Diamond Visionary logo

10/1(木)

2026年

SHARE

    「人口減少」を「希望」に変える——創業100年へ、西京銀行 松岡頭取が挑む“地域創生”の新モデル

    「人口減少」を「希望」に変える——創業100年へ、西京銀行 松岡頭取が挑む“地域創生”の新モデル

     地方の人口減少や市場縮小が叫ばれる中、金融業界では再編や経営統合が加速している。そんな状況下において、2030年に創業100周年を迎える山口県の西京銀行は、「人に優しい」という独自のDNAを守り抜くため、単独での存続と新たな価値創造に挑み続けている。地元中小企業の海外進出支援から、若手行員によるハンズオン型の経営コンサルティング、さらには農業分野での画期的な労働力シェアまで、地方銀行の枠組みを超えたその取り組みは多岐にわたる。「課題先進地域だからこそ、すべての課題を希望に変えられる」と語る松岡 健頭取に、これからの時代を生き抜くための経営哲学と、未来へ向けた革新的なアクションについて伺った。

    「人に優しい」という100年のDNA。変わらずに生き残るために変わり続ける

    貴行はつねに革新的な取り組みをされていますが、まずは松岡様が目指す「西京銀行らしさ」について教えてください。

     当行は、2030年に創業100周年を迎えます。この100年の中で培われてきた私たちの最大のDNAは、 「人に優しい」 ということです。困っているお客様や、共に働く行員に対して、本当に優しく寄り添う姿勢が際立っていると自負しています。

     私たちのような金融業は、取り扱う商品やサービスそのもので他社との差別化を図ることは困難です。預金や住宅ローンといった金融商品はどの銀行でも同じように存在しますし、デジタル上で完結する時代においてはなおさらです。金利の高低といった相対的な違いはあっても、本質的な差にはなりません。だからこそ、商品を届ける 「人」で差別化をしなければならない と考えています。

     現在、地方銀行業界では再編や経営統合が強く推し進められています。インフラ業としての側面を持つ銀行は、規模を大きくすることで効率を上げるのが、経済合理的な一つの解だからです。しかし、私たちが100年かけて培ってきた「人に優しい」という価値を維持するためには、単独経営にこだわる必要があります。

     「不易流行」という言葉があるように、変わらずに残っていくためには、常に変わり続けなければなりません。 同じ地域にある大きな銀行と全く同じことをしていては、統合した方が良いと言われてしまいます。だからこそ、私たちなりの尖った価値を発信し、地域の皆様に共感していただきながら、自立可能なビジネスモデルを創り出す必要があるのです。生き残るため、そして私たちの「らしさ」を守り抜くために、常に新しいことに挑戦し続けています。

    人手不足よりも深刻な「市場不足」。地元企業の技術をインドネシアの成長市場へ

    差別化を図るための挑戦の中で、現在最も力を入れて推進している取り組みは何でしょうか。

     私たちの存在意義は、山口県という地域にあります。山口県は他県以上に人口減少や高齢化が進んでおり、課題が山積しています。その中で私たちが今取り組むべきは、地域に「成長市場」を作ることです。現在、日本中で人手不足が叫ばれていますが、より深刻な課題は「市場不足」です。

     そこで私たちは今年4月、インドネシアに現地法人を設立しました。これから人口が減少していく日本とは対照的に、インドネシアは現在約2億8,000万人の人口を抱え、さらに今後5,000万人ほど増えると予想されています。現地では工業高専などが整備されエンジニアが毎年多数誕生しているものの、彼らが働く場所が不足しているという、日本とは逆の「空前の就職難」が起きています。

     人口が増加すれば、工場や住宅が建ち、下水道などのインフラ整備が急務になります。実は、そうしたインフラ構築を支える技術を持っているのが、山口県の中小企業なのです。 コンビナートの配管やタンクを作る技術、住宅を建てる工務店の技術など、国内では需要が縮小していく素晴らしい技術が、インドネシアでは喉から手が出るほど求められています。

     私たちは現在、地元企業の社長たちをインドネシアにお連れし、成長市場への進出を提案しています。自分たちの技術が現地でどう活きるのか、印刷工場などの視察を通じて直接見ていただくことで、自社の持つ本当の価値に改めて気づいていただけるのです。こうしたビジネスマッチングの橋渡しは、大手のシステム会社やメガバンクの手が届きにくい領域であり、地方銀行である私たちだからこそ担うべき重要な役割だと考えています。

    買われる側から「買う側」へ。資本力のある地元企業による攻めのM&A戦略

    地方の企業が生き残るための手段として、他にどのようなアプローチを提案されていますか。

     一般的に、地方企業は事業承継者がおらず、M&Aにおいて「買われる側」になるというイメージが強いかもしれません。しかし、山口県に関して言えば、コンビナートの下請け企業などを中心に、無借金で資本力のある豊かな中小企業が数多く存在します。

     そこで私たちが進めているのが、地方の企業が東京や大阪の企業を「買う」という、攻めのM&Aです。

     実際に私たちが仲介し、山口県の企業が大阪の会社を買収したケースがあります。その大阪の企業は後継者不在で、技術ノウハウを持つ創業会長と社長の間で対立が起きていました。しかし、買収後に山口県の企業の会長が大阪へ赴いたところ、すぐに要領をつかんで経営状態が劇的に改善し、現地の社員から「神様」のように感謝されることとなりました。結果として社内の対立問題も解消され、素晴らしい相乗効果が生まれたのです。

