関係になっていく、というロマンチックな展開が同時進行する、格好いいストーリーに仕立てたのです。

    #植山周一郎#ソニー#経営コンサルタント#コンサル#交渉人#代理人#ブランディング#マーケティング

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