
「『正気の沙汰ではない』と言われた」赤字下の拠点...
8/21(木)
2025年
SHARE
ビジョナリー編集部 2025/08/18
2022年に創業されたTerra Charge(テラチャージ)株式会社は、「日本発のベンチャー企業が世界で通用することをもう一度証明したい」という徳重徹代表取締役社長の強い想いからスタートしたEV充電インフラ事業の会社だ。電動二輪車事業のTerra Motors(テラモーターズ)株式会社でも、国内のみならずインドで年間販売台数30,000台以上を記録するなど、大きな成果を挙げた徳重社長は、大胆かつ刺激的な発言の数々で、現代日本のビジネス社会に喝を入れ続ける。 徳重社長の創業時のエピソードなどをお聞きしたインタビュー前編に続き後編では、世界市場で闘う上で心がけていることについて、またTerra Drone(テラドローン)株式会社でのドローン事業への取り組み、そして今後の野望についても伺った。
これは、海外に限らずなのですが、スタートアップで一番大事なのはPMF(プロダクト・マーケット・フィット)です。つまり、お客さんがその商品を本当に喜んで、お金を払う価値があると認めてくれること。PMFがないと口コミも広まらないし、メディアにも拡散してもらえない。PMFが大事なのは日本も海外も同じなのですが、海外で何が難しいのかというと、日本人が良い商品と思う感覚と、現地の感覚がだいぶ違うということです。この違いをちゃんと理解することが必要で、もし分からなければ、そこを理解しているローカルの人を採用することが重要になります。PMFと、それをしっかりと推進、実行できる人材の採用。つまりその国にミートしたプロダクトを作りきれるかどうかが大事なことなんです。
今、日本国内で物を売ろうとすると、日本の文化に根付いたしっかりとした物作りが必要で、そうするとどんどん日本品質、日本基準を求められることになる。ところが残念ながら、世界で求められる基準と日本の基準がかなり違ってきているという現実があります。今の時代はその点が特に難しく、日本人にとってはディスアドバンテージになっています。例えば欧米で求められるプロダクトと、中国で求められるものでは全く違います。価格を考える際にも、東南アジアとインドでは、インドの方が断然プリミティブなので価格を落とさないといけない。そういった感覚を理解した上で商品作りをできるかどうかが大事になりますが、僕の場合はこれまでの様々な国での事業経験がありますし、いろいろな意見をくれる現地のメンバーもいます。その点が僕たちの強みです。リーダーシップと実行力をもって事業を進められるローカル人材の採用は、非常に重要になってきていると感じています。
現地での採用も基本的には国内と同様で、我われの目指しているものを理解してくれるかということ、その上でチャレンジ精神やリスクを恐れず大きなことをやるということに対する気持ちの部分などが大事だと思っています。その点は新興国の人にしても中国でもシリコンバレーでも条件は同じでしょう。
ドローン事業は、まだ黎明期のビジネスですが、今後重要なインフラ産業になっていくことは間違いありません。先ほどの話に関連して言えば、ドローンは圧倒的にPMFが高い、顧客価値が高い事業だと思っています。農薬散布でも測量でも災害復旧でも、ドローンが役立つ場面はものすごく多い。そして、今後さらに大きくなっていくであろうこの事業で、僕らはトップの位置にいます。ドローン事業にはハード、ソフト、そしてUTM(運航管理システム)があって、僕たちはソフトとUTMで、世界のトップにランキングされています。特にUTMはプラットフォームの事業になるので、各国政府機関などに入っていって一つのシステムとしてコントロールされるわけですが、現在世界で導入国数が最も多いのが僕たちです。
ドローン事業は新しいインフラ事業になると言いましたが、運航管理システムというのはいわば空のインフラの要です。今後、ドローンや空飛ぶクルマは、どんどん開発されていくでしょう。その時、それぞれが勝手に飛んでしまっては危険なので、「空の道」が必要です。そのシステムを僕たちが作っているわけです。
先ほども言ったようにドローンビジネスは黎明期ですが、今後ものすごい勢いでマーケットが拡大する時期が来るはずです。大事なのはその時にトップ集団にいること。その産業のトップにいれば流れがわかるので、一気にアクセルを踏むことができる。僕はEVチャージ事業でトップになった時にそれを感じたんです。そういう意味では、これまで僕自身が経験してきたこと、新規事業を山のように立ち上げてきた経験が活かされているともいえます。