     現在、M&Aの案件自体は証券会社などから多数持ち込まれますが、経営者が判断に迷い、チャンスを逃してしまうことも少なくありません。そこで私たちは、M&Aを実行する前の段階からコンサルティングに入り、自社にどのようなシナジーが必要なのか、M&Aの指針づくりをサポートしています。知られざる地元企業の資本力を最大限に生かすことも、私たちの成長戦略の一つです。

    20代の行員が社長の壁打ち相手に。企業の課題を「共に解決する」コンサルティング

    貴行では、若手行員の方々が非常に高い提案力を持っていらっしゃると聞きます。人材育成の面で工夫されていることはありますか。

     数年前からビジネスコンサルティング事業を本格化させ、現在は約40名の専門部署を設けています。この部門の大きな特徴は、大半が20代の若手行員で構成されていることです。

     私たちは、あらかじめ用意したコンサルティングメニューを売り込むようなことはしません。企業の経営課題を直接聞き出し、それを「共に解決する」というスタイルをとっています。20代の若手行員が中小企業の社長のもとに通い、壁打ち相手として月に数回のディスカッションを行います。経営者というのは孤独で、社内に相談相手がいない方が多いため、こうした対話に非常に飢えているのです。

     課題を聞き出した後は、ITリテラシーの高い若手行員が、クラウドサービスなどを選定して業務改善を提案します。また、企業の50周年記念イベントなどの企画・運営から、動画やプレゼン資料の作成まで私たちが請け負うこともあります。「私たちができないことは何もない」というスタンスで、あらゆる経営課題に寄り添っています。

     若手行員が50代の経営者と真剣に向き合い、お金をいただきながら生々しい課題を解決していく。プレッシャーの中で本気の課題解決に取り組むことこそが、最も効果的な人材育成につながっていると実感しています。

    変革には痛みが伴う。だからこそ、従業員と顧客の「共感」に徹底的にこだわる

    銀行のトップとして、ご自身が仕事をする上で最も大切にされているお考えについて教えてください。

     私が経営において最も大切にしているのは、 「共感を得られているかどうか」 ということです。いくら正しい戦略であっても、共に働く行員や、サービスを利用するお客様の共感がなければ、物事は前に進みません。

     例えば、私たちは数年前に店舗のカウンターをすべて撤去し、カウンターレス化を実施しました。結果的にはお客様にも好評で働きやすい環境になったのですが、導入時には「あと1年で定年退職なのに、なぜ今から新しいオペレーションを覚えなければならないのか」と反発する声もありました。また、数年後には当行のATMをすべてセブン銀行様のATMに置き換える決断もしています。これにより通帳での記帳ができなくなるため、それを頼りにされている高齢のお客様にはご不便をおかけすることになりました。

     こうした不可逆的な変革を進める際、「効率化のためだから仕方ない」と切り捨てるのは簡単です。しかし、私たちはそうはしません。どんなに正しい施策でも、不利益を被る人たちにしっかりと寄り添い、積極的な賛成は得られなくても、少しでも共感してもらえるよう努力を尽くす。 それこそが、私たちが100年守り抜いてきた「人に優しい」という価値観なのだと思います。

    すべての課題を希望に変える。銀行員が農作業を担う新たな地域エコシステム

    4年後の100周年に向けて、これからの未来、お客様にとってどのような存在を目指されていますか。

     山口県は人口減少や高齢化が進む「課題先進地域」です。しかし私は、それをポジティブに捉え、 「すべての課題を希望に変えていく」 存在でありたいと考えています。ここで生み出した解決策は、いずれ日本全体、ひいては世界のモデルになるはずだからです。

     その具体的な取り組みの一つが、「農業」です。山口県は農業の大規模法人化が先進的に進んでいますが、担い手は70代後半となり、約80%の法人で後継者がいないという深刻な課題を抱えています。このままでは広大な農地が一気に耕作放棄地になりかねません。

     そこで私たちは、東京のスタートアップ企業と共同で農業法人を立ち上げ、農地を集約して高付加価値な「有機米」の生産と輸出を始めました。有機米に変えることで販売価格が上がり、農業従事者の所得向上につながります。ここでネックになるのが、夏場の草取りなどの労働力です。そこで、当行にいる600〜700人の行員が、福利厚生の農業体験や、副業としてのアルバイトを通じて労働力を提供する仕組みを作りました。

     100%専業で農業に従事しなくても、地方銀行というリソースを掛け合わせることで、地域農業を持続可能なエコシステムへと変えることができます。農業という課題が希望に変わる瞬間です。「未来は変えられる。一緒に未来を変えていこう」。そんなメッセージを発信しながら、次の100年も地域と共に歩み続けていきたいと考えています。

    #地方銀行#地方創生#地域活性化#経営戦略#M&A#海外進出#中小企業支援#人材育成#人口減少#農業

    あわせて読みたい

    記事サムネイル

    「道徳銀行」が描く地域の未来。埼玉りそな銀行・篠...

    記事サムネイル

    「どうやってお客様を喜ばせ、驚かせようか」——伊...

    記事サムネイル

    「ご飯がススムキムチ」はどのようにして生まれた?...

    記事サムネイル

    医学と密教から導き出した「大欲得清浄」の経営哲学...

    Diamond AI trial

    ピックアップ

    Diamond AI
    Diamond AI