
食卓のバイプレイヤーはかくも逞しく、強かに
5/18(日)
2025年
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ビジョナリー編集部 2025/05/14
一般的に、『日本語教育機関』といえば、留学生向けの語学教育に特化したものが多い。だが、こうした枠を飛び越え、『総合教育機関』として成長している企業がある。それが、パスメイクグループ傘下の株式会社TCJグローバルである。
従来、日本語学校の多くは、進学や就職を目指す留学生に向けた授業が、主要な収益源となってきた。その背景には、日本での進学や就労の実現のためには高い日本語力が不可欠であり、そのための学費の支援体制も整っている点が挙げられる。
だが、TCJグローバルが目指すのは、それだけではない。日本に定住する就労者・生活者向けの教育、さらには教師の養成、就労先企業とのマッチングまで、「総合教育機関」 としての役割を打ち出している。
国内の生産年齢人口は減少の一途をたどり、今後、日本で働く外国人はさらに増加するという見方が強い。2024年時点の在留外国人は約376万人とされるが、2050年には1,000万人近くにまでなり、総人口の1割を占めるという推計もある。TCJグローバルは、こうした成長市場で、受講生数や教育ノウハウといった独自資産を強みにしている。
また、同社は日本語教師を養成する講座においても、全国有数の実績を持つ。自社で教材の開発やアセスメントの仕組みも整備し、国際認証であるISO29991を取得、教育水準の継続的な向上にも余念がない。動画を活用した通信講座や、海外での日本語教育、日本での就労支援など、事業拡大を加速させている。
このように日本語教育業界を牽引してきた同社は、どのような歩みを経てきたのだろうか。代表・中澤匠氏の軌跡を追っていく。
TCJグローバルの成長を牽引しているのが、代表取締役の中澤匠氏である。3人兄弟の長男として生まれ、シングルマザーの母のもとで育った中澤氏は、早くから自律心を強く持ち、女性のキャリア形成に関する課題意識も抱いていたという。
大学時代には、社会貢献を志し政治家を目指した時期もあったが、「人と社会に直接貢献できる仕事」 を求めて人材業界に関心を持つようになる。雇用の流動化が進むなか、成長企業である株式会社パソナに入社。その後、株式会社リクルートへ転職し、人材事業に携わる。営業MVPに選ばれるなど成果を重ねたが、2008年のリーマンショックで事態は一変。担当していた金融セクターが直撃を受け、本社のオンライン旅行事業部門へ異動となる。
当時、リクルートでは紙媒体からネットへの転換が進み、オンライン旅行予約サイト「じゃらんnet」が成果課金型モデルへの変革を推進していた。中澤氏は、営業やオペレーション構築、ホテル向け予約システムの導入プロジェクトをリード。大手ホテルチェーンの本部渉外も担当し、集客チャネルの刷新や稼働率向上に貢献した。
一方で、組織中枢の人材層と自分の間に大きな差を感じ、「経営の勉強が必要だ」と痛感。国内ビジネススクールで学び、中小企業診断士資格を取得(2013年登録)。この経験が、後の経営者としての土台となった。
2012年には、突如「アジアに行ってこい」と命じられ、インドネシア・フィリピン・ベトナムでのASEANオンライン旅行事業立ち上げに従事する。インドネシアでは、現地財閥系グループとのJV「Pegipegi.com」で営業拠点やオペレーションモデルの構築、システムのローカライズを担当。事業が軌道に乗ると、次はフィリピンへ。現地財閥系とのJV「Travelbook.com」で経営トップを経験し、AgodaやBooking.comといったグローバル競合に対抗。クレジットカード不要の決済手段やアクティビティ予約プラットフォームの導入など、独自の競争戦略を展開した。
こうして、本社から距離のある現地法人で、150名規模のテック系スタートアップの経営を任されたことは、運営・デジタルマーケティング・システム開発・管理など、経営の全側面に携わる貴重な経験となったという。厳しい競争環境の中で揉まれた日々が、現在の中澤氏の経営者としての視野と胆力を形作っている。
人材業界から教育業界にフィールドを移した中澤氏だが、「人の人生を変える責任を持った仕事」という軸は一貫している。日本語教育業界は変化への抵抗が強く、当初は「当たり前」が通じないことに戸惑う場面も多かったと振り返る。それでも、社員に本質的な問いを投げかけ、組織文化の変革を進めてきた。
参画直後、パンデミックによる入国制限で2年間にわたり外国人留学生の新規入国がストップ。一時的に業績悪化にも直面したが、成長志向の組織づくりと既存事業の強化、新規事業への挑戦を地道に積み重ねた。その結果、留学生事業の復活とともに、国家資格化の進む日本語教師養成講座や、就労・生活者向け事業でも大きな成長を遂げている。
今後は「グローバルNo.1の日本語教育ブランド」への飛躍を目指し、社会課題の解決にも取り組む構えだ。
中澤氏は現在、TCJグローバルの代表取締役に加え、国際資格・学位取得スクール「株式会社アビタス」の事業管掌取締役も兼任している。両社は顧客層や事業フェーズ、プロダクト特性が異なるものの、経営の本質は共通すると語る。戦略立案やオペレーション構築、組織づくりを通じて、幅広い視野で経営改革を推進している。
アビタスでも、国際資格や学位領域で強みを持ち、事業拡大や新展開を視野に入れる。こうした多角的な経営経験が、TCJグローバルの進化にも活かされている。
「社員の目が変わる瞬間」が、経営者として最もやりがいを感じる瞬間だ、と中澤氏は語る。
社員の成長が会社の成長に直結するという信念のもと、ただ長く勤めてもらうことよりも、「あのときあの会社で頑張った経験が今につながっている」と思えるような場を提供したいと考えている。無理と言われるような高いゴールにも挑戦し、全員で前進する。そして、自分の仕事や役割に誇りを持てる会社でありたい――。働く人の記憶に残る組織を目指すことが、やがて業績や社会へのインパクトにもつながると信じている。
TCJグローバルの挑戦は、単なる日本語教育の枠を超え、より広い社会課題の解決へと向かっている。