まず前提として、僕たちは「新しい事業を作る」「新産業で世界を変えていく」ことが価値のあることだと考えていて、その価値観に共感してもらえることが第一。良い悪いではなく、入口としてその共感がない人は、同じバスに乗るべきではないと思っています。その上でしっかりとしたマインドがあって実績があれば、若くても海外にどんどん出しています。失敗してもいい。むしろ難しいことに挑戦して失敗したのなら、それはウエルカム――。そうした価値観の上で仕事をしてもらえるという安心感はあるのではないかと思っています。
僕の考え方や経験を社員の方々にどのように伝えているかというと、例えば月に1回、決起大会ではないですが(笑)、僕が皆さんに話す機会を設けています。最近のトピックとして、例えばある社員の人のこういう動きがあって、こういうことが素晴らしかったとか、僕自身が経験したこととかテーマはいろいろです。
たまたま先日は、僕が日本を代表するエネルギー企業の元会長との食事会に招かれた際の話をしました。大変に示唆に富んだ言葉をたくさんいただいたのですが、特に印象に残ったものとして「長く発展し続けていく会社とそうではない会社では何が違うか、それは理念がしっかりしているかどうかの違いだ」という話がありました。これは僕がみんなに常日頃言っていることと重なるので、改めて自分たちの話題に引きつけて、Terraの場合もそうだよね、理念はやっぱり大事だよね、という話をしたり、現場主義が大事という言葉もあった、これも同じだよね、という話をしたりしました。
やはり若い人たちは考え方がフラフラとしている場合が多いので、僕のこうした話や、昔の日本の素晴らしいビジネスマンたちのストーリーなどを聞いて“腹落ち”してもらうことが重要です。前にもお話ししたように、僕はソニーの創業者の一人である盛田昭夫さんを尊敬していますが、彼らがアメリカやヨーロッパに挑んでいった時の大変な苦労の話や経験なども、よく社員たちに話しています。若い人たちは、かつてすごい日本人がたくさんいたこともよく知らない。歴史が分断されている気がします。ですから僕が先人たちの言葉や経験を伝えて、彼らの存在を継承していきたいという気持ちがあります。
今のお話の関連でいえば、やはり人材を育てることをやっていきたい。Terra Droneでは、以前に海外の大変な規模のM&Aを、大手商社からうちに来た30代の若手と僕の2人で組んで必死になってやり遂げましたが、こうした経験を通して人を育成するということが大事です。尊敬する吉田松陰ではないですが、会社が“Terra 道場”のような感じになればいいと思っているんです。決して緩くはなくて厳しい面はありますが、世界のビジネス分野で戦う人、ビジネスの“総合格闘家”になりたい人には、最も良い環境ではないでしょうか。
Terra Droneは上場しましたし、Terra ChargeもTerra Motorsも上場できる規模にはなっています。国内のスタートアップ企業で、海外で成果を出している会社、海外売上比率56%なんていう企業はほかにない。そうした目標は達成していますが、まだ実現されていないのは「メガベンチャー」になっていないことです。上場がゴールではなく、そこが次のチャレンジだと思っています。
世界はダイナミックに動いているし、激しい競争が起こっていて、どんどん凶暴になっています。日本国内にいるとその空気感を感じることが難しい。日本人はもっと外に出て知ってほしいですね。野球の世界では、アメリカで活躍している人がたくさん出てきているし、サッカーもそう。映画でも真田広之がゴールデン・グローブ賞を受賞しました。すごいことです。ビジネスの世界でなぜこういう人が出てこないのか、僕はいつも怒りに近いものを感じてしまうんです。もちろん僕たちはそこに一番近い位置にいると自負しています。
勢いを取り戻すには、日本人の力はこんなものじゃないと誰かが証明する必要がある。幕末に高杉晋作が不利な局面にあっても挑み時代を動かしたように、失敗を恐れず常識にとらわれないトップが率いるベンチャー企業である自分たちこそがやるのだ! と思っています。そして、日本のために世界で勝てるメガベンチャーとしての先駆けとなっていきます。